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29ーバリトンボイス

 そしてまた俺は母のお膝に座らされて、例の会議室にいる。お着替えをした父が、お誕生日席に座っている。

 何度も言うけど、喋れない俺がここにいても仕方ないと思うんだ。


「あう」

「ラウ、少しだけお利口にしていてちょうだい」

「あだぁ」


 だからさ、俺は赤ちゃんなんだ。参加する意味があるのか?


「殿下ぁッ! だから何度も言っているじゃないッスか! 何で一人で勝手に走って行くんですか!」


 と、言いながらアンジーがバンッ! と、ドアを開けて入って来た。

 肩で息をしている。余程急いで来たのだろう。


「アンジーが遅いんだ」

「そんな訳ないっしょ! ちょっと目を離したら、直ぐに帰ろうとするのは止めて下さいッ!」

「そんな事はしていない」


 と、父はそっぽを向く。確信犯だ。

 いつもの事だ。何回このパターンを見ているだろう。


「あぶぶ」

「ふふふ、いつもの事だわね」

「ああーちゃ」

「はいはい」


 と、アンジーさんが俺を見た。


「えッ!? 坊ちゃん、今何て言ったんッスか?」


 お、気付いたのか? 元気よく言ってやろう。


「ああーちゃ!」

「ええぇーッ!? 凄いじゃないッスか!?」

「あぶぶぶ」


 だろう? 俺って凄いだろう?


「母様って言っているんスよね!?」

「ああーちゃ」


 ふふふん。どうよ、俺の成長は。


「坊ちゃん、父様は?」

「ああーちゃ」

「……いやいや、母様でなくて、父様ッスよ」

「ああーちゃッ!」


 俺は堂々と「ああーちゃ」と言う。だって言えないんだから仕方ないじゃないか。


「殿下、残念ッスね」

「何を言う。ここまできたら時間の問題だ」

「そうですか?」

「そうだ。ここまでが長かった」

「えぇー?」


 意味不明だ。何が長かっただ。言っとくけど、きっとここからも長いぞ。

 期待させちゃって、悪いけどさ。


「ああーちゃ!」

「はいはい」


 母が蕩ける様な微笑みを返してくれる。

 俺はそれが嬉しくて、身体を揺らしながらパチパチと手を叩く。


「ああーちゃッ!」

「はぁい」

「きゃっ!」


 全く……

 本当に……

 どこからどう見ても0歳児だ。


「他は何を話せるようになったんスか?」

「他も何も、あれだけだ」

「あら、違いますわよ。ねえ、フク」

「はい。美味しいと仰いますよ」


 ガビーン! と、父が目を大きく開いて、手に持っていた書類を落とした。あれ? どうした?


「坊ちゃま、美味しいは何て言いますか?」

「あぶ、んまぁー」

「はいはい、お上手ですよ」


 ふふふ。そうだろ、そうだろう。


「わ、わ、私は美味しいに負けたのかぁッ!!」


 頭を抱えて項垂れている父。すまない。でも、勝ち負けではない。


「ああーちゃ」

「ふふふ、気にしなくて良いのよ」

「んまぁー?」

「ラウ、お上手だわ」

「ああーちゃッ!」


 母に褒められキャッキャと喜ぶ俺。

 優雅に微笑む母。

 ガックリと肩を落とす父。


「らうみぃ、ちゅみちゅくりみゃ」


 何言ってんだよ。罪作りって何だよ。


「ちちしゃま、かわいしょうみゃ」

「ミミ、ラウルの魔法の勉強は進んでいるのか?」

「あ、あ、あたりまえみゃ。かんぺきみゃ」


 鳥さんなのに、目が泳いでいる。嘘だと丸分かりじゃないか。ミミってやっぱ頼りない。


「ミミィ!?」


 父がガシィッとミミを掴んだ。目が座っているぞ。これは、とばっちりとも言う。


「みゃみゃみゃ! みみにあたるのは、やめるみゃ!」

「なんだとぉー!?」

「みみはわるくないみゃ! やちゅあたりみゃ!」


 ほうほう、八つ当たりだと分かっているらしい。お利口じゃないか。


「あぶぅ、みゃぅ」

「……ッ!?」

「あら?」


 え? 何で、父も母も俺を見る?


「ラウ、もう一度言ってみてちょうだい。今、何て言ったのかしら?」

「ああーちゃ、あぅぅ、みゃぅ」

「しょうみゃ! みみみゃ!」

「な、な、なんだとぉぉーッ!? 私はミミにも負けたのかぁッ!?」

「アハハハッ!」


 父が項垂れ、アンジーさんがお腹を抱えて大爆笑。

 え、俺って変な事を言ったか? ちゃんと、ミミって言ったつもりなんだけど。


「みゃぅー」

「らうみぃ、おりこうみゃ!」


 父の手から逃れたミミが、パタパタと飛んで来た。


「らうみぃ」

「みゃッ! あぅ」

「ふふふふ」


 母まで笑っている。

 

「さて、アンジー。報告を頼む」


 座り直した父が、落ち着いたバリトンボイスで何も無かったかの様に話を振った。


「アハハハ! ひぃ、お腹痛いッス」


 笑いすぎだ。ほら、父がジト目で見ているぞ。


「アンジー……」

「はいッス。分かってますよ」


 ふぅ〜と、大きな息を吐いてアンジーさんは崩れ切ったお顔を整えた。


「なかなか手強いですね」

「ああ、まさかミミを先に話せるようになるとはな」

「いや、何言ってんスか。ラウ坊ちゃんの事じゃないッスよ」


 何が何だか分からない。

 アンジーさんが言っているのは、例の真紅の髪の女性の事だ。

 その女性との婚姻届を、城に出しに来た貴族を俺の高速ハイハイで妨害した。

 その後、必ず接触するだろうと、その貴族を張っていたそうだ。


「なかなか現れないんですよ。ですから、街中も捜索してます。でも真紅の髪の女ってのは引っ掛かってこないんです」

「だが、必ず潜伏しているはずだろう?」

「はい、そうなんです。もしかして、気付かれたんでしょうか?」

「いや、そんなはずはない」


 俺が妨害した日から、ずっと真紅の髪の女性と接触がないらしい。なら、バレている事はないだろう。


お読みいただき有難うございます!

宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!

宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 可哀想な父様、ついにミミまで抜かれるとは〜 早く父様と言って上げてね。泣いて喜び過ぎてパーティをするかも(๑>◡<๑) [一言] この物語も大好き。更新が待ちどうしくてたまらない。 それと…
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