236-来ちゃったよ
そのうちミミは飛びながら、グングンと体が大きくなる。本当のミミの大きさになっているんだ。
「な……!? ラウ、ミミが!?」
「とうしゃま、まおうにあいにいったときにも、ミミはおおきくなったれしょう?」
「あ、ああ。そうだったな。ミミに乗ったんだ。しかし大きいな」
「ふふふ、そうなのよ~。人間界であのサイズは駄目でしょう?」
まあ、俺はもう慣れたよね。父はお目々を大きくしてびっくりしているけど。
精霊女王もミミも、全く焦っていなくていつも通りだ。こんなにイレギュラーなことが起こっているのに。
精霊女王にとっては、俺たちの世界のことで解決できないことなんてないのじゃないか? と思ってしまう。
「あら、ラウ。そんなことはないのよ~。人間界のことは、私たちは手出しはしないもの」
おっと、それは申し訳ない。今回のこともそうだけど、俺は今まで精霊女王をめっちゃ頼っている。精霊女王がいないとできなかったことばかりだ。それはとても特別なのことなのだと改めて思う。
「ありがとうね」
「ふふふ、いいのよ~」
『前の時のようにはしたくないから……』
と頭の中に、精霊女王の声が聞こえた。こんなことも気遣って、父に聞こえないようにしてくれる。
本当に俺は、精霊女王にお世話になりっぱなしじゃないか。
「なんど来ても、目が慣れないな……」
おっと、そうだった。父はまだ二回目だった。
「とうしゃま、でもきれいれしょう?」
「ああ、素晴らしい! それに空気が違うように感じるな。こんなに清々しいとは!」
いつも熱血な父だけど、周りを見渡しながら感動しているみたいだ。一度目の時は一瞬だったからかな? でも感動する気持ちはよく分かる。
天に届くかのように大きな世界樹。その周りに生えているピーチリンの樹。地面には緑の葉を伸ばしながら花々が咲き乱れていて、少し離れた場所には光の粒子を放ちながら小川が流れている。
どこまで続いているのかわからない世界。どこもかしこも、輝いて見える。
自分たちがいる世界とは余りにも違うから、父は言葉もないらしい。
「ここにラウはしょっちゅう来ていたのか……」
「しょうれしゅよ。とうしゃま、またいっしょに、きましょうね」
「ああ、そうだな! また一緒に来たいな!」
父が嬉しそうに破顔する。そんな俺たちを、精霊女王は微笑みながら見ている。
「精霊女王、ミミが採りに行ったピーチリンとは、あのピーチリンですか?」
「そうよ、あのピーチリンよ。精霊の大好物で、人が食べると寿命が延びると言われているピーチリンよ」
今ミミが食べるから、採りに行ったのではないと推測できる。王子にそのピーチリンが必要なのだろう。だけどそれって、人は食べない方が良いって母が言っていたぞ。
「精霊女王、まさかピーチリンを食べさせるのですか?」
「食べるというか、果汁を一匙だけ飲ませるのね」
そんなことをしても大丈夫なのか? 寿命が延びても、毒が消せないと意味がない。
「ラウ、ピーチリンは人のどんな病や傷も癒せるのよ。だから寿命が延びると言われているのね」
「しょうなの? じゃあしょれで、おうじれんかのどくも、けせるの?」
「ええ、大丈夫よ。解毒薬がないのなら、助かる方法は万能薬を作るか、これしかないわね」
万能薬なんて今すぐ作れるわけがない。希少な薬草は母が育てているだろうけど、調薬スキルを持っている人を探すのに時間がかかる。アコレーシアが大人だったら、作れたかも知れない。
精霊女王は、あのミミがよく思いついたわね~。なんて言いながらフフフと笑っている。
余裕だ。俺たちは必死なのに。これで大丈夫だと確信しているんだ。王子の側にはフェンも残ってくれている。その上、こっちとは時間の流れが違う。
大丈夫だ、きっと助けられる。俺は自分にそう言い聞かせた。
大きくなったミミが、バッサバッサと羽搏きながら戻ってきた。こらこら、ピーチリンを咥えるんじゃない。食べたくて、涎は流してないだろうな。
俺たちの前にポコンッとピーチリンを置き、小さくなったミミが文句を言いながらパタパタと飛んできた。
「らうみぃ、しちゅれいみゃ! みみは、しょんなことしないみゃ! たべたいけろ」
ほら、食べたいんじゃないか。
「精霊女王、これを絞るのですね?」
「ええ、そうよ。一匙で良いの、ほんの少しで良いわ。あとのピーチリンはミミとフェンが食べなさいな」
「いいみゃ? ほんとうにいいみゃ? みみは、たべるみゃ!」
「ふふふ、良いわよ」
「みみが、たべるみゃ!」
おう、仲良く半分ずつすれば良いのに。やっぱミミは食いしん坊だ。
「らっていっしょにきたのは、みみみゃ? おもいちゅいたのも、みみみゃ? みみのおてがらみゃ?」
「しょうらね。みみのおてがららね」
「精霊女王、かたじけない!」
「一つ貸しにしておくわ~、さあ早くもどりましょう」
そしてまた、光が流れる空間に変わる。
精霊女王は『一つ貸し』だとか言っていたけど、きっと精霊女王の気持ちなんだ。
俺に念話で話してきたように、精霊女王も前の時みたいな最期を望んでいない。回避したいと思ってくれているんだ。
それが分かるから、ちょっと俺はジーンときちゃった。ついウルウルと涙が出てきてしまう。
「ラウ、どうした?」
「とうしゃま。ありがたいれしゅね」
「ああ、本当に。精霊女王の力がなければ、王子殿下は助からなかった」
「まら、これかられしゅ」
「ああ、そうだな」
そして俺たちは父の執務室に戻ると、待っているはずのアンジーさんが何故かいなかった。




