35ー爆睡していただろう?
「ふふふふ」
精霊女王は笑って見ている。
ミミは起きない。精霊女王も笑っていないで、起こしてほしい。進展しないじゃないか。
いつまでたっても、作戦会議が始められない。
「しょうがないわね。ミミ、起きなさい」
「むにゃむにゃ」
起きないぞ、こいつ。どんな神経しているんだ。
「ミミ! ミミ!」
と、精霊女王が名を呼びながらパンパンと手を叩いた。それでも起きないから、精霊女王の掌から見えない何かが飛んだ。
何だ? 何を飛ばしたんだ? それはミミの顔面にボフッと当たって霧散した。
「みゃ」
やっと起きた。あれ? 痛くはないらしい。
こんなので、ミミは大丈夫なのか? 本当に頼りになるのか? 俺はとっても不安だ。
未だにミミの凄いところを見た事がない。
「ふふふ、大丈夫よ」
「あばー」
とても大丈夫には思えない。まったく思えない。
「なんみゃ? なんれここにいるみゃ?」
まだ寝ぼけているらしい。教えてあげよう。
ミミは寝ていたんだ。ここは精霊女王の世界だ。
「みゃみゃみゃ!」
と見回して、精霊女王の姿が目に入ったらしい。途端にミミの顔色が変わる。いや、鳥さんだから顔色なんて分からないんだけど。それだけ焦っている感じって事だ。
「しぇ、しぇ、しぇいれいじょうおうしゃまみゃ!」
「ミミ、ちゃんとしなさい」
地の底を這うような、低い声で精霊女王が言った。
こういうのを、凄みを利かせるという。おお怖い。怒らせたら駄目なタイプの人だ。
「みゃみゃ! ちゃんとしゅるみゃ! おきたみゃ!」
はいはい、やっとだ。
俺は早く、出来るミミを見てみたい。今のところ、良いとこないぞ。
やっと目を覚ましたミミは、バサバサと飛びながら慌てていた。気が動転していたとも言う。
「みゃみゃみゃ!」
「ミミ、落ち着きなさいな」
「みみは、ちゃんとやってるみゃ!」
はいはい、起こされるまで爆睡していたのだから、真実味が全くない。
まあ、落ち着け。これからが本題なのだから。
「らうみぃ、おこしてほしかったみゃ」
「あば」
羽をバタバタさせて、焦りながら俺に言ってきた。
何言ってんだ。何回も叩いて起こそうとしたんだ。全然起きなかったんだよ。
「みゃみゃ? しょうなのみゃ?」
「あぶ」
そうだよ、だから精霊女王に起こされたんだぞ。それでだ、やっと作戦会議ができる。
さて、精霊女王。
「ふふふ、ミミの出番よ」
「しょうなのみゃ? なんなのみゃ?」
「あうあー」
だから昼寝をする前に話していた事だよ、シールドだ。魔素をシャットアウトする完璧なシールドを覚えたいんだ。
その練習をしたいから、教えてくれないか?
「らから、ろうしてしょんな、しーるろなのみゃ?」
「あぶあー」
俺は精霊女王に話したのと同じ様に、ミミにも話して聞かせた。いくぞ、魔王城へと。
途中までミミが乗せてくれたら、あとは俺が魔王のいる場所まで転移する。
「みゃみゃみゃ! しょんなことらめみゃ!」
「あぶ」
駄目じゃないんだ。やるんだよ。どうしてもだ。これは譲れない。
小さな赤ちゃんの俺が、でっかいミミをジッと見つめる。
「じしゃつちゅこういみゃ!」
「あう」
おう、自殺行為ってか。ミミは言葉はよく知っているんだ。なのに、その辿々しい喋り方はどうしてだ? とっても不釣り合いだ。
「ふふふふ」
精霊女王が笑っている。まるで子供を見るかの様に。いや、俺って赤ちゃんだけど。
精霊女王にしてみれば、ミミも子供と同じなのだろう。
「どうしてなのか、ミミはその喋り方なのよ」
「あば」
そうなのか? まあ、俺はもっと喋れないけどな。何しろ、まともな言葉を話せない。
あばーとか、あうとしか口から出てこない。気持ちは喋っているつもりなんだ。
それよりも、シールドだ。
「ミミ、そう簡単にはマスターできないと思うわ。でもラウは本気なの。だから教えてあげてちょうだい」
「しぇいれいじょうおう、ほんきなのみゃ?」
「ええ、本当に魔族との戦を回避できるのなら、私達精霊にとっても良い事だわ」
「しかたないみゃ。これから、とっくんなのみゃ」
「あば」
頼むぜ。それと、この事は絶対に話したら駄目だぞ。
そこを守ってほしい。ミミは直ぐに喋ってしまいそうだからな。
「ろうしてみゃ?」
「あぶー」
決まっている。母や父が心配するだろう。きっと反対される。どうしてそんな事をするんだと聞かれたら、俺が一回目の時の結末を話さなきゃいけなくなる。
それは避けたいんだ。話したくない。あんな最悪の結末を話せるものか。
「しょうなのみゃ?」
「あうあ」
そうなんだよ。ミミにはこの気持ちは理解できないか?
「しょれいじぇんに、しょんなことをしゅることが、りかいれきないみゃ」
「あう」
最悪の結末を変える為だ。俺が殺される事だけじゃない。家族と婚約者を守りたいんだ。
俺が守らないでどうする。結末を知っているのは、俺だけなのだから。
ずっと考えていたんだ。これから先、魔族の侵攻が起きるまで17年ある。それまでに時間を掛けて準備するんだ。できる事は何でもする。
もしかしたら、強力な助っ人と出会えるかも知れない。逆に今の思いが薄れていくのかも知れない。それでもきっと俺は、あの結末を忘れない。忘れられるはずがないんだ。
だから俺自身の意思で、魔族の侵攻を回避できるように運命を選ぶ。
それは俺にしかできない事なんだ。
「らうみぃ……」
「あば?」
おう、何だ? 羽をパタパタさせながら、心なしか丸い小さな目がウルウルしている様にも見える。
お読みいただき有難うございます!
いつまでも赤ちゃんで、需要があるのか?と、ご指摘頂いたのですが、赤ちゃんの時にラウにさせたい事があるのです。
もう少しだけお付き合い頂けると嬉しいです。
ミミのセリフが読み難いともご指摘頂きました。
全部ひらがな表記なのは変更しません。ですが、読み難いだろうなと思われる箇所にはフリガナをふったり、読点を多くしたりしております。
それで頑張って読んで頂ければと!
宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。