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39ーめっ!

「ああーちゃ!」


 褒めて、出来たぞ! と、俺は母に要求する。小さな手をパチパチと叩きながら。

 ふんふんと、身体も揺らしている。


「ラウ、父様のところへ来られるか?」

「ああーちゃ!」

「いや、父様だ」

「ああーちゃッ!」

「こんな時でも父様は無理なのかぁーッ!?」


 ほら、また一人でエキサイトしている。本当は父って熱い人なんだ。

 喜んでくれないのか? 驚くだけなのか?


「ラウ!」


 名前を呼びながら、俺をガシィッと抱き締めた。母の膝の上にいるのにだ。


「私の子は天才かぁッ!」

「あなた、暑苦しいですわ。落ち着いたらどうですか?」

「アリシア! これが落ち着いていられるかぁッ!?」


 ちょっと暑苦しいからおフクのところへ戻ろう。と、また転移する。

 シュンッと母の膝の上から消えて、おフクの元へ。

 それまで抱きしめていた俺がいなくなったものだから、父が母の膝に顔を埋める格好になった。

 ブブブッなんて変な声を出している。


「ぶばー」

「ラウ坊ちゃま、どうなっているのですか? フクには理解できません」


 自分の膝から父を引っ剥がし、母が真剣な顔をして俺に言った。


「ラウ、お外でしちゃ駄目よ。めっなのよ」

「あうあー」


 ヒョイとまた手を挙げる。そうか、他の人の前ではするなという事だな。了解だ。


「はい、あなた。話を進めてくださいな」


 平然として母はお茶を飲む。

 対して、父だ。まだ母の前に跪いている。母に引っ剥がされたままの体勢だ。


「アリシア! そんな問題なのか? それだけで良いのか!?」

「ラウはできちゃったのですもの、仕方ありませんわ」


 今日の茶葉は美味しいわね。なんて言っている。母の方が肝っ玉は据わっているらしい。


「いやいや! 普通、0歳児ができませんって! 大人でも普通に無理ッス!」

「アンジー、煩いわよ」

「いやいやいや! だって凄い事ッスよ! もし教会や陛下に知られたら……」

「だから外ではしないようにって、言ったじゃない」


 なるほど、そういう事か。国や教会にバレないようにって事なのか。

 0歳児で転移できるなんて事が知られたら、もしかして監禁でもされたりするのだろうか?


「あぶあ」

「ラウも分かっているわよね?」

「あう、ああーちゃ!」


 またまたヒョイと手を挙げる。オッケーだぞ。


「今日はラウの転移記念日だぁッ!」


 父は記念日が好きなのだろうか? たしか、一歩記念日もあったぞ。


「らうみぃは、しゅごいみゃ」

「ミミ、そうだな」

「なんれも、しゅぐ(すぐ)におぼえるみゃ」

「ん? なんでもだと!?」


 こらこら、ミミ。一言多いんだ。だから余計な事を言うんじゃない。途端に挙動不審になるミミ。


「み、みみは、なにもしらないみゃ〜」


 今頃言っても遅いんだ。ほら、父がまた俺をガン見しているじゃないか。


「ああーちゃ」

「はいはい。家の外で魔法を使ったら駄目ですよ。めっなのよ」

「あば!」


 お決まりの様に、俺はまた手を挙げた。


「それだけッスか!? それでいいんッスか!?」


 きっと、父とアンジーさんは熱い性格なんだ。ふむふむ。

 ムッチムチの腕を組み、片方の手の指をプニッと額に当てる。俺が考える時のポーズだ。


「坊ちゃん、何落ち着いてんッスか!?」

「あばーぶぶぶ」

「ふふふ、ラウはちゃんと理解しているわ。心配ないわよ」

「そうッスか? でも0歳児ッスよ?」

「ええ、大丈夫よ。ね、ラウ」

「あば」


 当然だと、また手を挙げる。


「マジ、お利口ッスね。俺、意志疎通ができる0歳児って初めてッス」

「あうあー」


 そりゃ、俺は元大賢者だからな。元だけど。


「さて、今度こそ落ち着こう」


 みんな落ち着いているんだ。落ち着いていないのは、父とアンジーさんだ。

 こんな感じで、まさかの転移騒動もあっという間に受け入れられた。しかも記念日だとか言い出した。

 これは母の度量が大きいのだと俺は思う。

 父は外ではポーカーフェイスなのだろうけど、家ではそうじゃない。

 こと、母と俺の事に関しては一喜一憂する。未だに俺が『父様(とうさま)』と言えない事でもそうだ。これが本当の父の性格なのだろう。

 俺はどっちに似ているのだろう? 前の生の時は自分は父似だと思っていた。こんな熱い父を知らなかったから。

 だが、いまは違う。俺って両親の性格を半分ずつ貰っているのだなと思う。

 父ほど熱くはないが、母ほどクールでもない。俺は至って普通だ。

 

「ああーちゃ」


 俺は母を呼びながら、ギュッと抱きつく。

 当たり前なのだけど、0歳児がこんなに自分の意思を持っていないだろう。記憶だってない。

 俺は何の因果なのか、この生をやり直しのチャンスを貰ったと思っている。前回の記憶を持ったまま、意思を持ったままだ。

 それで初めて気付く事が沢山ある。俺はこんなにも両親や周りの人達に、守られ可愛がられて育ったんだと。

 この家族を守りたいと、心から思う。

 それと、忘れてはいない。大切な婚約者の事だ。

 俺より数か月だけ後に生まれた令嬢。アコレシア・クローバ。クローバ侯爵家の令嬢だ。

 今頃、おぎゃーと産まれているはずだ。

 7歳の時に母のお茶会で初めて会う事になる。

 それまで待ち遠しい。


お読みいただき有難うございます!

熱いラウパパが大好き♡

宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ラウちゃん、早く「父様」と言って上げてね。 当分の間は無理かもしれないけど。 なんか父様が哀れに見えて••••• [一言] この家は、母様で持っているのねʅ(◞‿◟)ʃ
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