202ー危険だからね
ほら、アンジーさんとサイラスはまだ戸惑っているのに。
「ラウ坊ちゃん、マジで行く気ですか?」
「うん、いくよ」
「殿下も行くって言ってますよ」
「ね、どうしよっか」
アンジーさんは肩を落としている。あれれ? どうした?
「殿下お一人で行かせるわけにはいかないッス」
「あー、ごめんね」
「いや、らう坊ちゃんは悪くないッスけどね」
「坊ちゃん、私もご一緒できませんか?」
サイラスだ。ええー、そんな大所帯にしたくないのだけど。
「もちろん、フクもご一緒します!」
いやいや、なんでだよ。おフクは駄目だって。
「ふく、きけんらからね」
「坊ちゃまだって危険は同じです」
「あら、私だって一緒に行きたいわ」
そう言った母の後ろでコニスが手を上げている。はい! はーい! と言わんばかりの勢いで手を上げていた。
だからうちの人たちってどうしてこうなのだろう? やっぱ内緒にしておくべきだったかな?
「ワッハッハッハ! さすがラウの親御殿だ!」
見ていた魔王が大きな声で笑った。なんだよ、それってどういう意味だ?
両親は、俺のことになると盲目になるんだよ。マジでさ。きっと今だってあんまり深く考えずに、俺が行くなら自分もといった感じで言っているのだろうと思うよ。
「ラウ、そんなことはないぞ。この国で諜報を統治している父殿だ。ラウよりあの国の事情には詳しいだろう。呪いの危険性も分かっておられる。だからなおさら、ラウを一人で行かせられないと思っておられるのだ。その気持ちを汲まなければな」
「しょうかな?」
そう思って父を見る。あれれ? 今ちょっとだけ目を反らさなかったか? そう思って母を見ると、クスクスと笑っていた。
この母の反応だと、きっと俺の考えの方が正しいと思うぞ。目を反らしたのが良い証拠だ。
「とうしゃま、ぼくとまおうでいってきましゅよ」
「なにをいう! 私も行くと言っているだろう! あの国には一言どころかしっかりと文句を言ってやらないと気がすまん!」
あー、そっちかぁ。まあその気持ちも分かる。今まで散々ちょっかいを出してきている。その度に父は振り回されているから。それになんだっけ、一度掴まったことがあったよな? しかもその時、母に助けられたのだっけ?
「ふふふふ……」
ほら、母が笑っているぞ。父はきっとあの時のことを根に持っているんだ。
「あなた、また捕まりますわよ」
言ってはいけないことを母が堂々と言った。しかも含み笑いをしながらだ。
「アリシア! なにをいう! そんなヘマはしないぞ!」
「いや、殿下。危ないですって」
「アンジー、お前は留守番していればいい!」
「そうッスか? じゃあ俺は留守番ってことで」
「アンジーーーッ!」
ね、こんな両親だけど俺は好きなんだ。力が入り過ぎていないところが良いだろう? 違う意味での力は入っているのだけど。ほら、俺に関することには全力だから。
それも有り難いことだ。前の時には、こんな当たり前のことさえ俺は気付かなかった。両親の良いところを全然理解していなかった。
「ラウ、そうね。でもアリシアはお留守番よね」
「しぇいれいじょうおう、しょうらよね」
「あら、私は足手まといにはならないわよ」
「かあしゃま、おるしゅばんしててくらしゃい」
「ラウ、私だって心配だわ」
「らいじょぶれしゅ。まおうもいっしょらし」
「そうだけど……えっと、魔王さん?」
「おう、なんだ?」
「あなた魔王っていうくらいなのですから、お強いのですわよね?」
「ああ、もちろんだ。魔族の中で我が一番強い」
「ですから魔王様なのですよ。最強なのです」
アースランが自分のことのように自慢している。アースランって本当に魔王のことが好きだよね。
「ラウ、魔王様は至高の方なのです! ですから、顔面にダイブして良い方ではないのですよ」
ジロリンと見られちゃった。ごめんね、いつもいつも魔王の顔面に転移してさ。だってどうしようもないのだもの、不可抗力だ。
「ラウは魔王様に魔法の使い方を教わったらどうですか?」
「しょれはみみに、おしょわってるよ」
「ミミですか……」
え? その残念そうなお顔はなんだ? な、ミミ。
「みゃ?」
聞いてないよ。桃ジュースに夢中だった。そんなとこだぞ。だからミミは頼りないって思われるんだぞ。
「みゃみゃ? なんのはなしみゃ? ももじゅーしゅもっとのむみゃ?」
「ミミちゃん、もうそれでおしまいにしておきましょうね」
「ええー、もっとのみたいみゃ。いちにちじゅう、のんでたいみゃ」
一日中なのかよ、そんなに好きなのか? いや、好きだよな。だって桃ジュースのことが頭から離れないだろう? いつも何かと言うと桃ジュースって言ってるものね。
「らうみぃ、とうじぇんみゃ。ももじゅーしゅは、ちょうおいしいみゃ」
はいはい、それは何度も聞いているよ。それよりも、ミミ。今俺たちが話していることを聞いていたか?
「みゃ? みみは、かんけいないみゃ」
そうかよ、ミミも行くんだけどな。その時はしっかりと頑張ってもらおう。
「みゃ? どこにいくみゃ? またしぇいれいかいにいくみゃ?」
ミミったら本当に何も聞いてなかったな? 精霊界じゃないだろう? デオレグーノ神王国だ。