238ー空気を読もう
皆大きく目を開けて、じっと動かずに見入っている。あまりにも動かないから、大丈夫か? 息はしているよな? と、心配になるくらいだ。
「ピーチリンと言えば、寿命が延びると言われているが」
「解毒するために必要な量なのだろうと思います。それで一匙なのでしょう」
そうだね、父の言う通りだ。俺もそう思う。まさか寿命を延ばそうとはしないだろう。そんなことをする意味がないし。
見ていると、フェンは猫ちゃんの手を動かしているだけだ。それでピーチリンが動く。クイッと手を動かすと、まん丸のピーチリンからポトリポトリと果汁が出てきた。ピーチリンに変化はないのに、一体どうなっているのか不思議な光景だ。
ちょうど一匙分の果汁をティースプーンに絞ると、フェンが言った。
『これを王子に飲ませるんだ。口に含ませれば大丈夫だ』
父がティースプーンを受け取り、王子のベッドの側に行く。ゆっくりと王子の口にティースプーンを持っていき、そっと口に含ませた。
「殿下、もう大丈夫ですよ。飲み込んでください」
優しい口調で父は王子に話しかける。それに答えたかのように、王子の喉が動いた。コクリと果汁を飲み込んだんだ。
すると王子の身体が微かに光り出し、すぐに消えていった。この光は皆は見えているのかな? そう思って皆を見ると、びっくり顔になっているから見えているのだろう。何より、老師が最初からずっとお口をあんぐりと開けて同じ格好で固まっている。大丈夫か? ご老体には刺激が強すぎたか?
「フェン、どうだ?」
『おう、もう大丈夫だ。解毒されているぞ。見てみな、顔色が戻ってきた』
王子の表情が柔らかくなり、土気色になっていた唇や頬に温かみが戻っている。苦しそうだった呼吸が、安らかな寝息を立て出した。
「陛下、もう大丈夫です」
「そ、そうか……! 助かったのか!」
「はい、無事に解毒できました」
王が父に縋りついた。
「ライ……ありがとう! 感謝する……ありがとう!」
頬に一筋涙が伝う。父の服をギュッと握りしめ、なんとか立っている。
「兄上、大丈夫です」
「ああ……ああ! 良かった……本当に良かった!」
それを見て王も一人の親なんだと、思った。一国の王としてではなく、一人の親として当たり前のように子供である王子の心配をしている。
普段は親子の交流も、俺なんかより少ないかも知れない。だけど芯のところで親なら、大丈夫だと思える。
前の時だって、王子は歪んでいなかった。それはきっとこの王が、ちゃんと見ていたからだろう。
王はゆっくりと身体を立て直し、王子の側へ行き顔を覗き込む。そっと優しく髪を撫でている。
「良かった……ルシアン、助かったぞ」
ポトリポトリと涙がシーツに落ちた。父親の王にしっかりと愛情があるんだ。王子はこの先も大丈夫だと思えた。
見守っていた侍女も、ポロポロと涙を流している。皆が、助かって良かったと胸を撫でおろした。
「もうたべていいみゃ?」
こらこら、ミミ。感動のシーンなのに、もう食べることかよ。場の空気を読もうな。
「え、まだみゃ?」
『ミミ、食べていいと精霊女王が言ったか?』
「いったみゃ、みみがたべていいって」
「みみ、ちがうれしょう? みみとふぇんで、はんぶんこしてたべてって、いってたじゃない」
「みゃ、しょうみゃ?」
こいつ、抜け目ないな。自分一人で食べるつもりだっただろう。
『アハハハ! ミミはそういう奴だ!』
フェンったら器が大きいね。ミミとはえらい違いだ。ピーチリンを独り占めしようとしていたミミとはさ。
「みゃ、なにいうみゃ! らって、ぴーちりんはおいしいみゃ!」
「はいはい、ふぇんといっしょに、たべるんらよ」
「しかたないみゃ」
『ミミ、食うぞ!』
「じゅるいみゃ! みみもたべるみゃ!」
ミミとフェンがピーチリンに齧り付いている。他の人たちには、ミミが一人で啄みながら食べているように見えるだろう。しかも空中に浮いているピーチリンを。
王子の脈を見たりしていた医師も安心して、ふぅ~ッと息を吐いて頷いた。石化したみたいに身動きせずに見ていた護衛や侍女も、ゆっくりと動き出した。
侍女は濡らしたタオルで王子のお顔を拭いている。護衛は背筋を伸ばして立っている。王に付いていた侍従は、椅子を持ってきて勧めている。
「とうしゃま、よかったれしゅね」
「ああ、精霊女王のお陰だ」
一安心したところで悪いんだけど、どうしてそんな毒に侵されていたのかだ。しかも軽く呪いにもかかっていた。それはどうなんだ? 一体どこで呪いにかかったんだ? まさかまだ城の中に入り込んでいるのか?
「とうしゃま、どくとのろいれしゅ」
「ああ、調査しないといけない。アンジー」
「はいッス、情報を集めます」
「ああ、早急にだ」
そんな話をしているのに、老師が近寄ってきてじっと見てくる。なんだ? どうした?
「精霊女王に会ったのか? 精霊界に行ったのじゃな? ん?」
小さな声でそう聞いてきた。ジト目で父と俺を見ながら。
「老師、緊急事態でしたから」
「分かっておるわい。じゃが、会ったのじゃな? 行ったのじゃな?」
「ええ、まあ」
「ふぉぉぉーッ!」
老師が両手で顔を覆いながら、とっても悔しそうに天を見上げた。
「いいのぉー! めっちゃ羨ましいのぉー! ワシも行きたかったのぉー!」
はいはい、そう言うだろうとは思ったけど。そこまで悔しそうにされると、こっちは罪悪感を持ってしまう。俺たちは全然悪くないのに。
お読みいただき有難うございます!
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宜しくお願いします。
すみません! 遅くなりました!
約3年ぶりに会った方と話し込んでしまいました( ꒪⌓꒪)
ロロちゃんのコミック②をプレゼントしてきました。
今日のラウは一段落して、またまた老師の出番です(^◇^;)
老師は好きなキャラなので、まだまだ絡んできますよ〜!
街はもうすっかりクリスマス色ですね。あまり外に出ないので、そんな季節か。みたいな感じでした(^◇^;)
クリスマスのSSはどうしようかな?と考えてます。
書籍化作品は全部書きたいのですけどね。考え中です。
投稿したら是非読んでいただけると嬉しいです!
よろしくお願いします٩(๑˃ ᵕ ˂ )و
来年一発目はラウ②です!




