205ーポーカーフェイス
「とうしゃまとあんじーしゃん、それにさいらす、いきましょう。まおうじょう」
「魔王城か、ふむ。よし! 行こう!」
「ちょ、ちょ、ちょっと殿下! ラウ坊ちゃんも何言ってんッスか!?」
あれ? どうして? いいじゃん。もう会ったことだし。
ほら、サイラスは頷いているぞ。この違いはなんだ?
「嫌ならアンジーは留守番していなさい」
「そんなわけにいきません!」
別にいいじゃん。
「あんじーしゃんは、おるしゅばん」
「ラウ坊ちゃん! 殿下が行くなら俺も行きます!」
「アンジーというのか? お前は、いちいちうるさいぞ」
「そんな! 魔王様!」
ふふふ、アンジーさんっていじられキャラだったのだね。
ということで、父と一緒に魔王城へ行くことになった。そうなったら早速行こうということで。
「とうしゃま、いいれしゅか?」
「おう、いいぞ」
「俺は全然良くないッスけどね」
だからアンジーさん、往生際が悪い。
「さきにね、しぇいれいかいにいくの」
「精霊界にか? どうしてだ?」
精霊界を経由したら、こっちと時間の流れが違うのだと説明する。あれ? でも待って。それってもう必要ないんじゃないか? だって秘密ではなくなったのだから。
「みゃ、みみがこまるみゃ」
あー、ピーチリンだ。ミミの目当てはそれしかない。それと大切なことがある。
「みみが、おおきくなるから」
「なに!? ミミがか!」
「しょうしょう」
じゃ、行こうか。なんてとっても気軽に思っていたら、アンジーさんが超緊張していたから思わず笑ってしまった。
「ふふふ」
「坊ちゃん、笑わないでください」
「だってあんじーしゃん。しょんなにきんちょうしなくても、らいじょぶらよ」
「それは無理ッス。なにしろ、精霊界に魔王城なんスから」
あら、そう? そうかな? 俺はちょくちょく行っているからなんともないんだけど。
「坊ちゃん、いつから行ってたんスか?」
「えっちょ、0さいから、ちょくちょくね」
「なんだと!? ラウ! 精霊女王だけじゃないのか! 魔王とも会っていたのか!?」
もういいや。秘密にするのも面倒になってきちゃった。
「らって、おともらちらから」
「坊ちゃん、魔王とお友達ッスか?」
「しょうしょう。ふふふ」
父とアンジーさんが項垂れているけど、そんなの無視だ。
そのとんでもないメンバーとの会談の数日後、満を持して俺たちは決行することになった。
メンバーは父とサイラス、それにアンジーさんだ。未だにアンジーさんは挙動不審なのだけど。
「みみ、いこう」
「みゃ!」
行くよ~! と精霊女王を呼ぶ。
「あら、本当に行くのね?」
「うん、いくよ」
「ふふふ、じゃあ行きましょう」
精霊女王がそういって腕をフワリと動かすと、俺たちの周りにキラキラと光る粒子が纏わりついた。そのまま視界が代わり、周りの景色が光る川の流れのようになって動いていた。星が後ろに流れていくみたいでとっても綺麗なんだ。
「あー! 目が回るッス」
「アンジー、お前は煩いぞ」
「だって殿下! 殿下は平気ッスか!?」
「綺麗なもんじゃないか」
はいはい、アンジーさんは賑やかだけどサイラスは平然としている。大丈夫そうだ。
「いえ、坊ちゃん。私もとんでもなく驚いておりますよ」
「しょうなの? じぇんじぇんわかんないや」
サイラスさんは顔に出ないタイプらしい。
光が途切れると、そこは輝く樹が沢山生えた精霊界に到着だ。樹だけじゃない、緑の葉を伸ばしながら花々が咲き乱れている。光の粒子を放ちながら流れている小川もある。
「これは見事だ」
「マジッスか……」
「言葉がありませんね」
そうそう、綺麗だろう?
空気だけじゃなくて、なにもかもが違うんだ。キラキラと光を放っていて、眩しさに眼が眩みそうだ。
そのずっと向こうに、大きな世界樹がある。世界樹があるからこの世界があるとまで言われている樹だ。どこまで伸びているのか分からないくらいに高く、その枝葉は上空へ向かい天に届くかのように伸びている。低い雲を突き抜け、何処まで伸びているのか先端が見えない。
その前に生えているのが、ミミの大好きなピーチリンの樹だ。
「みゃ! ひとちゅらけ、たべてもいいみゃ!?」
「みみ、かえりね」
「ええー! いまたべたいみゃ!」
「これ、ミミ。後にしなさい」
「しかたないみゃ。がまんしゅるみゃ」
毎回同じことを言われているぞ。ミミったらいい加減に覚えようね。
「みみ、いくよ」
「わかったみゃ」
そう言うと、ミミが元の大きさになった。
「ええええーーーッ!!」
「なんだと! 本当にミミなのか!?」
アンジーさんと父が驚いて声をあげ、アンジーさんなんてこれでもかってくらいに目を開いている。
「とうしゃま、これがみみの、ほんとうのおおきしゃれしゅ」
「そうなのか!?」
「でっか!」
アンジーさんったら、さっきから単語しか話してないぞ。大丈夫か?
「ラウ坊ちゃん、驚かないでいる方が無理ッス」
「しょう? らって、さいらすはへいきしょうらよ?」
「いえ、坊ちゃん。私も十分驚いてますよ」
やっぱサイラスは表情が変わらない。全然驚いているようには見えないし。
でも俺が初めての時もアンジーさんほど驚かなかったぞ。
「ミミが大きくなってどうするんだ?」
「のりましゅ」
「ええーッ!?」
ほら、また叫んでいる。賑やかな人だね。