37ー氷が溶けている
ちょっとミミ、大きくなって俺を乗せて飛んでみないか?
「みゃみゃ、なにいってるみゃ!」
試しにだ。ミミは姿を消せるんだろう? 消して飛んでみよう。これも練習だ。
魔王城の近くまで、俺を乗せて飛んでもらわないといけないのだから。
「ふちゅうにかんがえて、らうみぃはまらあかちゃんらから、おちるみゃ」
「あぶ?」
え、そうか? そこをうまくミミの魔法で、ちょちょいとなんとかならないか?
なんなら俺が風属性魔法と重力魔法でなんとかするし。
「ならなくもないみゃ。けろ、らうみぃ。あぶないみゃ」
「あば」
そうかな? 意外と簡単にいける気がするんだ。
ミミが大きくなったら、俺が楽勝で乗れる大きさだ。ちょっとその辺飛んでみないか?
「らうみぃは、むぼうみゃ」
「あう」
そうか? 普通だろう? 本番前に練習しておくのだから、無謀ではなく慎重だと言ってほしい。
どっちにしろ、おフクがいるからできない。
俺って0歳児だから一人になる事ってないんだよ。以前攫われてから余計にだ。過敏になっている。
邸の皆がだが、特におフク。メイドに攫われるなんて事が起こったのも、自分が目を離した所為だと未だに思っている。
そんな事はない。あれは不可抗力だ。あの貴族に雇われていたメイドが悪いんだ。
「あぶあ」
「らうみぃ、もうしゅこし、たいみんぐをかんがえるみゃ」
「あば?」
そうか? だって覚えたなら使いたいじゃないか。大きいミミにも乗って試してみたいぞ。
そんな事を話していた。深く考えずに興味本位でさ。
俺はこの身体で魔法をマスターした事で、使いたくてウズウズしていたんだ。
そんな日、お久しぶりの父が早くに帰って来た。
「坊ちゃま、お出迎えに行きましょうね」
「あうー」
最近どうしていたんだか、数日ぶりの父だ。あの事件の捜査をしているのだろうか? 何にしろ毎日忙しくしているらしい。
俺は数日会った事がないから知らないけど。前の生でも、父はあまり家にはいなかった記憶がある。
おフクに抱っこされて母と一緒に玄関まで行くと、もう玄関の扉をあけて執事のノーマンが待機していた。
いつもビシッと執事服に身を包み静かに控えている。
直ぐに父の馬の蹄の音が、外から聞こえてきた。
「あば、あばー」
「はいはい、旦那様のお帰りですよ」
「あぶあー、ああーちゃ」
俺は母に両手を出す。抱っこしてくれーとだ。母と一緒にお出迎えをしようではないか。
「ふふふ。ラウ、いらっしゃい」
母に抱っこされ父を待つ。直ぐに門を入って来る馬が見えてきた。
父一人しかいない。またアンジーさんを置いて走ってきたのだろう。
馬からヒョイと降りて、ツカツカと両手を広げて駆け寄ってくる。
「アリシア! ラウゥ! 会いたかったぞぉーッ!」
「あばばばー」
相変わらず、熱い父だ。これでも氷霧公爵の異名を持つ。
だからどこが氷だよ。氷なんてとっくに溶けているぞと、いつも思う。
母ごと父にガシィッと抱きしめられる。これもいつもの事だ。
「あなた、ですから埃っぽいですわ」
「アリシア! いつもクールだぞぉ!」
父が熱いんだって。自分の両親がこんなにラブラブだったなんて全然知らなかった。気付きもしなかった。
寧ろ二人共クールだと思っていた俺は、両親の何を見ていたのだろう。
取り敢えず、母に抱っこされながら父の腕をペシペシと叩く。苦しいんだって。
「お、おお! ラウ、力が強くなったか!?」
「ばぶ」
そんな事はない。0歳児の赤ちゃんが筋トレしているわけじゃあるまいし。いくら育ちざかりだといっても、そんなに早く成長はしない。
だが、何度も言うが俺は0歳児だ。久しぶりに会うと嬉しい。つい手を伸ばしてしまう。
「あばー」
「ラウ、父様だ。父様」
「ああーちゃ」
「いや、違う。父様だ」
「ああーちゃッ!」
「ふふふふ、まだ無理みたいですわよ」
「ああぁーッ! 無理なのかぁーッ!」
そんな馬鹿な事をしながら、俺を抱っこしてくれる。
母やおフクと違って、力強い。片手でヒョイと抱っこされる。そして、高い高いだ。
「きゃー! あば! きゃっきゃ!」
めっちゃ喜んでしまう俺。超0歳児だ。
「ほぅーら、ラウ! 父様だぞーぅ!」
「ああーちゃ!」
何度言われても、言えないものは仕方がない。
「殿下ぁー! また一人で先に行くの止めてくださいよー!」
アンジーさんが帰って来た。今日は早いじゃないか。いつも会議室に移動してからしか戻って来ないのに。
「今日はまだゆっくりだっただろう」
「どこがッスか!」
肩で息をしている。馬に乗っているのだろう? それでも肩で息をする程なのか?
「殿下は早すぎるんッス! 殿下の馬はどうなってんッスか!?」
「ナンシーは特別だ。私が仔馬の頃から手塩にかけて育てて訓練した馬だからな」
ん? ナンシーとはなんしー? 側近のアンジーさんに、馬のナンシー?
父の馬の名前だそうだ。雌馬で、黒い体躯に黒い鬣、鼻筋にある白い模様が流星という形になっている。とっても毛艶が良く、艶々と光っているように見えるらしい。
父にしか背中を許さない、気難しい馬なのだそうだ。
だが、うちの馬小屋担当者には懐いている。きっと餌がもらえるからだろう。それのどこが気難しいのかというと、父以外の人は乗せないどころか近寄るとギロッと睨んでくる。
馬に睨まれるってどうなんだ?
「ラウ坊ちゃん、久しぶりッスねー」
「あうー」
アンジーさんが俺の頭をグリグリと撫でる。これは撫でるといっても良いのか?
ちょっと激しいから、逃れようとおフクに手を伸ばす。
お読みいただき有難うございます!
やっぱ一度一日複数話投稿してみようかなぁ?
あまりの低空飛行にちょっと焦る^^;
ま、ぼちぼち投稿しますので、宜しくお願いします。
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宜しくお願いします。