192ーロックオンだ
魔術を使えても、呪いを扱える人は例の国のあの種族しかいない。もしかしたら大昔は使う人もいたのかも知れない。
だが、俺たち人間が使う魔法は精霊が関わっている。其々の属性に合った精霊が、ほんの少し力を貸してくれている。
その精霊が嫌う呪いを扱うと、魔術が使えなくなると言われているらしい。
その上、以前フェンとリンリンが話していた反動だ。呪いの術者の命を奪ってしまうほどの反動がくる。
多分だけど、昔の人は分からないなりに推測して呪いを封印したのじゃないだろうか?
そんなこともあって、呪いとなると今ではあの国デオレグーノ神王国しか考えられない。
「まだ入り込んでいたのか」
「殿下、もしかしてあの時の報復とかッスかね?」
「そうなると厄介だぞ」
「なにしろ私共は呪いがどんなものなのか、よく分かっておりませんからな」
枢機卿が言うように、アバウトなことしか分かっていない。呪いに反動があることだって、あの真紅の髪の女性の件があったから分かったことだ。しかも頼りになるフェンたちも、精霊は呪いが嫌いだといって詳しくは知らない。反動があることくらいしか知らないんだ。
「そういえば、殿下」
「なんだ?」
「あの女性を捕らえたのは殿下だと聞いております。呪いを扱う相手をどうやって捕らえたのですか?」
枢機卿が父に聞いた。おっと、ヤバイぞ。
「殿下が捕らえたということも、上層部の一部の者しか知りません。よほど特殊なのだろうと思っておりました」
さすが殿下です! と、父を崇拝しているだけのことを言った。せっかく悦に入っているのにごめんね。それ、捕まえたの俺だ。ふふふん。
「らうみぃみゃ」
こらミミ! また喋った。駄目じゃないか!
「ぴ、ぴよ」
小さな目が泳いでるぞ。しまった! と思ったのだろうね。本当に油断できない。
「なんですと……!?」
ミミの余計な一言を聞き逃さなかった枢機卿、首がまたギギギと音を立てるかのように動いてミミを凝視した。そして何を思ったのか、俺の肩に留まっているミミを両手でガシッと掴んで持ち上げた。
まだ両手ってとこが、父とは違って一応配慮してくれているらしい。なにしろ父は、片手で頭をガシッ! だから。
「みゃ! はなしゅみゃ! なにしゅるみゃ!」
これは思わず喋ってしまっても仕方ない。だって体を捕まえられたのだから。
「ミミちゃん、詳しく教えてください」
枢機卿の目が怖い。逃してなるものかと、ミミにロックオンだ。これは、あやふやにできそうもない。どうするんだ?
「ミミ……おまえは……」
「らって、ふかこうりょくみゃ!」
ミミって不可抗力なんて言葉を知っていたのか。ほう〜。
「らうみぃ! しょこじゃないみゃ! たしゅけるみゃ!」
「あー、らってしゃべったみみがわるいよ」
「みゃ! しゃべってないみゃ!」
嘘つけ。なんでそんなすぐにバレる嘘をつくかなぁ。素直にごめんなさいと言うほうが良いぞ。ほら、見てみな? 父のこめかみがピクピクしているぞ。ああ怖い。
「しょ、しょ、しょんなー! ごめんみゃ!」
「ミミちゃん、ごめんなのかしら?」
母まで目が怖いお顔になっている。もう呆れてしまうよね。
「しゅ、しゅ、しゅみましぇんみゃー!」
よほど怖いらしい。小さな目に涙がたまっている。かわいそうだから、そろそろ助けてやってほしいな。
「とうしゃま」
「怖い思いをしないと、ミミは覚えないだろう?」
おっと、それも一理ある。
「らうみぃ! たしゅけるみゃー!」
「ミミちゃ〜ん、話してくれませんかぁ~?」
枢機卿が不気味な笑みを浮かべている。老師の弟だけあって、枢機卿もキャラが濃い。
「枢機卿、そこまでだ。それは国家機密なのだからな」
なんですと……!? あれが国家機密なのか? 0歳だった俺が出ちゃったと思いながら、深紅の髪の女性の顔面にしがみ付いただけなのだけど。
「ラウ、国家機密だ」
「は、はい。とうしゃま」
「ラウ坊ちゃんもご存じなのですな?」
しってるもなにも、当事者だからね。俺が。
まさか、0歳の赤ちゃんが捕まえたなんて誰も思いつかないだろう。
「なるほど……」
やっとミミを俺の肩に乗せてそっと手を離した枢機卿。今度は俺の肩を両手で掴んだ。え? 今度は俺か? 俺にロックオンなのか?
「ラウ坊ちゃんは知っているのですね?」
「え? なにをかな?」
「だから、誰が捕まえたのかをです」
「ぼ、ぼ、ぼくはしらないのよ」
ちょっと焦って変な言葉使いになってしまっている。しかも噛んでいるし、目が泳いでいる。こんなの怪しさ満点じゃないか。
どうすんだよ? 助けて欲しいな、と父を横目で見る。
「枢機卿、だからそこまでだと言っただろう」
「これは、申し訳ありません。しかし、気になると眠れなくなってしまいます」
そこは気にしないでゆっくり眠ってほしい。
「とにかくあの場で呪いに掛かっている者を解呪しておこう」
「そうでした。本筋から離れてしまいましたな」
そうそう、今日は呪いの解呪のために来たんだ。ここはどうしよう? フェンは何も言ってこないけど。
『ラウにできるだろう? てか、ミミにさせるといいぞ。少しは汚名返上(名誉挽回)しておかないとな』
フェンが念話で話してきた。ミミ、聞いてた? 汚名返上のチャンスだよ。