221ーらいしゅき
アコレーシアとお手々を繋いで、温室の中をトコトコと歩く。俺は薬草に詳しくはない。アコレーシアの方がよく知っている。まだ3歳なのに、なんてお利口なんだ。
あの薬草はポーションに使うのよ、とか説明をしてもらいながら温室の中を歩く。可愛い声が耳に心地いい。
こんな小さな頃からアコレーシアは、ポーションに興味を持っていたのかと驚いた。前の時もそうだったのかな? もしかして、俺のために色々考えてくれたのかな? なんてそれはちょっと自惚れがすぎる。
「らうは、あぶないのれしょう?」
「え? ぼく?」
「しょうよ。らうのおうちは、とくべちゅらからって、おとうしゃまにきいたわ」
「ん~、ちょっとらけね。ぼくはあぶないことは、しないよ」
「ほんとうに?」
「うん、ほんとうらよ」
「しょう、よかった! あたちがポーションをちゅくれるようになったら、もってくるわね」
「え……」
「らうに、もっていてほしいのよ。だから、おべんきょうしているの」
うふふ、と照れくさそうにアコレーシアが笑った。ああ、俺ってもう幸せ過ぎる。俺のことを心配してくれてたんだ。そのためにポーションを作るって言ってくれてるんだよな?
もう絶対に何がなんでも婚約する! 今度こそ一緒に幸せになるんだ! と心の中で、決意の拳を上げた。
「らう、ろうしたの?」
「ん? なんれもないよ。ありがとね、あこちゃん」
「うふふ」
このアコレーシアの笑顔を守りたい。今の幸せを、平和を守りたいんだ。だからそのために俺はなんでもする。
「なんらか、らうがしんぱいらわ」
「らいじょぶらよ」
「しょう? ほんとうに、あぶないことしない?」
「うん、しない」
ちびっ子だから純粋で真っ直ぐだからなのか? アコレーシアはとっても勘が良い。感受性が豊かなのかな?
そんなことを考えながら、アコレーシアと手を繋いでお散歩をする。前の時は、こんなに穏やかな時間はなかった。二人でどこかへ出かけたっけ? 思い出せないくらいだ。
アコレーシアは何かを強請る人じゃなかった。俺に対して、こうして欲しいとも言わなかった。だけど、もしかしたら寂しい思いをさせてしまっていたのかも知れない。
7歳の時に婚約して、それから二人で何かをしたという記憶がないんだ。確かに毎日花を持って行った。だけど、大人になってからはどうだったっけ?
俺って、ちゃんとアコレーシアに気持ちを伝えたこともなかった。分かるだろう? 分かっているだろう? そう思っていた。
そしてあの最後だ。どれだけ後悔したことか。申し訳ないと思ったことか。
思わずその場で立ち止まってしまった。
「らう?」
「あこちゃん、ぼくはあこちゃんが、らいしゅきらよ」
「ふふふ、あたちも、らうがしゅきなのよ」
「じゅっとね、おおきくなっても、あこちゃんがしゅき」
「ありがと」
ほんのりピンク色をした頬をリンゴみたいに染めて、アコレーシアは照れくさそうに笑った。
繋いでいた手を両手でそっと握りしめる。
「じゅっと、なかよくしようね」
「ええ、なかよくね」
この小さな手を必ず守ると、改めて決意した。もう俺の心の中は大変だ。守るぞー! と決意の拳どころか、旗を振りながら走り回っている状態だ。フレーフレーみたいな?
「らう、おかあしゃまのところにもどるのよ」
「うん」
二人で手を繋いで戻ると、二人の母が優しい微笑みで迎えてくれた。
「オヤツがあるわよ、アコちゃん」
「あい、ありがとごじゃいましゅ」
老師も美味しいと食べていた一口ドーナツだ。シェフがまたダッシュで用意してくれたらしい。今日はお客様が多いね。
「こんなの初めてだわ。珍しいですわね」
「そうでしょう? シェフが毎日色々考えてくれるのよ」
一口ドーナツだけど、アコレーシアのお口にはまだ少し大きいかな? 大きなお口を開けて頬張った。途端にお目々がキラキラして大きくなっちゃった。
「おかあしゃま! とってもおいしいわ!」
「そうね、おいしいわね」
「今日のオヤツはラウが考えたのよ」
「まあ、ラウ君が?」
「えっちょぉ、ぼくはこんなのがたべたいな~って、いうらけれしゅ」
「ふふふ、そうなのね」
アコレーシアがくるなら、もっとオシャレで可愛いスイーツにすれば良かった。いや、ドーナツが悪いわけじゃない。
「揚げてあるのね。どうやってラウ君はこんなの思いつくのかしら? 凄いわね」
まさか前世で普通に食べていたなんて言えない。俺が発明したみたいになっているから、ちょっぴり心苦しい。
「これ、お店に出すと評判になりますわね」
「あら、そうかしら?」
「そうですわよ。だってどこにもないのですもの。それに、とっても美味しいわ」
ふむ、将来はスイーツのお店を出すのもアリか? いや、俺は作れない。だからレシピを売ろうか? 良い収入になったりして。むふふ。
「あら、ラウったら何を考えているの?」
「え、なんれもないれしゅ」
「あら、そう? まさかお店をしようなんて思ってないわよね?」
「おみせじゃないれしゅ」
「あら、お店じゃないけど何か考えていたのね?」
「えっちょぉ」
やば、母の誘導尋問にハマってしまったぞ。まあ、本気でするつもりはないから良いのだけど。




