200ーストーカー?
俺の話を聞いた父が言った。
「魔王に会ったのは、戦を起こさせないためか」
「あい」
「そしてデオレグーノ神王国にも行くつもりだと」
「……あい」
まあ、これですまないだろう。だって、どうしてそう思うのだ? そこまでする理由は何だ? と思われるだろうし。
そう俺が思ったように、案の定父に聞かれた。
「ラウはどうしてそう思うのだ?」
「えっちょぉ……」
俺がこの生が二度目だということは、できれば言いたくない。知らない時のことだとしても、両親に自分の子供が殺されたとか自分たちの最後とか聞かせたくないんだ。
「私がね、その可能性があると話してしまったのよ」
精霊女王が助けてくれた。バシコーンとウインクをしながら。だけど助かった。ありがとう。
「精霊女王がそう言うのならそうなのだろう。だが、ラウ。自分一人で抱える必要はない」
「そうよ、ラウ。私たちにも話して欲しかったわ」
「フクもですよ、坊ちゃま。私は何もできないかも知れませんが、フクだってお役に立ちたいと思います」
「とうしゃま、かあしゃま、ありがとうごじゃいましゅ。ふく、ありがと。」
俺が二度目だってことは、なんとか秘密にできたらしい。
それから精霊女王と魔王も含めて、例の会議室に移動した。もちろんいつものメンバーも一緒だ。途中で入ってきたアンジーさんが目ん玉が飛び出るくらいに驚いていた。
「な、な、なんスかッ!? 一体どうなってるんスか!?」
俺の手紙とお花をアコレーシアに届けに行ってくれていた。で、ちゃんと渡せたのかな?
「あんじーしゃん、あこちゃんはげんきらった?」
「え? え? 今それ聞くッスか? それって今のこの状況より大事ッスか?」
「うん、らいじ。とってもとってもらいじ」
ええー……と、めっちゃ引かれてしまったけど。俺にはとっても大事なことなんだ。だって本当は会いに行きたかったのだから。
「お元気でしたよ。わざわざ出て来てくださいました。ラウ坊ちゃんによろしくとおっしゃってましたよ」
「しょう、ありがと」
ふふふん、やっぱ会いに行きたいな~。と足をプランプランさせる。
「坊ちゃん、ご機嫌ッスね」
「え? しょんなことないよ。ほんとうは、あいにいきたいもの」
「そうッスか。自分はそれどころじゃないッス」
え、そうなの?
「ほら、サイラスさんを見てください」
なになに? サイラスがどうしたって? 見てみると、サイラスも固まっていた。いつもクイッと指で上げている眼鏡がズレてるぞ。
さすがに、おフクはもう慣れていた。おフクって何気に順応性が高いね。せっせとお茶を淹れて皆に出している。
精霊女王なんて、私は桃ジュースが良いわ。なんてリクエストをしている。
アースランはおフクの側で、お茶を淹れるのをじっと見て質問して教わったりしている。
「みみも、ももじゅーしゅがいいみゃ」
みんなとっても自由だね。自由すぎないか?
「ふく、ぼくもじゅーしゅがいいな」
「はい、分かりましたよ」
「フク殿、これは何のジュースですか?」
「それはりんごジュースですよ。ラウ坊ちゃまの分です」
「ほう、ラウはりんごジュースが好きですか?」
「ええ、よくお飲みになりますよ」
「ほうほう」
メモまで取っている。魔界にりんごジュースはないと思うぞ。
「魔王様、これを機会にこの国と本格的に交易を始めたいですね」
「そうか?」
「はい。ラウの好きなりんごジュースは魔界にはありませんから」
「何!? ないのか!」
「あるわけないじゃないですか」
「それはいかん。父殿、交易しないか?」
「いや、それは私の一存では決められない。だが、その希望は陛下に伝えて考慮しよう」
「ああ、頼んだ」
えっと……俺のりんごジュースが切っ掛けなのか? それってどうなの?
「ラウ、何が切っ掛けかは些細なことです。両国が豊かになるなら良いことですよ」
アースランがそれっぽいことを言っているけど。まあ、いいか。
「で、魔王は戦をするつもりはないのだな?」
「ああ、ないぞ。ラウとも約束をしたからな」
まただ。俺のことはいいんだ。国と国との関係には関与したくないって。だって俺はまだ3歳児なんだぞ。
「それより、バットが言っていた呪いだ」
「今日ラウを攫った奴等だろう? あれは操られているから何も聞き出せないだろう」
「そうね、記憶がないでしょうね」
「ちょっと待ってちょうだい。どうして今日あったことを、精霊女王と魔王は知っているのかしら?」
ほら、母の疑問はもっともだ。魔王と精霊女王が、どうしてそれを知っているのかだよ。また二人共見ていたな。どこまで見ているのか、またまた不安になってきたぞ。
「あら、だってラウは大事な子ですもの。ちゃんと見ているわよ」
「そうだな、そのためにバットがいるのだしな」
「バットはいつもラウのそばにいるのれしゅ!」
「はぁ~……あなたたちは、ラウのストーカーなの?」
母よ、よく言ってくれた。二人でギクッとしているんじゃないよ。俺がなにも言わないからって、ずっと見ていたのだろう?
「ましゃか、おふろとか……」
「ラウ、そこは見ていないぞ!」
「そうよ、お風呂とトイレは見ていないわよ!」
まあ、いいや。もう慣れちゃったから。俺を心配してくれていることは分かるし、俺もお世話になってるし。仕方ないと思うさ。
「ラウが突拍子もないことをするからだろう。私だって心配だからな」
「だからって、あなた」
「守ってくれるのだろう。ラウの安全のためだと思おう」
「それはそうなのですけど。ラウは良いの?」
「かあしゃま、もうなれました」
「あら、そうなのね」
そうなのだよ。だって今に始まったことじゃないから。なにしろ0歳の時からだからね。
それに二人とも、俺の前の時のことを知っているから余計だ。あんなことにはしないようにとも、思ってくれているんだ。その気持ちは嬉しい。
「それで、呪いならデオレグーノ神王国だな」
「あの国は私もあまり知らないのよ。なにしろ精霊がほとんどいないのですもの」
「あら、そうなの?」
「ええ、呪いなんかを使う国に精霊は寄り付かないわ」
「その呪いだが、我等魔族の方が詳しいだろう。だが我々も呪いは使わないぞ」
「魔王、それは使えないのか? それとも使えるが使わないのか?」
「父殿、良いところに気が付いた。魔族は呪いを使えるが使わない」
えっと、この状況を普通に流しているけど。会議に出席するいつものメンバーに加えて、精霊女王と魔王、それにアースランがいるのってとっても違和感があるのだよ。