213ー根に持ってる
母と老師、二人にギロリンと見つめられちゃった。えっとぉ、小さくなっておこうかな? 元々3歳のチビだけど。
「ラウ坊! どうしてなのじゃぁッ!?」
老師が身を乗り出して言ってきた。そんなことを言われてもね。
「らって、ろうしはいなかったもの」
「な、な、なんじゃとぉ!」
母が、何か言いたげなお顔をしているぞ。
「私はその場にいたのにお留守番だったわ」
ボソリとつぶやいて、優雅にお茶を飲む。これは完璧に根に持っている。
だって母には危険なことをしてほしくないから。なんて言ったら、やっぱり危険なのね!? と余計に責められそうだから、黙っておこう。
おっと、りんごジュースがもうないぞ。
「ふく、りんごじゅーしゅちょうらい」
「はい、坊ちゃま。フクもお留守番でしたけどね」
あれれ、俺の味方がいないぞぅ。
「ふふふ。仕方ないと分かっているわよ」
「はい。仕方ありませんね」
ふぅ〜、なんだよ。分かってくれているんだ。だってもっと危険なことをしようと相談していたし。
「でも次もお留守番はないわよ」
「はい。フクもです」
ええー! 分かってないじゃん!
「ないみゃ」
な、ミミもそう思うよな?
「ももじゅーしゅが、もうないみゃ」
桃ジュースかよ! 思わずツッコムぞ。
「ワシは興味本位で言っているのではないのじゃ」
「あら、老師。そうなのですか?」
「当たり前じゃ。ワシだって行ってみたいのじゃ」
それを興味本位というのではないかな?
「魔王がいるのじゃろう?」
「らって、まおうじょうらからね」
「やっぱ怖いのじゃろうか?」
「こわくないよ、とってもやさしいよ」
「そうなのか!? やっぱ行きたいのじゃ」
コラコラ、老師の後ろでそっと腰の辺りで手を上げているレイラちゃん。その手は何かな?
「駄目じゃ。レイラちゃんは留守番じゃ」
「……!?」
ガビーン! と音が聞こえてきそうなお顔をしているレイラちゃん。俺の周りの女性陣は、行動的な人が多いらしい。
「殿下が陛下に拝謁しておったわい。きっと魔国のことなんじゃろう」
おや、老師ったら意外にも情報通だ。
「シレッとついて行こうかと思ったら、バレてしもうたわい」
「えー」
何をしているんだ。老師って暇なのか? 街で捕らえた者たちのことは、もう片付いたのか?
「老師は他に仕事はありませんの?」
母ったら超ストレートに言ったぞ。もっと言葉をオブラートに包もう。
「何を言う! ワシはめっちゃ忙しいのじゃ!」
「れも、おやちゅたべにきてるし」
「ラウ坊、おやつは別じゃ!」
老師ってマイペースだからね。だが、一応ちゃんと捕らえた者たちを調べていた。
「あ奴等、自分たちにも呪いの類をかけておるんじゃ」
「えー」
呪いといっても、この国でしているようなことではない。きっと上の者がそれを指示しているのだろう。
自分たちの使命を全うする。万が一捕まった時は何も漏らさない。国のために抗えなくしている。
そんな呪いとも言えるようなことをして、まるで人を道具扱いじゃないか。
そこまでして得る利益はなんだ? 何が目的なんだ?
「そんなの決まっておるわい」
「ろうし、なに?」
老師は目的を予測しているのか? 老師にしては真剣な眼差しで言った。
「この国だけじゃない。各国を狙っておるのじゃ」
デオレグーノ神王国、そこは大陸の北側に連なる山脈の手前にある小さな国だ。
山脈の向こう側はあの魔王が治める魔族の国、魔国。魔素濃度が高いため、植物を育てるにはあまり適さないが豊富な資源がある。
魔王の話によると、最初は魔国を狙っていたらしい。今でも何度もちょっかいを出しているが、魔国に到着する前に山脈の入り口付近で力尽きているという。
デオレグーノ神王国でも多少は魔石が採れる。何に使うにしても有効な魔石。生活にも欠かせない。それはどの国でもそうだ。
そして魔国には魔石が豊富に埋蔵されている。それを狙っているんだ。
「しかも行き当たりばったりじゃわい。だから何も成し得てないんじゃ。ワシから見ると悪あがきをしとるようにしか見えんわい」
ほう、老師って一応考えているんだね。その時の気分で生きているのかと思ってたよ。
「ラウ坊、今何かめっちゃ失礼なことを考えておらんかったかの?」
「なんにもおもってないよ」
「本当かのぉ?」
疑いの目を向けながら、手はしっかりフォークを持っている。今日のスイーツは、シェフ特製のフルーツたっぷりクレープだ。俺が考案したんだぞ。だってとってもクレープが食べたくなったのだもの。
ただ、俺が思っていたような物ではなくて、ナイフとフォークで食べるとってもお上品なクレープが出来上がってしまった。俺は手で持ってかぶり付きたいのだけど。
まあ、何にしろ美味しいものは美味しい。
おやおや? いつの間にかレイラちゃんまで食べてるぞ。しっかりほっぺが膨らむくらいに頬張っている。
「ん!」
俺と目が合うと、親指を立ててきた。美味しいらしい。それは良かった。ふふふ。
「美味いのぉ。ここでは変わったスイーツが食べれるからのぉ。レイラちゃん、美味いのぉ」
レイラちゃんは自分も食べながら、喋っている老師のタイミングをみて頬を拭いたりしている。
老師ったら自分の孫くらいの歳の子に世話を掛けるんじゃないよ。