215ーオヤツは何かな?
母にそう言われてしまったのだから仕方がない。俺は部屋で机に向かっていた。まだちびっ子だから椅子にクッションを置いてもらってやっと届く。
そこでもうどれくらい悩んでいるだろう? ペンが全く進まない。
「むむむむ……」
「らうみぃ、さっきからなにしてるみゃ?」
ミミが肩に止まって、同じ体勢で動かない俺を不思議そうに見ている。
「坊ちゃま、思ったことを書けば良いと思いますよ」
「らって、ふく」
いざとなると、何を書けば良いのか分からない。思ったことを書いてしまうと、大好き、会いたいばっかになってしまうぞ。それって引かれないか? まだアコレーシアは俺のことをどう思っているのか分からないのだし。
「あこちゃんは、ぼくをどうおもっているのかな?」
「あら、坊ちゃまはそんなことを気になさっていたのですか?」
「らって、だいじらよ」
「ふふふ、フクが見ていた限りでは好意を持っておられると思いますよ」
「しょう?」
「はい。自信をお持ちください」
そう言ってもなぁ。きっと俺の『好き』とアコレーシアの『好き』には温度差があると思うんだ。
だって俺は前の時からずっとという、筋金入りの『好き』だ。もう執着といっても良いかも知れない。
だって、アコレーシアじゃなきゃ駄目なんだ。前の時だってそうだった。あんな風にもう泣かせたくない。だから今無謀だと言われても頑張っているのだから。
「えっちょぉ、あいたいれしゅ。またおはなを、もっていきたいけろ、だめらからおてがみにしました。またいっしょに、あしょぼうね」
うん、こんなもんかな? ふむふむと書いたお手紙をまじまじと見る。あれ? ちょっと短いか? どうしよう?
「ふく、みじかいかな?」
「フクはダラダラ長く書くより良いと思いますよ」
「しょうらよね」
よし、これでいいや。
「ふく、あこちゃんにお手紙出してほしいな」
「はい。分かりましたよ」
おフクが俺がたどたどしい文字で書いたお手紙をちゃんと封筒に入れてくれて、うちの家の家紋が入ったシーリングをしてくれる。これで紛れもなく、うちからのお手紙だということになる。
「きっとサイラスさんが届けてくださいますから大丈夫ですよ」
「うん、ありがと」
やっぱなぁ、3歳で毎日お花を持って行くのは無理があるか。
前の時は7歳だったから今よりずっと自由があった。普通に一人でランニングとか言って外に出ていたもの。
きっと俺が気付かないように後ろから誰か付いていてくれたのだろうけど。それでも3歳児の歩みよりはずっとマシだ。
ふむ、と腕を組んで手を顎に当てる。
「らうみぃ、どうしたみゃ?」
「はやく、おおきくなりたいな~っておもって」
「しょうみゃ? あかちゃんにくらべると、おおきくなったみゃ?」
そりゃそうだけどさ。まあ、こればかりはいくら思っても仕方がない。
「ふく、おしょといこう」
「はい。今の時間でしたら奥様も四阿におられると思いますよ」
「うん」
またコニスと一緒にお茶をしているのだろう。そう思って出てきたのだけど、その四阿に母はいなかった。
「あれれ? ふく、いないね」
「あら、本当ですね。ああ、では温室ではないですか?」
父が母のために建てた温室だ。そこで希少な薬草を育てている。希少なものだけじゃなくて、ポーションに必要なメジャーなものもある。
薬草だけじゃなくて、母の趣味のお花も沢山植えてある。
だからそこにもテーブルセットが置かれていて、そこでも母はよくお茶をする。四阿にいなければ、きっとそこだろう。
「ふく、しゃきにしぇふにあいにいこうかな」
「シェフにですか? 調理場ですか?」
「うん、しょうしょう」
「ふふふ、楽しみですね」
おフクが楽しみだと言った。なぜなら俺はシェフと相談して、前の時ではなく、前世の食べ物を作ってもらっているからだ。これがまた評判が良い。
特にうちのスイーツは他では食べられないものもある。先日老師が食べていたクレープもそうだ。
今日はね、ドーナツが食べたいの。俺は詳しい作り方なんて知らない。こんな感じでとシェフに相談する。そしたらシェフが試行錯誤して、作ってくれる。
それがまた、よくここまでのクオリティーで作ったなと感心するくらいなのだ。
今日はお砂糖をまぶした、フワフワなドーナツが食べたい。あれってどうやって作るのかな?
「しぇふ」
「おや、ラウ坊ちゃん。今日は何作りますか!?」
俺が行ったらもう何か作ると思っている。そうなんだけど、でも今日のオヤツも気になっている。
「きょうのおやちゅは、なにかな?」
「今日は、先日坊ちゃんに教えてもらった揚げパンを少し変えたものです」
この世界では固いパンが主流なんだ。バケットやフランスパンみたいなハードなパン。
でもそれって3歳児には食べづらい。だって固いのだもの。だから前にシェフに言って、フワフワなパンを作ってもらった。
知識としてはあったんだ。なのに、ハード系ばかり。その方が、日持ちがするかららしい。
特に、庶民は毎日パンを焼くことなんてしない。そんなの料理人を雇っている貴族くらいだ。
どうせ毎日焼くならいいじゃん。と思って、フワフワのパンを焼いてもらった。
それからうちの主流はフワフワパンだ。そのパンを使って揚げパンを作ってもらったことがある。そんなの忘れていたけど。
お読みいただき有難うございます!
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宜しくお願いします。
いきなり料理の方に振ってますが、実は最近担当さんと話していたのです。
私「3歳になってからおとなしいのですよね」
担「何かしますか?」
私「何がいいでしょう?」
担「美味しいものを作ったりしませんか?」
という話が出たのを思い出して、ちょっと入れてみました。ま、そんなに詳しくしないのですけどね(^◇^;)
ラウにこんなことをさせてみたい!と希望がありましたら、お知らせください!
明日は投稿できないかも知れません。
よろしくお願いいたします。
ラウの1巻が発売中です!よろしくお願いします!