216ーティータイム
シェフが出してきたのは、揚げパンよりずっと小さくて一口サイズの可愛らしいものだった。
「これって、あげぱんなの?」
「ちょっと違いますね。もっとスイーツに寄せてます。坊ちゃん、味見してみてください
!」
「いいの? やった」
俺の手には大きなフォークを使ってお口に入れる。おやおや、まあまあ!
「ふく、たべて」
「あら、フクも良いのですか?」
「うん、たべて。めっちゃおいしいよ」
「まあ、いただきますね」
おフクもお口に入れる。
「まあ! これは揚げパンというより、ほんのり甘くてスイーツですね!」
「ねー!」
なんとシェフったら自分でドーナツに辿り着いていた。これってまんまドーナツじゃん! て思った。
あれだよ、フワフワなドーナツだよ。一口サイズに丸めてあって、食べやすくしてある。一口ドーナツみたいな?
「しぇふ、しゅごいね! ぼく、こんなのがたべたかったの!」
「そうですか!? やりましたね!」
お互いに親指を立ててサムズアップだ。グッジョブだよ。
「これに生クリームでデコレーションしますか? 奥様は生クリームがお好きなので」
「うんうん、いいね!」
俺も好きだよ、生クリーム。今日はなにも言うことがなくなっちゃった。
「じゃあ、きょうはおんしつのほうでまってるね」
「はい! 了解ッス!」
母と一緒にお茶しよう。まさか、揚げパンからドーナツに辿り着くなんて思いもしなかった。うちのシェフは天才か?
とっても満足して足取りも軽く、温室へと向かう。
「坊ちゃま、何か作ろうと思っていたのじゃないのですか?」
「あんなのがたべたかったの。あれは、ドーナツだね」
「ドーナツというのですか?」
「しょうしょう。おいしいよね〜」
「はい。パンとはまた違いますね」
「でしょう? あまくておいしい」
「ふふふ、そうですね」
おフクと手を繋いで庭を歩く。シェフに頼んでおいたから、母がいる温室に行こう。
母は温室のテーブルセットで花や薬草を眺めながら、コニスと一緒にお茶をしているのだろうと思っていた。何も疑いもせず、いつもそうだから他のことなんて考えもしなかった。
温室に入り母がいるだろう奥へと、おフクと一緒に歩いて行った。
そしたら、母がしゃがみ込んで薬草を摘んでいた。手に籠を持ち、小さな採集用のナイフを持っている。俺とおフクに気付いて、微笑みながら立ち上がる。
「あら、ラウ。どうしたの?」
「かあしゃま! おやちゅれしゅよ」
「あら、もうそんな時間なのね。コニス」
「はい、奥様」
コニスも母と同じ籠を持って、薬草を採取していたらしい。コニスだけ麦わら帽子を被っているのは何故かな? ここは温室なのだけど?
そのコニスが母から籠を受け取り、テーブルセットまで行き側にあるワゴンに置いた。
「コニス、私も手伝いますよ」
「ありがとうございます、フクさん」
二人でお茶の用意をし始めた。
「今日はコニスもフクも一緒にお茶しましょうね」
「はい、奥様」
他家だと、主従が一緒にお茶なんて有り得ないことなのだけど、うちでは結構普通だからコニスやフクも遠慮しない。声を掛けられた時はめっちゃ素直に、はいと返事する。
俺はその方が好きだよ。ちゃんと線引きしないといけない時はそうしてるから、普段は仲良く一緒にお茶くらいしたっていいと思う。
気持ちが近い方がいい。信頼関係を築く方が、親身になって仕えてくれる。うちの内情を外に漏らしたりも、絶対にしない。うちの使用人たちはみんなそうだ。
父が王弟で国の暗部に携わる、そんな特殊な家だから使用人たちにも教育が施されている。万が一にも情報を漏らしたりしないように。
それは教育だけじゃなく、信頼関係も必要なんだ。使用人全員の、家族の事情まで把握している。
おフクとコニスがお茶の用意をしてくれている間に、シェフがデコレーションしてくれた一口ドーナツが運ばれてきた。シェフ直々にワゴンを押してやって来る。
「奥様! ラウ坊ちゃん! オヤツですよ〜!」
と叫びながら。元気で賑やかなシェフだ。
シェフなのだけど、何故かいつも調理場にはロングソードが立て掛けてある。何故なら、戦うシェフだから。
「まあ、シェフが持ってきたのね。ふふふ」
ほら、母が笑ってるぞ。だってワゴンを押してダッシュしているから。こらこら、ワゴンが壊れてしまうぞ。
「今日のは、ラウ坊ちゃんのお墨付きです!」
「そうなのね。またラウが考えたのかしら?」
「ちがいましゅ。もうしぇふが、いいかんじでちゅくってました」
「それは素晴らしいわ。シェフ、いつもありがとう」
「な、な、何をおっしゃいます!」
シェフったら母に声を掛けられたものだから、恐縮しちゃってるよ。ガバッと頭を下げて、あれあれ? もしかして涙ぐんでないか?
テーブルに並べられたお皿には、一口ドーナツを並べて品良くホイップクリームを添えてある。ホイップするのに、品良くも何もないのだけど。それだけお上品に可愛らしくデコレーションしてあるってことだ。
「あら、何かしら? 揚げてあるのかしら?」
「そうなんです! 以前、ラウ坊ちゃんに教えていただいた揚げパンをもっとスイーツに寄せました! お好みでホイップクリームをつけてお召し上がりください!」
母がフォークを手に取り、早速いただきましょう。と言って一口ドーナツを、まだ小さくナイフで切る。
えー、俺は一口でいっちゃうよ。
お読みいただき有難うございます!
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宜しくお願いします。
前回からめっちゃあいてしまいました!申し訳ありません( ߹ㅁ߹)
おかげさまで、怒涛の再校、あとがきラッシュを乗り切りました!パチパチパチ!
同月発売ということは、初校も再校も同じ時期なのですね。(今更です(^◇^;))
あとは特典のSS×6本!が、が、頑張りまっす!
明日の月曜日には告知できるかもです。ココちゃんの!
速報とかでは出てますが、私はまだ何も発信していないのです。早く告知したいと担当さんが頑張ってくれました!
楽しみにしていただけると!マジで、私は嬉しくて涙が出ました!念願の……なのです。
皆様に励ましていただきました、うちの老犬ですが、術後に貧血症状がひどくなり輸血しました。
人と一緒でドナー犬の血液とマッチしなければできなかったのですが、無事輸血できました。
その後はどうなるか? うちの子の生命力でしょうか。とにかく食べないので貧血にもなります。
1日4回シリンジで強制給餌をしてます。また元気になってほしいので頑張ります。
切断された足を見ると未だに涙が出ますが、生きていてくれて良かったです。
皆様、本当に温かいお言葉をありがとうございました!励まされました!
どうか、これからもよろしくお願いいたします(*ᵕᴗᵕㅅ)