38ー落ち着こう
「あぶ」
「え、坊ちゃん!?」
その時だ。シュンッと一瞬で、おフクの腕の中へと移動していた。おフク、ナイスキャッチだ。
あれ? どうしてだ? 俺は確かに、父に抱っこされていた。なのにどうして、今おフクの腕の中にいるんだ? と、自分でも直ぐには理解できなかった。
「らうみぃ……やっちゃったのみゃ」
「あう?」
「坊ちゃま!」
おフクが驚いて声を上げる。ミミが何故かジト目で俺を見ている。鳥さんなのに。
いやいや、俺だって驚いたぞ。
「あば!」
「え……」
アンジーさんが驚き過ぎて、固まっている。
「アンジー、声を上げるなよ」
「殿下、だって今坊ちゃんが……」
「言うな。他に誰も見ていないな? 皆、このまま会議室へ移動するぞ。」
そのまま、その場にいた者全員で例の会議室へ移動だ。
両親と俺を抱っこしているおフク、それにアンジーさんと執事のノーマンだ。
完璧に魔法で防音された会議室に、入った途端に父が叫んだ。
「ミミ! どうなっているんだぁッ!?」
「みゃみゃみゃ!? みみなのみゃ!?」
「ラウの能力を確認するように言っておいただろう!」
「してるみゃ! ちゃんとしてるみゃ! けろ、ふかこうりょくみゃ!」
「あぶぶ」
まさか転移してしまうとはな、ふっふっふ。俺の才能が溢れ出ているって事だ。
「らうみぃ、なにいってるみゃ!?」
「あばー」
あれって転移なんじゃないか? 最近ずっと色々練習していたから無意識に転移したんじゃないかと思うぞ。ほら、俺って大賢者だったし。
「らうみぃ、しょんなこと、いってるばあいじゃないみゃ!」
「あうあ、ああーちゃ」
「ラウ、もしかしてあなた、転移したの?」
「あうあぶ、ああーちゃ」
母の言葉に頷くように両手をパシパシと叩く。褒めて、褒めて。俺って凄くない? と、訴える。
「転移だぁとぉーッ!?」
父の大きな声が会議室に響いた。
防音してあって良かった。
「皆、一度落ち着こう」
ふぅーッと息を吐いて、父が耳に残る様な良いバリトンボイスで言った。自分が一番大きな声を出して取り乱していたのに、今は涼しい顔をして座っている。
ノーマンが横から静かにお茶を出した。
父は足を組み、優雅にお茶を飲んでいる。
「あうー」
「フク、ラウにも飲み物を」
「はい、奥様」
うっす~い果実水を貰う。最近口にできる物がまた増えたんだ。日に日に俺は成長しているのだ。
コクコクコクとそれを貰って飲む。と言っても、まだ自分一人では飲めないから、おフクに飲ませてもらっている。ストローがあれば良いのに。
「みみものむみゃ。ももじゅーしゅがいいみゃ」
「はいはい」
なのになんだか空気が重いのは何故だ? 俺は母を見る。
「ああーちゃ?」
「そうね、もう少し黙っていましょうね」
「あう」
と俺は手をヒョイと挙げる。
「い、今のは……?」
「ふふふ、最近分かったと手を挙げる様になったのよ」
「ラ、ラウは天才かぁッ!?」
はいはい、また声が大きくなってきたぞ。さっき自分で落ち着こうと言ったところなのに。
なんだったら俺の歩きも披露しようか? 一瞬しか歩けないけど。
「ふぅ~、落ち着こう」
また良い声で言った。父以外はみんな落ち着いている。
父だけだぞ、大きな声を出して取り乱しているのは。
「ラウ坊ちゃん、ちょっと見ない内にお利口になったッスね」
「あぶあー」
当然だ。赤ちゃんの成長は早いのだぞ。
昨日までできなかった事が、今日はできたりする。それに俺は、毎日練習しているのだから当然なのだ。
「さて……ラウ」
「ぶぶ?」
え? 俺か? そう思いながら、まだおフクに果実水を飲ませてもらっている。
喉が渇くんだ。ほら、赤ちゃんって代謝が良いだろう? 知らないけど。
「ラウ、もう一度できるか?」
「あうあー?」
えっと、何かな? もしかしてさっきの転移の事を言っているのかな? て、それしかないか。
「らうみぃ、ばれば~れなのみゃ」
「あば」
ばれば~れとか言うな。こっそり何かしていると思われたらどうするんだ。
だからミミ、内緒だと言っていただろう? 覚えているか? ポロッと喋るんじゃないぞ。
「みみは、おりこうみゃ」
「あぶ」
父の視線が痛い。すっごく俺に注目している。身体を乗り出して、めちゃくちゃジッと見てくる。
これは見せるしかないか?
「ばれてるみゃ」
「あば」
また言った。ミミ、だからバレてるとか言うなって。
「らうみぃの、のうりょくをかくにんしゅるように、いわれてるみゃ。みみのやくめみゃ」
「あうあー」
だからって何をしているのかは、絶対に言うんじゃないぞ。
偶々だ、偶々できたって事にするんだ。
「わかったみゃ」
ミミとこんな話をしている間も、父はずっと見てくる。ガン見というやつだ。
仕方ない。披露するか……て、まだ意識して転移した事ないんだが。
「あばー」
俺は自分の魔力を意識して……ほいっとな。
瞬時におフクのお膝の上から、母の膝の上へ移動した。転移成功だ。
一瞬、俺の身体が消えたかと思ったら、次の瞬間には母の膝の上にいたという感じだろうか。
俺ってやるじゃん。やっぱ伊達に大賢者だった訳じゃない。
「きゃっきゃ!」
手を叩いて喜ぶ俺。それをガン見する父とアンジーさん。
少し離れた場所に立っている、ノーマンまで眉をピクッと動かして目を見開いている。
お読みいただき有難うございます!
ラウの最初のやらかしです。盛大にやらかしてます。^^;
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