22ー可愛い事が大事
一体どこが俺の初仕事だったのかはまだ分からないが、こうして俺達は家に帰った。
二回目の生では初めてだった登城は、なかなか楽しいものだった。あの廊下は最高だ。ハイハイしやすくて爽快だった。
それから何事もなく、毎日相変わらずミミと一緒に過ごしていた。
「あうッ! あばッ! ぶぅッ! あうッ! あばッ! ぶぅッ!」
何をしているのかって? 俺はつかまり立ちをして、片足を交互にペシッと出している。
短い足をシュバッと出す。その度に、オムツで膨れたお尻がヒョコッと振れる。
決してリズムをとっているのではない。歩く練習だ。いっちにと、かけ声のつもりだ。
高速ハイハイを完璧にマスターした俺は、家具に掴まりゆっくりと立ち上がった。とうとう、つかまり立ちをマスターしたんだ。
俺なんてまだ赤ん坊だ。それでも目線が少し高くなったから部屋を見渡していたら、キラキラとした目で俺を見つめる両親と目があった。
「お、おお! アリシア! ラウがぁッ!」
「ええ! ラウ、凄いわ!」
「あうあー!」
両手で掴まって足がまだブルブルするけど、俺はどーだ!? と、ちょっぴり得意気だ。
「らうみぃ、ふちゅうにあるくみゃ」
「ばぅぅ」
なんだと?
「ふちゅうにあるくほうが、はやいみゃ」
「あば」
それができないから、掴まっているんじゃないか。
「なんれしゅと!? らうみぃはあるけないみゃ!? ならとぶみゃ?」
「あばぶ!」
なんでだよ! 飛べる訳ないじゃないか! そんなミミとの遣り取りを完璧にスルーして母はしゃがんで両手を広げた。
「ラウ! いらっしゃい! 母様のところへ来られるかしら?」
仕方ないなぁ。つかまり立ちができたからといって、歩ける訳じゃないんだぞ。
なのにそんなキラキラとした期待の籠った目で見られると、やるしかないじゃないか!
よしッ! 俺は、そぅッと家具から手を離しバランスをとる。母までほんの数歩だ。それがとても長く感じる。
「あばぅ……」
「そうよ、ラウ。そっと足を出して」
「ぶぅ」
足がグラグラだ。まだ筋力が足らないんだ。それでも俺は片足を一歩出した。
「ああーちゃ」
「ええ、母様よ! いらっしゃい!」
「あぶあー」
両手を前に出して、手をいっぱいに広げる。一歩足を出すと、ぐらつき足もプルプルする。
それでも、手を出してくれている母に向かって歩こうと……
「ああーちゃ!」
母を呼びながら、母の手の中に飛び込む。歩いたなんて言えない。ただ、バタバタと倒れ込んだだけだ。それなのに、母は嬉しそうに俺を抱きしめてくれる。
「ラウ、凄いわ!」
「ああ! ラウ、偉いぞ! 今日は記念日だッ!」
照れるなぁ~。ただつかまり立ちをして倒れ込んだだけだ。全然歩けていない。
それでも両親はこんなに喜んでくれる。一回目の時も、こうして育ててくれたのだろう。俺は全然覚えていないけど。今はちゃんと分かるから余計に照れ臭い。
「あばぁ、ああーちゃ」
「ええ、母様よ!」
「ラウ、父様だ! 父様! 言えるか!?」
「ぶぶぅ……ああーちゃ」
「ああぁー! 父様はまだかぁーッ!?」
すまない。だって父様の方が言い難いんだ。何故だか知らないけど。決して、母を優遇している訳ではない。本当だよ。
さて、俺の『一歩記念日』と名付けられたその日の夜だ。
俺はもうお眠なのだけど、母に抱っこされて例の会議室に来ている。どうやら俺も会議に参加らしい。俺が参加したって意味ないと思うのだけど。
「さて、会議を始めようか」
父が相変わらずのバリトンボイスの良い声で会議の始まりを告げる。
俺は母の腕の中で、トロ~ンとした目で取り敢えずその場にいる。俺の肩にはミミがいる。ミミももうお眠だ。小さな声でピヨヨ……と鳴いているが、これは寝息と言う方が良いか?
「さて、前にアンジーが報告してくれた真紅の髪の女性だ」
父が説明してくれた事を要約するとだ。
俺が城で高速ハイハイで爆走していた時、ある貴族が婚姻届けを出しにやって来ていたらしい。
その相手というのが、例の真紅の髪の女性だ。
そこまで父とアンジーは掴んでいた。秘密裡にその貴族と接触して事情を話そうとした時だ。
既に婚姻届けに必要な書類を揃えて、邸を出たという事が分かった。
なんとかそれを阻止したい。だが、馬車を往来で止めて接触する訳にはいかない。
相手の女性に知られると逃亡される。なんとか秘密裡に事を運びたい。そこで、俺の高速ハイハイの出番だったという訳だ。
俺が周りに構わず高速ハイハイで進む。当然周りの人達はそれを避けようとする。
その貴族もその場にいたらしい。
高速ハイハイで爆走してくる俺を避けようとして、バランスを崩し手に持っていた書類をばら撒いてしまった。その時影から父の部下が瞬時に書類の一部を抜き取る。
これで書類の不備により婚姻届けは出せなくなる。
「近々その女性を拘束する予定だ」
おお、凄い進捗しているじゃないか。俺に高速ハイハイをさせるなんて、意味不明だと思っていたのだけど、理由があったんだな。
でも別に俺じゃなくても良くないか? 誰かがぶつかるとかでも良いんじゃないか?
「ラウのハイハイは可愛いだろう? あのお尻が、なんとも形容し難い位に可愛い」
「ばうあー」
「ええ、これ以上可愛いものはないという位に」
「ぶぶぅ」
俺の両親ってこんなに子煩悩だったのだろうか? 俺が覚えている両親って、もっとこうクールだったように思うのだが。
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