20ー喋っちゃダメ
「あぶぶぶ」
「ん? 何を話してくれているのだろう」
「あばう」
「アハハハ、よく喋る子だ。可愛いなぁ」
将来、今の笑顔を忘れる事なく王妃に騙されたりしてくれるなよ。と、俺は願う。
「今日もライは仕事なのだろうな?」
「はい。伯爵家の件ですわ」
「ああ、あの件か。いつもライには厄介事を任せてしまって」
そんな話をしていたら、廊下の方が騒がしくなった。女性の黄色い声が、廊下に響いている。
「陛下」
王の側近が部屋の外を見た。
「どうした? 何事だ?」
「どうやらライナス様がお越しのようです」
「まあ!」
母は呑気だ。本当は来ると知っていたのではないか? あまりにもタイミングが良すぎるだろう?
「陛下、突然申し訳ありません」
「構わないよ。ライならいつでも歓迎だ。丁度、ラウルークが来ていたところだ」
俺は思いもかけず、父が現れたものだから王の腕の中から手を伸ばす。
「ばうばー」
「ラウ、お利口にしていたか? ミミもだ」
そう言いながら俺を抱っこしてくれる。
「あうだー」
「ミミはおりこうみゃ」
え……ミミ。喋ったら駄目だと言われていただろう?
「らって、ちちしゃまにきかれたみゃ」
「え、ええッ!? ライくん、この鳥さん喋るのか!?」
「兄上、これはラウの使い魔です。それでも精霊です」
「なんだって!? えッ!? でも実態があるよ?」
「はい、この使い魔はあるんです」
二人して、俺の肩に留まっているミミを見た。王なんて凝視している。
そして父はまたガシィッとミミを掴んだ。
「外では喋ってはいけない」
「らって、ちちしゃまきいたみゃ!」
「ピヨと鳴けば良いだろう!?」
「しょ、しょんな、りふじんみゃ!」
ミミは頭を抑えられ、ギギギギギィと音がしてきそうだ。なんて、本当は全然力を入れていないんだ。
近くで見ていると、それがよく分かる。
これは父が楽しんでいるのではないか? ミミを揶揄っているのだろう。
半分は言い聞かせているのだろうけど。
「いや、そんな事より兄上」
「ん、何かな? ライくん」
王が父の事を『ライくん』なんて呼んでいる。しかも、目尻を下げて可愛い弟だと目が物語っている。
だが、父は今回冷静だった。お仕事の話になりそうだ。なら俺は用がないから。
と、おフクの腕に戻ろうと手を出した。
「ラウ、初仕事だ」
「あばば?」
初仕事とは、これ如何に? 俺は赤ちゃんなのだけど?
城の中にも一応父の執務室がある。王とは別れてそこへ移動した。
「私だってラウとまだ一緒に遊ぶのだ!」
王はそう駄々を捏ねて俺を抱っこしようと手を伸ばしてきたけど、控えていた側近が静かに移動して王を羽交い締めにした。
その為にずっと控えていたのか? なかなか慣れた手付きだった。
こんなところは、さすが兄弟だ。よく似ている。
「ももじゅーしゅ、あるみゃ?」
「はい、持ってきておりますよ」
「のむみゃ」
「ミミちゃん、喋ったら駄目だと言わなかったかしら?」
「みゃ、みゃ、まだだめなのみゃ?」
「駄目だ。私の部屋に入るまでは、ピヨしか言ってはいけない」
「みゃ!? 分かったみゃ。ピヨ」
いや、もう今更ピヨと鳴いたって遅い。
父の執務室、一回目の時にはあまり来た事がなかった。
俺は父の仕事を、あまり良くは思っていなかったからだ。
どうして父はそんな事をしているのかと思っていたんだ。実際に父の仕事内容を知っている人は少ない。だから貴族から色んな事を言われたんだ。
穀潰しだとか、寄生虫だとか散々な事を言われていた。公にすれば良いじゃんとかも思っていたんだ。今は、そうじゃない。
死ぬ経験をして、少し考えが変わった。
父も国を支えているんだ。王が表立って動けない事を代わりに引き受ける。
そして、残酷な判断も下す。それがどんなに大切な仕事なのか、一回目の時よりは理解しているつもりだ。
何より最後の時、家族や婚約者はもう王妃一派に粛清されていると聞いた。
それを確かめる術はなかった。俺の大切な人達を守れなかったと、心から後悔したんだ。
そんなので何が大賢者だ。何が他の者達よりも遥かに優れた知見や魔術だ。膨大な魔力量を持っていたって、何の役にも立たなかったじゃないか。
だから今回は必ず守ると決めたんだ。
何が何でも守る。俺の大切な人達を守るんだ。そう決めてから、父の仕事も前程嫌ではなくなった。
父は父で色んなものを守っていたんだと思えたから。
「ももじゅーしゅはおいしいみゃ」
呑気なミミがそう言いながら、お皿に入れてもらった桃ジュースを啄んでいる。
なんで桃ジュースなのかは知らないけど。
離乳食が始まってから、俺も麦茶の様なものを飲む様になった。
前世で飲んだ事のある麦茶よりはずっと薄いけど。
こうして少しずつ味を覚えていくのだなと、一人感慨深いものを覚えたりなんかした。
赤ちゃんの頃の記憶なんて普通はないだろう? 赤ちゃんなのにこうして色々考える事ができるのも、何故だかやり直しの人生を送る事になったからだ。
「ラウ、初仕事だ」
「あぶあー」
「お前の高速ハイハイが役に立つ時が来た」
「あばば?」
高速ハイハイが父の仕事の役に立つのか? そんな事はないだろう。
赤ちゃんに仕事が手伝えるとは思えない。
俺は何を言っているんだと、不思議に思っていた。
父に抱っこされて、連れて行かれたのが貴族が色んな手続きをしにやって来る部署だ。
と、父が話していた。俺はそんな事全然知らない。
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ラウくんも頑張りますよ〜!
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