189ー枢機卿って
そのイケイケで父のことが大好きな枢機卿はすぐに動いた。大聖堂の中にいる人たちで呪いにかかっている人はいないかを確認することになった。
「むむむむ……」
「坊ちゃん、何考えてるんッスか?」
眉を寄せまだ短い腕を組み、片方の手の指をプニッと額に当てる。考える時の俺の癖だ。
おフクの膝の上で、そうしている俺を見てアンジーさんが聞いてきた。
「ぼくももっと、みれないかとおもって」
「何をッスか?」
「アンジーさん、呪いに決まってるじゃないですか」
そうそう、おフクの言うとおりだよ。この流れで見るとしたら呪いしかないじゃないか。
「だって坊ちゃんも見えるのでしょう?」
「みえるけろ、ふぇんみたいに、いちどにいっぱいみれないかな~って」
「ん? いっぱいッスか?」
「ですから、一度に沢山の人を見れないかと、おっしゃってるんですよ」
「ああ、な~る」
おフクが通訳みたいになっているじゃないか。
そんなに俺の言葉って分かり難いか?
「ラウ、あなたはこれ以上危険なことをしなくて良いのよ」
「かーしゃま、らってみたいれしゅ」
父と話していたのに、俺のそんな話が耳に入ってきたらしい枢機卿が俺を見た。グリンと音がするようなくらいに、いきなり首を回して俺を凝視したんだ。
「な、なんとおっしゃいました!?」
いや、ギラギラしている眼がちょっと怖いぞ。
「えっちょぉ……とーしゃま」
「ああ、枢機卿は大丈夫だ。ラウに興味があるのだろう」
「殿下! 何を隠しておられますか!?」
「ラウは手離さんぞ」
「そんなことを言ってはおりませんぞ!」
この人は枢機卿というお堅い役職のイメージを忘れないといけない。父のことが大好きでイケイケな枢機卿とは、これはまた珍しい。表面上は枢機卿を装ってはいるが、父の前だとそれが壊れてしまうらしい。
俺の能力がバレると教会が放っておかないと両親は話していた。その最上位近くにいる枢機卿。
「私は殿下の味方ですぞッ! 分かっておられるでしょうに!」
「分かっているとも。だがラウのことは別だ」
「別ではありませんー!」
とうとう叫び出した。お顔を真っ赤にして両手をグーに握っている。
「本当はもっと坊ちゃんにお会いしたいのですぅッ! それなのに……それなのに、目立つから駄目だとおっしゃる! それを涙をのんで守っているのですよぉッ!」
「分かった分かった。分かったから大きな声を出すな」
「声が大きいのは、もともとですッ!」
枢機卿の圧に負けて、父がほんの少しだけ話をした。俺には呪いが見えるのだと。
「な、な、なんですとぉッ! あれは見えるものなのですかッ!」
「ラウには見えるらしい。黒い霧を背負っているように見えるそうだ」
「坊ちゃま! それは本当ですかッ!」
「え、う、うん。ほんとうれしゅ」
本当に圧が強い。目が血走ってないか? そんなに驚くことなのか?
「ラウ、だからあなた以外に見える人を知らないわ」
「かあしゃま、しょうなのれしゅか?」
「そうよ。だから秘密なのよ」
「あい、ひみちゅれしゅ」
よしよし、俺は物分かりの良いちびっ子だからな。
「ぼく、なにもみえないれしゅ」
「どうしてですかぁーッ!」
俺が枢機卿にそう言うと、あらあら、ふふふと母が笑った。だって秘密なのだろう?
「坊ちゃん、もう遅いッス」
「え? しょう? まら、らいじょぶらよ」
「いや、無理ッスね」
そこを見えないで押し通すんだよ。言い切った者の勝ちだ。
「なんにもみえないれしゅ」
そう言って首をフリフリと横に振った。
「ラウ、もう遅い。それに枢機卿なら大丈夫だ」
「とうしゃま、けろ、ひみちゅれしゅ」
「ああ、枢機卿も秘密にしてくれるだろう」
「ほんとうれしゅか?」
ジッと枢機卿を見る。本当だろうな? バラしたりしないだろうなと。
「なんと可愛らしい! いや、ゴホン! もちろんでございます! 私は殿下を崇拝しておりますゆえ!」
崇拝とか言っている。枢機卿の方がずっと年上なのに。
「殿下の日々の偉業があるからこそ、この国は平和なのですッ! それを包み隠さず公表できないことが残念でありませんッ!」
公表しちゃったら意味がないと思うけどね。
秘密裡にしているからこそ、相手だって油断するんだ。確実じゃないからこそ、疑心暗鬼に陥りどうすべきか迷う。そして大抵は自分に都合の良い方を選択するんだ。
まさかそんなことはないだろうと思うんだ。王弟殿下ともあろう立場の人間が、まさかそんなことをしていないだろうと。
「今回呪いを最初に見つけたのもラウだ」
「とうしゃま、ひみちゅれしゅよ」
「だから枢機卿は構わない」
「しょうれしゅか? しんようれきましゅか?」
「ああ、私の協力者だ」
ほう、そうなのか。
「枢機卿という立場故に手に入る情報もありますゆえ」
「とうしゃまのおてちゅらいれしゅか?」
「そうですぞ。私は殿下のお役に立ちたいと思っております! ひいては国のためになりますッ!」
最初の印象とは全然違うじゃないか。とっても熱い人らしい。父の周りにはこんな人が多いのか? 父自身も外の顔とは正反対だし。
さて、司祭様が呪いに侵されていると発覚して、他の人をどうやって確認するかだ。
「この大聖堂の中は私が案内いたしましょう」
「そうしてくれるか」
「はい、もちろんでございます。それを放っておいては枢機卿として機能しなくなりますゆえ」
なら他の教会はどうするんだ?
「私が回るしかないだろう。アンジー、予定を考えよう」
「はいッス」
え、この王国全土を回るのか?
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宜しくお願いします。
毎日めっちゃ暑いですが、皆様体調はいかがですか?
本当に暑いです( ˃ ▵ ˂ )՞՞
水分補給と、無理せずエアコンに頼りましょう。
さて、ラウでなくてロロなのですが7/1に③が発売になります!
もう少しで特典情報等がアース・スター様から公開されると思います。そうしたら、③のあらすじを公開したいと思ってます。
2巻の最初の方にあったアレです。
実はあのあらすじは担当さんが考えてくださってます。
毎回、力作だと思いませんか?
私は凄いなと思ってます。そこで、公開したいな〜と聞いてみたら、良いですよとお返事いただいたので!
発売前の公開なので、楽しみにしていただけると!
ラウの①も発売中です!そろそろ重版帯に変わっているかもです。よろしくお願いいたします!