197ーお手紙を書こう
お昼を食べて、母と一緒に庭でお花を選んでいると父がやってきた。
「ラウ、しばらく外出は禁止だ」
「とうしゃま、あこちゃんにおはなを、もっていきましゅ」
「しばらく我慢しなさい」
ええー、だって毎日行くって決めたのに。なによりアコレーシアに会いたいし。
「ラウを攫った黒幕が誰なのかはっきりするまでは駄目だ。下手に動いてクローバ家が危険にさらされたらどうする」
それは嫌だなぁ。俺は大抵のことは大丈夫だ。アンジーさんやサイラスがいるし、自分でも転移できる。でもアコレーシアは普通の3歳児だから。
「仕方ないれしゅ……」
お花も選んでいたのになぁ。
「坊ちゃん、俺が花と手紙だけでも届けましょうか?」
「ほんと? あんじーしゃん」
「はい、俺がこっそり行ってきますよ」
仕方ない、それで我慢するか。
アコレーシアが危険な目に遭うのは嫌だし。
「じゃあ、おてがみかきましゅ」
「あら、今日は私も一緒に行こうと思っていたのに残念だわ」
「アリシア、それはもっと駄目だ。アリシアが動くと目立つ」
「まあ、なんだか失礼だわ」
「なにを言う。アリシアは綺麗だから目立つんだ」
「まあ、あなたったら」
はいはい、子供の前で良い雰囲気になるのは止めて欲しい。ね、アンジーさん。
「ラウ坊ちゃん、花は選んだんッスか?」
「うん、これ」
すぐそこに咲いているピンクのフリージアを指差す。もうフリージアも終わりだと庭師のお爺ちゃんが言っていた。次はどの花にしようかな。俺も一緒に育てたいなと最近思うんだ。自分で育てたお花をプレゼントするのって良いと思わないか?
そう思って庭を何気なしに見ていると視界に小さな黒いのが入ってきた。木の下にプララ~ンとぶら下がっている。あれはバットだ。なんだ? 俺の目に入るところにいるということは、何か言いたいことがあるのか?
「じゃあこれ、何本か切ってもらうッスね。後で手紙をもらいに行きます」
「うん、ありがと」
アンジーさん、ただ持って行くのじゃないぞ。ちゃんとおリボンで結ぶんだぞ。
「なんスか?」
「あのね、おリボンで、むしゅんでね」
「アハハハ! はいはい、了解ッス」
よし、じゃあ俺はお手紙を書こう。
「ふく、おへやにもどろう」
「はい、坊ちゃま」
おフクがまだ晴れない表情をしている。だからおフクの所為じゃないって。
「ふく、らっこ」
「はい」
ほら、元気がないじゃないか。
「ぼくのうばは、ふくらけらからね」
「坊ちゃま……!」
「いなくなったら、いやらからね」
「ですが、坊ちゃま。私が抱っこしておりましたのに……」
「あれはしかたないよ。ふくのせいじゃない」
「しょうみゃ。あれはびっくりしたみゃ」
「びっくりしたよね~」
「みみはにげるひま、なかったみゃ」
なんだと? ミミ一人で逃げようと思っていたのか? なんて奴だ。
「ちがうみゃ! みみはらうみぃといっしょみゃ!」
「らって、いまにげるひまが、なかったっていったよ?」
「みみのてんいれ、にげようとおもったみゃ」
ほう、本当か? ミミにしてはまっとうなことを考えているじゃないか。だから余計に怪しいぞ。
「らうみぃ! しちゅれいみゃ!」
「らって、みみだもの」
「あんじーしゃんが、てんいはだめらって、いってたみゃ!」
確かに言ってたけど。それをミミが聞いていたというのも怪しい。
「ひどいみゃ! みみはてんしゃいみゃ!」
俺の肩の上で、パタパタと羽搏かせるからお顔に羽が当たって鬱陶しい。
「みみ、いたいよ」
「みゃ! ごめんみゃ?」
どこまで本当なのか分かったもんじゃない。
お部屋でアコレーシアへのお手紙を書こうと机に向かっているのだけど。
「えっちょぉ……なんて書こうかな」
「ラウ坊ちゃまは、文字が書けるのですか?」
「え……」
おっと、今の俺はまだ3歳だった。この歳の時はまだ文字が書けなかったっけ?
「まだお勉強はされていないのに、いつの間に覚えられたのですか?」
やべ、まだ書けない感じらしいぞ。
「ふく、かわりにかいてほしいな」
「そうですか?」
「うん、まらかけないから」
「はい、なんて書きますか?」
「えっちょぉ……こんにちは」
「ふふふ、こんにちはですね?」
「うん。しょれから……」
これって今回初めてのラブレターになると思うのだけど、それをおフクに代筆してもらわないといけないなんてなんて無理ゲーだよ。恥ずかしいじゃないか。
「それから、何て書きますか?」
「ふく、なんてかこう? きょうはいけないのって、かきたいな」
「はい、そのまま書きましょうね」
なんだかおフクが生温かい目で見てくるのだけど。余計に照れるじゃないか。
椅子に座って床に届かない足をプランプランさせながら考える。
「しばらくいけないのって、かくほうがいいかな?」
「そうですね、しばらくは行けないでしょうから」
「うん、じゃあしょうかいてほしいな」
「はい、わかりましたよ」
「けろね、あいたいのってかいてね」
「あらあら、ふふふ」
「いっしょにごほんを、よみたいね~って」
「はいはい」
俺とおフクくらいなら転移で行けるのだけどな。それでも駄目かな? そう思って腕を組みプクプクのお手々を額にペトッとあてて考える。