19ー登城
俺の予想通り、馬車は城門をくぐりまだ奥へと入って行く。
どこまで行くのだろう? てか、城かぁ。一回目の時に俺は大賢者だった。だからと言って偉かった訳ではない。
父の仕事を手伝いながら、冒険者ギルドにも登録していた。
そんな俺は大賢者とは名ばかりの、所謂なんでも屋のような事もしていた。
民の些細な願いから、国を揺るがすものまで色々押し付けられた。
それこそ、にゃぁ~と鳴き真似して這いずり回りながらの迷い猫探しや、泥まみれになりながら崖崩れの土砂を取り除いたり、冒険者と一緒にダンジョンの攻略まで何でもござれだ。
大賢者の得意な魔法を駆使して、そんな事をやっていた。
猫ちゃんを見つけるのだって大変なんだぞ。索敵魔法を使って探し出し、自分の気配を消すんだ。
それでやっと捕まえられる。猫ちゃんは敏感だからな。
そんな一回目の時、魔族の侵攻を阻止する為に出る時もこの城に呼ばれたんだ。
父の兄である王が、申し訳なさそうな顔をしていたのを覚えている。
その王の隣で、不適に微笑む王妃の顔もだ。
そして、何故だが王女が同行する事になっていた。
たかが魔術師。回復魔法に秀でている訳でもなく、魔族に敵う訳でもない。そこで不思議に思った事も覚えている。
「あぶぅ」
なんだかちょっとブルー入ってしまうぞ。あんまり城には良い思い出がないんだ。
「あらあら、坊ちゃま。どうしました?」
「あぶあぶぅ」
俺はまだ赤ちゃんだ。俺より年下だった王女はまだ生まれていない。だけど王妃がいるだろう。
王は良いおじさんって感じなんだけど、王妃がなぁ。
あれ、絶対に母に対抗意識を燃やしていると思うんだ。一回目の時だってそうだった。
父に対しても態度が冷たい。細く睨む様な目をして父の事を見るんだ。
その両親の子供である俺なんて、当然良く思われていない。
俺が大賢者だと鑑定されてからは、それが如実に表れた。
自分の娘が魔術師と鑑定されてからは、それがより酷くなった。
王太子は俺より2歳上。その王太子は王の血を継いだのか、英雄だと鑑定されていたから余計だ。
なんで王弟の息子が大賢者なのだと思ったのだろう。なんだかなぁ。
「らうみぃ、いやなのみゃ?」
「あぶあうあー」
俺の肩に乗っているミミが聞いてきた。
あんまり行きたくはないな、うん。
「ミミ、ラウは何て言っているの?」
「あんまりみゃ」
「あら、ラウはお城に行きたくないの? 行った事がないのに」
「しらないみゃ」
適当だ。ミミの通訳は適当すぎる。
「らうみぃ、しょんなことないみゃ。かんぺきみゃ」
「あぶあうあー」
そうかよ、まあ良いけど。
そんな事をしていると馬車が止まった。
「さあ、先ずは陛下にご挨拶をしなきゃね。ラウは初めてお会いするのですもの」
「あぶ」
「ミミは暫く喋ったら駄目よ」
「わかったみゃ」
おフクに抱っこされて城の中を行く。懐かしいような気もする。
俺が最後にこの城に来た時は、17歳の時だった。殺される前だ。
大賢者として出て欲しいと王に言われた時だ。嫌な記憶だよ。
謁見の間ではなく、城の奥へと進んで行く。きっとあそこだ。王の執務室。そこへ行くのだろう。
俺が思っていたとおりのドアの前で止まり、案内してくれていた侍従がノックをする。
――コンコン
「アリシア・クライネン様をお連れしました」
「入って頂きなさい」
中から聞こえてきたのは王の声だった。
侍従がドアを開けてくれてその中へ入る。そこには俺が覚えているよりも若い王が執務机の前に座っていた。
そうか、俺が覚えているよりも17歳若いんだ。
ブロンド色のストレートの髪を後ろで一つに結んでいて、爽やかなスカイブルーの瞳の物腰の柔らかい人。
兄弟なのに父とは違って、第一印象は優しそうな印象を受ける。
だが、王だ。それなりに腹黒さんでもある。俺達にはとても優しい伯父だった記憶がある。
「よく来てくれた! 会いたくて待っていたよ」
と、人の良い笑顔で迎えてくれる。手を出しながら立って出迎えてくれた。王は良いんだ。王はさ。
部屋を見渡すと、王とその側近の二人だった。
この側近はどうなんだろう? 俺はあんまり覚えていない。いつも黙って王の側に控えていた人だった。
「ご無沙汰しております。今日はラウルークを連れて参りました」
「ああ、待ち遠しかったよ。ラウルークをよく見せてくれないか」
「はい、フク」
「はい、奥様」
おフクが俺を王に見せようと近くに行く。
「ああ、可愛いではないか。ライによく似ている。この目元などそっくりだ。アハハハ」
「ええ、どちらかというと父親似だと言われますわ」
「そうかそうか。私が抱っこしても大丈夫だろうか」
そう言いながら、もう両手を出している。そんな事をされたら、駄目だとは言えない。
俺は仕方なく王に抱っこされる。
「あぶぅ」
「おう、可愛いなぁ。私は伯父様だ。分かるか? ラウルークに会いたかったよ」
本当に愛おしそうな目で俺を見るんだ。それを見ていると複雑な気持ちになる。
こんな表情で俺を見る王が、将来俺達家族を陥れるだろうか?
そんな非道な事をする人なのだろうか。
俺は小さな手を出す。
「おお、私が分かるのだろうか?」
片手で抱っこしながら、俺の出した手を優しく掴んでくれる。
お読みいただき有難うございます!
来週は何日かお休みするかも知れません。これからの書き溜め具合によるのですが、頑張ります!^^;
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