28ー楽勝なのか?
「みみのももじゅーしゅ、もうないみゃ」
「ミミちゃん、飲み過ぎは駄目ですからね。それでお終いです」
「ええー、もっとのみたいみゃ」
「また後でですよ」
「しかたないみゃ」
赤ちゃんが二人いるみたいじゃないか。
おフクには世話を掛ける。
「はい、沢山食べましたね。お口を拭きますよ」
「あばぁ」
ふぅ……食べたらやっぱ出るよな。
うん、これは仕方がない。んむむ。
「ぶぇ、あばー!」
「はいはい、うんちですか? オムツ替えましょうね」
すまない。本当にすまないと思っているんだ。だからせめて自分の足先を持って、おフクが拭き易いようにお尻を出す。
「ふふふ、可愛らしいお尻ですね」
「あば」
やめてくれ。下半身おっ広げてるのだって、本当は遣る瀬無いんだ。
仕方ないとも思っているけど。
「ぷりっぷりみゃ」
「あば?」
何がだよ?
「らうみぃの、おしりは、ぷりっぷりみゃ」
「ぶぶぅ」
うるせーよ。
そんな日々を送っていたのだが、父の姿をあれから見ていない。
母とおフクの会話だと、邸に帰って来てはいるらしい。だが、毎日遅い時間になるみたいだ。
「眠っているラウに、頬ずりするのが日課になっているわね」
「仕方ありませんね。坊ちゃまが起きておられる時間に戻られないのですから」
なんて背筋が寒くなりそうな事を言っていた。俺が眠っている間に何をしているんだ。
仮にも『氷霧公爵』なんて二つ名があるのに、やっている事は相変わらず全く凍っていない。
「あら?」
母がそんな声を上げると、シャララ~ンと七色の光と共に使い魔のリンリンが姿を現した。
「今日はもう帰って来るって、言っているわよ~」
「まあ、そうなのね。何か進展があったのかしら?」
「もう直ぐ、着くわよ~」
「あらあら、奥様お出迎えしませんと」
「そうね。ラウも行きましょう」
ほうほう、父が帰ってくるらしい。リンリンがそれを伝えに出てきたのだ。
どうしてリンリンが? て思うだろう?
父の使い魔のフェンから伝言をもらって、リンリンが伝えてくれるらしい。
精霊って、近くにいなくても精霊同士で意思疎通ができるのだそうだ。便利だね。ミミもできるのか?
「あたりまえみゃ。らくしょうみゃ」
はいはい、楽勝なのか。ミミの本当の実力をまだ見ていないけどな。
「なんれみゃ、みみはがんばっているみゃ」
「あばぁ」
だって俺の側にいるだけじゃないか。魔法の練習も全然していないぞ。
「……わ、わしゅれてたみゃ」
「あぶぶぅ」
な、それがミミの実力だよ。
「ちがうみゃ! ちゅかいまけいやくして、あんしんしてちょぉ~っときが、ゆるんららけみゃ」
「あぶばー」
いつも緩んでいるよな。
「らうみぃ、しんらちゅみゃ」
「あば」
お、辛辣といいたいのか? 難しい言葉を知っているじゃないか。
「あたりまえみゃ。みみはゆうしゅうみゃ」
「あぶぅ」
「坊ちゃま、抱っこしましょう。お出迎えしましょうね」
「あうー」
母やおフクと一緒に玄関に行くと、既に執事のノーマンが入口のドアを開けて待っていた。直ぐに馬の蹄の音が聞こえてくる。
「あぶあ」
「お父様よ。ラウは久しぶりでしょう?」
「あう、ああーちゃ」
「ふふふ、ラウは可愛いわね」
おフクの腕から母に両手を出すと、しっかりと俺を抱っこしてくれる。
俺って中身は17歳だ。だが、こんな風に甘える事が普通に違和感なく出来てしまう。
赤ちゃんになってから俺に対する両親を見ていると、俺が魔族討伐に出る前にちゃんと両親と話しておけば良かったと後悔した。
ぶっきらぼうに、何も話さないで行ってしまって両親はどんな気持ちだったのだろうと思ってしまう。
その上、あの最悪の結末だ。あんな事は二度とごめんだ。
「ラウ、どうしたの?」
「あうあー、ああーちゃ」
母を呼びながら首に抱きついた。ごめん、俺親不孝だったよ。
「あらあら、どうしたのかしら? ほら、もうすぐ父様が帰ってくるわよ」
「あぶぅ」
そんな事をしていると、父が乗った馬が見えてきた。
「あばー、ああーちゃ!」
「そうね、父様ね」
「あばー!」
母の腕の中から両手を伸ばす。父が颯爽と馬から降り、母と俺に向かって駆けてくる。
「アリシア! ラウ!」
「あなた、お帰りなさいませ」
「あばばー!」
ガバッと母毎抱きしめられた。父ったら力が強すぎる。
「会いたかったぞぉッ!」
「あばばば」
「あなた、ラウが苦しがっていますわ」
毎日家に帰って来ているのに、会いたかったもないと思うのだ。寝ている俺に、頬擦りしているんだろう?
これのどこが氷霧公爵なんだ。
「あなた、埃っぽいですわよ」
「馬を飛ばしてきたからなッ!」
「あぶぶ」
「ラウ、父様だぞ!」
「ああーちゃ」
「あああぁーッ! 父様はまだなのかぁーッ!」
一人項垂れている。俺も早く呼びたいとは思っているんだ。父がとってもキラキラした目でいつも見てくるから。
でも、何故か口に出るのは「ああーちゃ」だ。
「ああーちゃ」
「はいはい、ラウ。お父様ったら変だわね」
「あうぅ」
「旦那様、先にお着替えをなさいませ」
執事のノーマンだ。いつも冷静だ。
「またアンジーを放って走って来られたのですね」
「放っているのではない。アンジーが遅いのだ」
同じ事だ。放って帰って来た事には変わりない。
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