33ー母親の勘
絶対そうだ。だって精霊女王だって、なんだか含みのある言い方をしていたぞ。
いくらエレメンタラーだからといって、精霊女王と気安く話せるなんて事はないだろうし。
「実はね~」
と、リンリンが話し出しそうになった時に、母が止めた。
パシッとリンリンを指で叩いてだ。デコピンのあの叩き方で、リンリンを弾いたんだ。
「あら!? 痛いじゃない~」
「余計な事ばかり言わなくて良いのよ」
「もう、秘密にしておいてあげるわよ~」
そう言ってリンリンは消えた。
ほら、ほぉら、ほぉ~ら。やっぱ何かあるんだ。これはきっと追求しない方が良い事だ。
「あぶあー、あうー」
「はいはい、オヤツ食べますか?」
「あう」
ヒョイと手を挙げる。最近できるようになったんだ。
分かっているよと、手を挙げるんだ。
「あらあら、そんな事も出来るようになったのですね」
「あばー」
ふふふ、俺は毎日進歩しているんだ。日進月歩なのだ。努力のラウと呼んでくれてもいいぞ。
おフクがオヤツの用意をしてくれている間、母のお膝の上に座らされている。
「あう」
どうした? 俺用の椅子に座らせてくれていいのだけど? と、母を見上げると、なんとも表現できない表情で俺を見ていた。どうしたんだ? 悲しいのか? どこか痛いのか?
なんでそんな不安そうな表情をしているんだ? 俺は思わず小さな手で母の頬に手を伸ばす。
「ああーちゃ」
「ラウ、どうしてだか母様は少し不安だわ」
「あうぅ?」
「ラウはどんどん先へ行っちゃうような気がするのよ」
「あうあー」
そう言って、ギュッと抱っこしながら俺の頭にチュッとした。
母親の勘というものだろうか? 俺がやろうとしている事を知ったら、絶対に反対するだろうな。
その前にどうして俺が、そんな事をしようとしているのかを話さないといけなくなる。
俺が一回目に殺された事を話したくないんだ。
今回、赤ちゃんなのに記憶がある。最初からちゃんと自我がある。考える力がある。
両親を見ていて、自分の子供が殺されたなんて事を聞かせたくないんだ。
だから、秘密裡に行動しようと俺は決意していた。
「ラウ、忘れないでね。母様と父様はいつもどんな時でも貴方の味方なのよ。貴方の事を愛しているわ」
「ああーちゃ……」
う、泣きそうだ。0歳児の涙腺は激弱なんだぞ。
「ぶぶぶ……びぇ」
「あらあら、泣かそうと思ったわけじゃないのよ」
「ああーちゃー!」
俺は母にギュッと抱きついた。小さな手で母の身体に掴まる。
おフクよりずっと華奢で違う温かさ、母の鼓動を確かめる。
ああ、懐かしい。忘れていた母の匂いだ。
「あらあら、ラウったら。ふふふ」
俺って本当に0歳児だ。甘えるのがとってもお上手だ。
0歳児だからこそ、できる事だとも言う。
「お待たせしました。今日のオヤツですよ」
「あう!」
「みみの、ももじゅーしゅも、あるみゃ?」
「はい、ありますよ」
「やったみゃ」
ミミは桃ジュース中心に生活しているのかよ。
「らって、ももじゅーしゅは、おいしいみゃ」
はいはい。俺はベビーチェアに座らせてもらって、大き目のスタイを重ねてつける。
ベットベトに溢してしまうからだ。
「あう! あう!」
身体を動かして、早く欲しいと急かす。
「はいはい、あーんしてください」
「ああー」
と、大きなお口を開けると、甘いものが入ってくる。今日はあれだ。さつまいもだ。
ミルクで柔らかく煮てある。ペーストじゃないんだぜ。もうそれは卒業したんだ。
あむあむあむと、一所懸命咀嚼する。その間に何故かお口の端から、出てくるんだよ。お口に入れたはずの、さつまいもが。
「あらあら」
スプーンでまたお口に入れてくれる。それを繰り返して食べるんだ。
ミミは隣で、桃ジュースを啄んでいる。
「うまうまみゃ」
なんて言いながら。本当に好きなんだね。俺もそのピーチリンを食べてみたい。
不老不死には興味がないけど。
「んまぁーあー」
「はいはい」
足をピョンピョンさせながら、喜んでいる俺。
マジで……
もう慣れちゃったけど……
何度も言うけど……
0歳児の赤ちゃんだ。
まさか記憶があるなんて思いもしないだろうな。
しかも、一回目は殺されているなんてさ。
「らうみぃ、しょれおいしいのみゃ?」
「んまーあうあー」
「みみもちょっと、ほしいみゃ」
「あら、ミミは桃ジュースなんでしょう?」
「もうのんだみゃ」
「あら、早いのね。でもミミは食べられないと思うわよ。ねえ、リンリン」
母の呼びかけに答えて、リンリンがシャララ~ンと姿を現した。
「ミミったら食べられる訳ないじゃない~」
「え? しょうなのみゃ?」
「あなた精霊なのよ~」
「あたりまえみゃ。みみは、しぇいれいみゃ」
「だからね、精霊は人間の食べ物を食べられないでしょう? 飲み物だけよ~」
そうなのか? それは初耳だ。
そういえば、ミミは家に来てから桃ジュースしか口にしていない。
「なんら、しょうなのみゃ」
「まさか、知らなかったの~?」
「しらないみゃ。たべたら、どうなるみゃ?」
「そうね~、お腹を壊すかしら~?」
「みゃみゃみゃ、しょれはいやみゃ。けろ、らうみぃ、おいししょうみゃ」
お腹を壊すと言われているのに、まだ言うか?
ミミは、食い意地が張っている。
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来週はお休みします。金曜日くらいに再開できればと。
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