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3ー0歳児スタート

 その俺が騎士団長に抱っこされ、邸に戻ると大騒ぎだったらしい。

 

「ラウ!」

「ラウ! 無事でよかったぁッ!」


 と、両親が抱き着いてきて母は号泣だったらしい。

 

「坊ちゃまが! 坊ちゃまが!」

「ああ坊ちゃま! ようございました!」


 と、気が動転してあたふたしているのは、執事と乳母だ。

 俺はそんな事は全く知らずに、スヤスヤと眠っていた。


 その後の調べで分かった事だが、その貴族は侯爵位を叙爵していた。自分の娘を父の正妻にと狙っていたらしい。

 母の実家も侯爵家だ。建国当時からの侯爵家で、領地経営は良好。過去には宰相を輩出していた時代もある。所謂、由緒正しい家系というわけだ。

 同じ侯爵家でも、誘拐犯の侯爵家は母の実家ほど歴史があるわけでもなく、堅実な領地の経営よりも交易の方に力を入れていた。目先の利益に重きを置いていたんだ。

 その為か、領民達からの評判はあまり良くなかったらしい。

 前領主様なら、こんな事はなかったと不満も上がっていた。なので国の調査部隊も調査に乗り出していたそうだ。

 その侯爵には、母と同じ年頃の娘がいた。それで勝手に、対抗意識を燃やしていたらしい。

 自分の家の方が金があるのにと傲慢にもなっていた。

 それが嫉妬になり(ねた)みに変わる。自分の娘を王弟殿下の正妻にと、執着し出した。

 何度も手を変え品を変え、父にアピールをしていたそうだ。

 なのに全部スルーして、あっさりと父は母と婚姻した。

 幼い頃から決められていた相手だと言う事もあったが、父は母の事が大好きで離さなかったんだ。

 婚約前から猛アピールをし続け、母が根負けした状態での婚約だったらしい。

 父は半ばごり押しで婚約して、無事に婚姻した。そんな父が他の令嬢に心変わりするわけもなく、その貴族の令嬢は相手にもされなかった。

 そして俺が生まれた。俺がいなければワンチャンあるかも、とでも思ったのだろう。

 即刻その家はお取り潰しになった。父が容赦なく木っ端微塵にしたらしい。

 物理的には俺が邸宅を吹き飛ばしてしまったのだけど。

 これが、前世と今世の一度目を思い出した切っ掛けになった事件だ。



 ◇◇◇



「ばぶぁッ!」


 俺、再び爆誕。

 いや、違うけど。それくらいの気持ちで目が覚めたって事だ。何しろ生まれ変わったとばかり思っていたのだから。

 なのにそこには、心配そうに俺を見つめる見覚えのある両親の顔があった。

 え? どういう事?


「ラウ! 無事で良かったわ!」


 母が泣きはらした目をして俺を抱き上げる。頭を撫でながら、ほっぺをスリスリしてくる。


「よし! もう大丈夫だぞぉ!」


 母ごと俺を抱きしめている父まで、げっそりとした表情をしている。


「ばうあー……」


 俺は意味が分からなくて、周りを見る。

 見覚えのある部屋だ。俺が覚えている両親より若い。そりゃそうだ。

 俺が死んだのは17歳だった。俺が覚えているより17年前の両親だ。

 これはおかしいぞ。

 生まれ変わったとばかり思っていた俺は、思わず泣く事も忘れて呆けてしまった。


「ぶぶぅ……」

「疲れたわね。もう大丈夫よ。ゆっくり寝ましょうね」


 母が俺を抱っこして揺らしながら、優しくトントンとしてくれる。

 それをされたらイチコロだ。直ぐに俺は深い眠りに落ちていった。



 ◇◇◇



 記憶が戻ってから考えた。生後半年の俺。

 どうしてこうなったのか?

 俺は確かに、背後から刺されて死んだのに。

 

「ぶぶぅ……あうあー」


 そりゃ、驚いた。一体どうなっているんだと頭を抱え込みたかった。

 何故、こんな事が起きているのか?

 何度見ても、どこからどう見ても赤ちゃんだ。

 ああ、手が小さいなぁ。手首に輪っかが入っている。ぷっくぷくで、もっちもちだ。

 体を起こすのだって手をついて一度向きを変え、よいしょと力を入れてオムツを巻かれたお尻を先ず持ち上げないと起こせない。頭が重いんだ。

 その時に、嫌でも目に入る自分の体。

 立派な赤ちゃん体型だ。お腹がまん丸だ。

 ヒヨコさんのスタイがお似合いだぞぅ。いや、そこじゃない。


「あ……あう……だうあーッ!(か、勘弁してくれよー!)」


 取り敢えず手足をググッと伸ばして座ってみよう。落ち着いて考えるんだ。


「あうあー……ぶぶぅぅー……」


 そして、恐る恐る胸に手を当ててそっと見てみた。

 プニプニの手だ。いや、だからそこじゃない。


「ばばぁ……」


 刺された傷がない……当然だ。だって赤ちゃんになっているのだから。ぷっくりしたお腹も可愛いぞぅ。

 生まれ変わった? ではない。だって、ここは俺が生まれ育った邸なのだから。

 それに懐かしい、俺が幼い頃に使っていた部屋。あのキャビネットだって見覚えがある。

 俺はベッドの上で、足を投げ出してチョコンと座り考える。

 輪っかの入ったムッチムチの腕を組み、片方の手の指をプニッと額に当てる。考える時の俺の癖なんだ。

 ただし今は、手の甲にエクボができるくらいぷくぷくの手だ。全く様にはなっていない。

 なんなら、腕だってちゃんと組めていない。まだ腕が短いから仕方がない。

 だが、確かに俺は死んだはずだ。いや、一回目の時に背後から刺されて殺されたんだ。自分の胸を、剣が突き抜けているのを確かに見たんだ。

 大賢者だった俺が、どうしてそんな事になったのか。


お読みいただき有難うございます!

まだ2話しか投稿していなかったのに、異世界ファンタジー部門日間ランキング17位です。

評価やブクマをして頂いた皆様、有難うございます。

今日も、下部にある☆マークから評価をして頂けると嬉しいです!

宜しくお願いします!

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