43ー魔力回路
とにかく心配だから見に行こう。
「坊ちゃま、行かない方が良いです。邪魔になったらいけません」
え、邪魔になるのか? そっか、赤ちゃんが行ってもな。いやでも、母が心配だ。だってジョブが戦闘系じゃないんだから。
「奥様は一番大丈夫ですよ。奥様の侍女は私より強いのですから。それにリンリンもいます」
「あばば!?」
そうだった。リンリンが一緒にいるんだ。
それにしても、母の侍女のジョブって蟲使いだろう? 蟲使いってそんなに強いのか?
「ちゅよいみゃ」
「あぶ?」
「そうですね、小さな蟲を操って敵の身体の中に侵入させるんです。身体の中に攻撃するんですよ。あれは抵抗できません」
「あばー」
お、おう。ちょっと想像したら気持ち悪い。俺、蟲って駄目なんだよ。何本も足があるのは苦手。黒光りなんてしていたら、もう最悪だ。
そのうち、邸の中が静かになった。もう終わったらしい。
そして、俺の部屋のドアが開いた。
「ラウ! フク!」
「ああーちゃ!」
「奥様、大丈夫ですよ!」
母が隣の部屋から小走りにやって来た。俺を見て一言。
「あら? どうしてかしら?」
どうしてかしら? じゃない。俺の方が、どうしてかしら? と言いたい。
何故なら母はリンリンを肩に乗せて、俺と同じように宙に浮いていたんだ。
「ああーちゃ」
「ラウ、母様と一緒ね。うふふ」
うふふじゃない。ミミと一緒で、リンリンが母を浮かせているのだろうけど。
母は普通に歩けるのに、浮く必要があるのか?
「だってこの方が早いのよ~」
「ああーちゃ」
「あらあら、ラウがバインドしてくれたの? 有難う。じゃあ、引き取っていくわね。フク、ラウをお願いね」
「はい、奥様」
全く心配する必要がなかったみたいだ。
怖がってもいない。勿論、傷一つ負っていない。髪も乱れていない。いつも通りだ。
母は俺がバインドしていた侵入者達を、フワリフワリと浮かせて連れて行った。
リンリン、グッジョブだ。
「ありしあしゃまは、ちゅよいみゃ」
「あぶあ?」
母が強いのではなくて、リンリンが強いんじゃないのか?
「らうみぃ、なにいってるみゃ。ありしあしゃまも、ちゅよいみゃ。まほうがじょうじゅみゃ」
そうか、母も魔力量が多いと前に言っていたな。
やっぱあれか、俺が一番しょぼいのか?
「らってらうみぃは、まらあかちゃんみゃ」
「あぶ」
「けろ、いちばんよわくはないみゃ」
お、そうなのか?
「いっぱい、れんしゅうしたからみゃ。みみのおかげみゃ」
なんて言っている。どうだと、小さな鳩胸を張っている。
侵入者はきっとどこかの部屋に集められているのだろう。見に行きたい。
「ぶばー」
「駄目ですよ、坊ちゃま」
「ぶぶぅ」
と、俺は眠くなってきた。ほっとしたからかなぁ?
「らうみぃはまら、まほうをちゅかうことに、なれていないみゃ」
「あばー」
そうなのか? もしかして魔力切れってやつなのか? 前の時でも魔力切れになった事なんてなかったぞ。
「ちがうみゃ。まりょくかいろが、なじんれないみゃ」
なんだって? 魔力回路なんて聞いた事ないぞ?
大賢者だった時だって、そんなの知らなかった。
「あたりまえみゃ。ひとはしらないみゃ」
ほうほう、で? 辿々しい喋り方でミミが教えてくれた。
人でも精霊でも、身体全身に張り巡らされているのが魔力回路というものらしい。
人でいうと、毛細血管の様に身体の隅々にだ。それは魔法を使う事で鍛えられていく。そして魔力量も増える。
魔力を身体の中で練り上げるのは、魔力回路に魔力を行き渡らせているんだ。それで魔力回路が、魔力に馴染み発達する。
だから、魔法を使う頻度の高い人ほど魔力量が多く、色んな魔法が使えたりする。
複数の属性の魔法ではなく、同じ属性で威力の高いものが使えるようになるといった感じだ。
俺は元大賢者だった。その時は全属性が使えたし、回復魔法だって使えた。
だが、今は前ほど回復魔法が使えない。低位の回復魔法程度しか使えないんだ。
それは魔力回路の発達と馴染の問題なのだそうだ。なにしろ赤ちゃんだからな。
生まれたばっかりだ。17歳の時の俺と比べたら駄目なのだろう。
「らうみぃ、あかちゃんれ、こんなにちゅかえるひとなんて、いないみゃ」
「あう」
そりゃそうだろう。普通は魔法の練習なんてできないだろうし。
「あしぇっては、だめみゃ」
「あばぁ」
ふむふむ、それも一理あるかと俺は腕を組んで考える。
が、流石赤ちゃんだ。その内、瞼が勝手に閉じてきてウトウトとしだした。
コテンと横になってしまう。
「あらあら、坊ちゃま。ベッドに行きましょうね」
「ぶぶぅ」
おフクに抱っこされ、ベッドに寝かされる。ミミも俺の横にいる。
今回、精霊女王やミミを知った事で確実に変化しているだろうと思いたい。
焦ってはいけない。ミミがそう言った。その通りだろう。
だけど俺は、何かをせずにはいられない。
少しでも確実なものが欲しい。
あの時、俺の胸を突き刺している剣を覚えている。あの身体が燃えるような熱さと激痛をだ。
だから時々俺は……
「あぎゃー! あぶッ、あぶッ、ふんぎゃー!」
と、火が付いた様に泣きながら目が覚める時がある。夢に見るんだ。
背後から剣で貫かれている夢を。それは夢見が悪いなんてもんじゃない。
まるで忘れるんじゃないぞと、言われているかのようだ。
お読みいただき有難うございます!
残念ながら書き溜めできていなくて、来週はお休みするかも知れません。
改稿作業の合間に書いていますので、その進み具合によるのですが。
感想も有難うございます!
お返事できなくて申し訳ないです。
が、ちゃんと読ませて頂いてます。
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