206ー行くよー!
騒いでいるアンジーさんはスルーして。
「みみ、のせて!」
「みゃ!」
身体がフワリと浮いて、パフンとミミの背中に着地だ。父とアンジーさんはキョトンとしているが、相変わらずサイラスはポーカーフェイスだ。
だけど、分かったぞ。ちょっぴり額に汗をかいていて、蟀谷がピクピクしている。サイラスも結構驚いているらしい。
「ミミはこんなことができるのに、普段はあれか」
「そうッスよね」
二人共酷い言いようだ。確かにいつもは、抜けてるけど。
じゃあ、出発しよう!
「みみ、いこう~!」
「みゃみゃみゃ!」
「しぇいれいじょうおう、いってくるね~!」
「気を付けるのよ~!」
精霊女王が手を振ってくれている。ミミに乗るのって好きなんだ。だって気持ち良いもの。
ミミが大きく羽搏くと一気に上空に上がる。その時に、下からブワンと風が舞い上がるんだ。
でもね、ミミがちゃんとシールドを展開してくれているから大丈夫だよ。
俺たちが飛ばされないように、浮き上がらないように重力魔法も使ってくれている。これでもミミはできる鳥さんなのだ。
「ひえーッ! 胃がひっくり返るー!」
「アハハハ! これは気持ち良い! フェン! お前もできるのか!?」
そっか、フェンだって本当の姿ってのがあるのかも知れない。
フェンが父の肩のところから顔を出している。
「おうよ! 俺だって乗せて飛べるぞ!」
「そうか! それは凄いぞ!」
父とアンジーさんは賑やかだね。ちょっとテンションが高くなってないか?
「坊ちゃん、いつもこうして行かれていたのですか?」
一人静かだったサイラスが聞いてきた。
「うん、しょうらよ」
「0歳の時からですか?」
「しょうしょう」
「はあ~、もうお一人でこんな危険なことはなさらないでください。私がお供いたしますので」
「えー、あははは! ありがと」
あら、心配されちゃった。でも大丈夫だよ。
思えば結構無茶をしていた。だって0歳だったもの。
あばー! と言いながらミミと一緒にいろんなことをした。精霊女王にも心配されてたっけ。
「ふふふ、たのしいんら」
「楽しいのですか?」
「しょう、みみといっしょにね。あははは」
「坊ちゃんは無茶をなさる」
「しょうかな~」
だって最悪の未来を回避するためなら何でもするさ。
それになにより、本当に楽しいんだ。無気力に生きているよりずっといいと思うよ。俺は少なくとも、前の時よりずっと充実している。
周りの景色が変わってきた。聳え立つ山脈を悠々と越えてミミは飛ぶ。
「ラウ、これは北の山脈だろう? どうして寒くないのだ?」
「とうしゃま、みみのしーるどれしゅ。まおうじょうにはいるときは、ぼくがみんなにしーるどかけましゅ」
「そうなのか?」
「あい。ふちゅうらと、いきてられないれしゅ」
「なんだと!?」
「ラウ坊ちゃん! 生きていられないんッスか!? そんなに危険な場所なんスか!?」
「アンジー、落ち着きなさい。魔国は瘴気が濃いというでしょう。だからですか? 坊ちゃん」
「しょうしょう。まおうにあったら、まおうがしーるどしてくれるからね」
「そんな場所にラウは0歳の時に行っていたのか!?」
「しょうれしゅ。とうしゃま、たのしかったれしゅ」
「楽しいのか! アハハハ! ラウらしい!」
「ちょ! 殿下! 笑い事じゃないッス!」
はいはい、アンジーさんは少し落ち着こう。もうすぐだよ。
眼下の景色が山脈から黒い靄の掛かった魔国へと変わっていく。まだ昼間だというのに、薄暗くて不気味な雰囲気がする。
「ラウー! 一緒に行くのれしゅ!」
あ、ごめんね。忘れてたよ。後ろからピューッ! と弾丸のように飛んできたのはバットだ。ミミのシールドがあるから、すぐ近くを飛んでいる。
「ばっと! ごめんね!」
「平気なのれす! 魔王しゃまに会うのれしゅ!」
嬉しそうだ。パタパタと蝙蝠みたいな翼を動かして飛んでいる。
俺たちは一度精霊界を経由しているから、ショートカットさせてもらったようなものなんだ。
そうじゃないと、お邸からかなりの距離がある。それなのに、バットは追いついてきた。どんだけ速く飛べるのだろう?
「ばっと、はやいね〜」
「当たり前なのれしゅ! バットは魔王しゃまのペットなのれしゅ!」
ペットだから速いとは? 意味が分からないけど、それだけ魔族は身体能力が高いのだろう。
バットじゃなくても、魔族は軽く山脈を越えてくるんだ。そんな種族に勝てるわけがないじゃないか。
「らうみぃ、しょろしょろみゃ」
「うん、みみ」
ミミに言われて下を見ると、魔王城が見えてきた。相変わらず、おどろおどろしい真っ黒な城だ。周りをバットの仲間が群れて飛んでいる。
「魔王しゃまのお城なのれしゅ! かっちょいいれしゅ!」
「とうしゃま! まうえにちゅいたら、てんいしましゅ!」
「ラウ、大丈夫なのか!?」
「いやいや、やっぱ帰りましょうよ! めっちゃ怖いッス!」
「これはなんて不気味な……」
そうだよね、かなり不気味だ。でも、もう慣れちゃったよね〜
魔王城の真上に着くと、俺の出番だ。
「みみ、てんいしゅるよー!」
「ラウ! シールドは俺がやろう!」
いつものお顔だけニュウッと出すのではなく、ポポンと全身で登場のフェンだ。
「シールドは任せろ。転移に集中するといいぞ!」
「ふぇん、ありがと!」
フェンがサポートしてくれると助かるね。じゃあ、行くぞ!
「みみ、とうしゃま! いくよー!」
「いくみゃ!」
「おう!」
「ひぃーッ!!」
「……ッ!」
シュンッ! とみんなで転移して魔王城へ!