237ーみんな大好きピーチリン
あれ? アンジーさんはどこ行った?
「きっとドアの外で見張っているのだろう」
そっか、誰も部屋に入れないように。部屋の外からアンジーさんの声が聞こえてきた。
「だからいくら言われても駄目です! どなたも中には入れられません!」
「だからアンジー! ライとラウは何をしているんだ!?」
これって王の声じゃないか?
「とうしゃま、このこえは」
「ああ、兄上だな。不安でじっとしていられなかったのだろう」
父が俺を抱っこしてドアを開ける。しっかり手にはピーチリンを持っている。
「旦那様、申し訳ございません。大丈夫ですとお止めしたのですが」
おフクまでそこにいた。おフクには詳しいことは説明していないのに、取り乱さず落ち着いている。もう慣れてしまっているのだろうね。
「いや、構わん。フク、アンジーもご苦労だった。兄上、入ってください」
「殿下! 良かった、ご無事で!」
アンジーさんの表情が和らいだ。そりゃそうだ、精霊界なんてなにも分からないんだ。いくら大丈夫だと思っていても不安だっただろう。
「ライ! ルシアンはどうなる!?」
「落ち着いてください。もう大丈夫です。部屋に戻りましょう」
王は何が何だか分からないだろう。それでも父が大丈夫だとはっきりと言ったことで、少し落ち着きを取り戻した。
「みみ、おうじれんかのおへやに、ちゅれてって」
「また、みみみゃ?」
こらこら、こんな場面でそんなことを言うもんじゃない。
「らってぴーちりん、たべたいんれしょう?」
「まかしぇるみゃ! みゃみゃみゃ!」
本当に現金な奴だ。
王も一緒にミミの転移で王子がいる部屋に戻る。王が初めての転移で膝をついてしまっているが、それはスルーしておこう。おフクは平気な顔をしている。おフクは度胸があるからね。
こっちの世界ではどれくらい経ったのだろう?
「おお、もう戻ったのか!?」
『早かったな』
老師の側にフェンが浮いていた。いつも父の肩に乗っているのに、今は浮いている。俺が肩に乗るほど信頼しているのは父だけだ、とでも言っているように。
『ちゃんと老師のフォローはしていたぞ。持ってきたか?』
「ああ、ここに」
「なんじゃ? 果物か?」
「老師、ピーチリンです」
父があっさりとそう言った途端、老師はあんぐりとお口を開けて固まった。両手は王子に向けたままで。
きっとずっと解毒していたのだろう。そのままの格好で固まっている。ふふふ、ちょっとギャグ漫画みたいで面白い。
「ライ! ピーチリンと言ったか!?」
「はい、陛下」
王にそう一言返事をして、父は部屋の中にいる人たちを見る。
「良いか、この部屋にいる者は口外禁止だ。これから聞くことや目にしたことは、一切口外してはいけない。守れそうもない者は今すぐ部屋を出るんだ」
父が部屋にいる皆にそう言った。威圧を混ぜて言ったものだから、抵抗力のない王子付きの侍女や医師は腰を抜かしている。
それでも、コクコクと頷いて意思表示をした。ほかには王子付きの護衛、そして王の侍従がいた。皆同じように頷いている。
部屋を出る選択をした者はいなかった。何が起こるのか分からないが、瀕死の状態の王子の側を離れないと思っているらしい。
王子の周りの人は、ちゃんと仕えているみたいで良かったと、こんな時に思った。
「王妃がいなくて良かった……」
ボソッと王が口にした。それに侍女が無意識に頷いてしまっている。
よほど気が動転しているのだろう。こんな時は頷いてはいけない。侍女もそう思っているということになるじゃないか。
「フェン、これをどうするんだ?」
『精霊女王は何と言っていた?』
「一匙で良いから果汁を飲ませろと」
『よし、俺がもらおう』
フェンがフワフワと父の側に飛んできて、猫ちゃんの手を翳すとピーチリンが宙に浮いた。
あまりにも自然にそうしたものだから、誰も声を出せないで見守っている。突然ピーチリンが、宙に浮いたように見えているはずだ。
「みみはしなくて、いいみゃ?」
『おう、俺がしよう』
「まかしぇるみゃ」
ミミは呑気に自分はもう役目は終わったとばかりに、毛繕いをし出した。こらこら、緊張感というものが全くないな。
フェンの手で操られて宙に浮いたピーチリン。フェンって体毛は漆黒だけど、肉球は綺麗なベビーピンクなんだね。可愛いぞぅ。
『ラウ、何考えてんだ』
「あ、ごめんね」
いや、つい。とっても可愛かったものだから。
『匙はないか?』
「ティースプーンはあるか?」
父が侍女にそう聞くと、弾かれたように侍女が動いた。続きになっている隣の部屋から、素早くティースプーンを持って来た。
「ライ、何がどうなっているんだ?」
「私の使い魔である精霊が、これから果汁を絞ってくれるのだと思います」
「ピーチリンの果汁をか!?」
そうそう、精霊さんはみんな大好きピーチリンの果汁だ。精霊界に何度も通っている俺でも口にしたことがない。とっても美味しいらしいのだけど。
俺や父とアンジーさんにはフェンの姿が見えているが、それ以外の人たちには見えていない。だから空中にピーチリンがフワフワ浮いているみたいに見えるだろう。まあ、浮いているのだけど。
そんな不思議な光景を見ている皆は、瞬きするのも忘れているみたいだ。
お読みいただき有難うございます!
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宜しくお願いします。
精霊さんはみんな大好きピーチリンです。
大きな桃みたいな見た目ですが、とっても芳醇でジューシーなのです。人が食べると寿命が延びるといわれてます。
どんな怪我や病気、状態異常も治ります。
そんなのがあれば食べてみたいですね。寿命は延びなくていいので、視力がよくならないかなぁ(^◇^;)
インフルエンザが流行っているようです。空気も乾燥してます。
皆様、お気をつけてください。元気にクリスマスと年末を迎えましょう!
来年1月にノベルの2巻が発売になります!よろしくお願いいたします!(*ᵕᴗᵕㅅ)✽*。✽




