212ーレイラちゃん
いつもの独特な笑い声と一緒に登場した老師。その後ろからヒョコッと顔を出した女の子。そう、老師付きのレイラちゃんだ。レイラちゃんは真っ直ぐに俺の肩を見ている。正確にいうと肩に乗ったミミにロックオンだ。夜空の星のように目がキラキラと輝いている。
「あら、老師。また連れてきたのですか?」
「アリシア様、そうなんじゃ。一緒に行くと言うからのぉ。むふふん」
またまた『むふふん』ってなんだよ。なんで自慢そうにしているんだ?
「どうじゃ? やっぱ可愛いじゃろう?」
「連れてきてどうするのですか? 消しますか?」
「な、な、なにを怖いことをいうんじゃぁ!」
母が消すと言っているのはきっと記憶のことだ。
「ですから、老師」
母の目がキララ~ンと光った。おお、怖い。
それでもレイラちゃんはミミにロックオンだ。母はレイラちゃんにロックオンだけど。
「消したりはせんぞぉッ! ほら、挨拶をするんじゃ」
「……ん?」
あれれ? 反応が鈍いぞ。なんですか? みたいなお顔をして老師を見ている。でもまたすぐにミミを凝視する。余程、興味があるのだろうね。
「なんみゃ? みみをみているみゃ?」
ああ、ほら。喋っちゃったよ。そうなるだろうな~、なんて思っていたんだ。ミミったら場の空気を読まないから。フェンを見習いな。フェンは老師が入ってきた瞬間に姿を消したぞ。
「……ッん!?」
ほら、レイラちゃんがより一層キラキラした目でミミを見ながら老師の服を引っ張っている。クイクイッと何度も引っ張っている。
きっと心の中ではまた「ほわわー!」て思っていたりするのだろうな。
「なんじゃ? そんなにミミちゃんが気になるのかの?」
「……んんッ!」
なんというか、レイラちゃんって本当に言葉が少ないんだね。前はもう少し喋ったと思うのだけど。
「あの時は頑張ったからのぉ。いつもはこんな感じじゃ」
そうなの? 頑張って挨拶してくれてたんだ。でもこれでよく老師はレイラちゃんが何を言いたいのか理解できるね。
「れいらちゃん、きになるの?」
「……!?」
やっと俺と目が合ったレイラちゃんは、一歩下がって頭を下げた。
「……失礼を致しました」
冷静なフリをしているけど、目はミミを見たままだったりして。
「みみ、れいらちゃんらよ。おぼえてるれしょう?」
「なんみゃ? しらないみゃ」
「……!!」
駄目だよ、レイラちゃんが今にも泣きそうな顔をしているじゃないか。前に会っただろう? 心の中で思っていることが違うとか言っていたじゃないか。
「みゃ? しょうみゃ?」
「ラウったら良いの?」
「らって、かあしゃま。れいらちゃんはいわないれしゅよ」
レイラちゃんがコクリコクリと何度も頷いている。絶対に言わないと意思表示だ。
「いつもはもうちょっと喋るんじゃ。けど、ここにくると緊張するそうじゃぞ」
「きんちょう? しょんなのしなくていいのに」
「そうじゃろう? ふぉッふぉッふぉッ!」
緊張というよりも、どっちかというとミミに釘付けって感じじゃないかな?
だってずっとミミを見ているもの。ミミは素知らぬ顔をして、おフクに桃ジュースを強請っているけど。
「おかわりほしいみゃ」
「ミミちゃん、きょうはもう沢山飲んでますよ」
「らって、おいしいみゃ」
「もう少しだけですよ。でないと夕食の時は無しにしますよ」
「みゃ! しょれはだめみゃ!」
「では、今は少しだけで我慢しましょうね」
「わかったみゃ。しかたないみゃ」
この会話だよ。まるでちびっ子に言い聞かせているみたじゃないか。本当のちびっ子の俺でも、あんなことは言わない。
「らうみぃ、なんみゃ?」
「なんれもないよ」
「しょうみゃ? しょうなのみゃ?」
そんな俺とミミもずっと凝視しているレイラちゃん。
老師はちゃっかりともうオヤツに夢中だ。
「老師ったら、もう。ふふふ」
母はいつも通りに優雅にお茶を飲む。どうやらレイラちゃんの記憶を消すのは諦めたらしい。良かったね、レイラちゃん。
腰の辺りでこっそりピースしているレイラちゃん。こんなところは最初に会った時と一緒だ。
俺は結構良い子だと思うんだ。だってあの老師の世話をしているくらいだし。
良い子だから老師だって甘えているのだろう。ほら、今だっておフクを手伝って老師にお茶を出している。
「フクも良い子だと思いますよ、ラウ坊ちゃま」
「しょうらよね」
おフクったら、最近また俺の心を読むスキルのレベルが上がったらしい。
「で、今日はなんですの?」
「そうじゃったッ! 酷いではないかぁッ!」
老師、ほらお口からオヤツが出てしまうよ。突然何を興奮しているのかな?
「魔王城に行くならワシも一緒に行きたかったのじゃッ!」
「あら、そうですの? でも老師はシールドがお得意ではないのでしょう?」
「そ、そ、それを言ってはいかんのじゃッ!」
ふふふ、シールドはミミが担当してくれるから、本当はそんなに必要ないのだけどね。父たちもシールドは張れないから。母ったらちょっぴり意地悪だ。
「私も行けなかったのですもの」
「そうなのかッ!?」
「ええ、お留守番でしたわ」
あー、これは母も行きたかったのにってことだろう。