187ーしょげている
ミミがピヨピヨと鳴きながら俺の肩に戻ってきた頃、父と老師が悠々と教会に入ってきたのが見えた。
「あ、かあしゃま。とうしゃまと、ろうしれしゅ」
「あら、もう終わったみたいね」
もう終わったのか? 外にも沢山の人がいたはずなのだけど。あれれ? 老師ったら微妙にスキップしてないか? ご機嫌だな。
「ふふふ、老師ったら」
「なんらか、ごきげんれしゅね」
「そうね、解呪がうまくいったのでしょうね」
見たかったな、老師がどうやって解呪するのか。老師の本気を見たことないし、いつも飄々としているから。
父の表情を見てみると、得心したような顔をしている。あれ? 違うか? もしかしてちょっぴり呆れてたりするのかな? また老師は何をやったんだ?
二人してやって来ると、老師はウホホとご機嫌だった。
「いやぁ~、ワシにかかればこれくらいどうってことないわい。ふぉッふぉッふぉッ!」
「アンジー、こっちはどうだった?」
「はい、ミミがあっという間に解呪してしまいましたよ」
「何? ミミがか?」
父が意外そうな眼をしている。何か言いたそうだ。
「ぴよ」
ミミはやり切ったと言わんばかりに胸を張っている。今回はミミのお手柄だものね。ちょっと撫でてあげよう。
「ぴよ」
俺が喉を指でスリスリすると、気持ちよさそうな表情をして眼を細める。
「みゃ、がんばったみゃ。ちゅかれたみゃ。ももじゅーしゅが、のみたいみゃ」
「こら、ミミ。外ではピヨだろう」
ほら、気を緩めるとすぐに忘れて喋ってしまう。父にしっかり叱られている。
「みゃ? ぴよ?」
キョトンと首を傾けている。おマヌケだ。小さな丸い身体で、どこが首なのか分からない。
「ミミが大活躍だったのよ」
「信じられないのだが」
「とうしゃま、ミミがちいさなとりしゃんをいっぱいだして、がんばったのれしゅ」
「ち、小さな鳥さんがいっぱいなのか?」
「あい」
父の頭の上に、『?』マークが沢山浮かんで見える。まあ、あれは実際に見ないと分からないよね。
可愛いやら凄いやらで、つい笑ってしまう。
「むふふふ」
「あら、ラウったらなあに?」
「らって、かあしゃま。かわいかったのれしゅ」
「そうなのね。見たかったわ」
そうなんだよね、誰にも見えていなかったんだ。俺だけミミが何をしていたのか見えていた。ミミは俺の使い魔だからだろうね。
「フェン、どうだ? 解呪は終わっているのか?」
『おう、完璧だぜ』
「そうか」
「な、な、なんでじゃぁーッ!?」
老師が突然叫び出した。頭を抱えてこの世の終わりのような、ガビーンと音が聞こえてきそうな表情をしている。いきなりどうした?
「老師、だから今だけだと言ったでしょう?」
「しょ、しょ、しょんなぁー! せめて今日一日くらいはのぉ!」
全く意味が分からない。父よ、説明してほしい。
『特別に解呪する間だけ、老師に俺の声が聞こえるようにしていたんだ。ついでに姿もな。めっちゃ喜んでたぞ。アハハハ』
「じゃあ、いまはもう、みえてないの?」
『そうだな、見えないし聞こえねーな』
「ああ、らかららね」
老師はとっても精霊さんに興味があったものね。姿が見えて声も聞こえてとっても嬉しかったのだろう。
なのに、あっという間にそうでなくなった。ショックだったのだね。うんうん。
「ろうし、れもよかったね」
「ラウ坊、もっと見ていたかったぞ。話してみたかったのじゃ」
しゃがみ込んで膝を抱えてしょげているから、ヨシヨシと肩を擦ってあげる。まあ、特別だったのだから仕方ない。
「ラウ坊ーッ!」
ガシィッと老師に抱きつかれて、ポテンと尻餅をついちゃった。
「まあ! ふふふ」
「老師、仕方ないでしょう?」
「分かっとる! 分かっとるんじゃ! けどのぉ!」
うえぇーん! と声がしそうなくらいに悔しがっている老師。ずっと見たがっていたものね。少しでも見れて良かったじゃないか。
「ろうし、またみられるかもしれないし」
「ラウ坊、そうかの? そうかのぉ?」
どっちが子供なのか分からない。
それにしても、老師が解呪をしたのだよな? フェンじゃなくて。
『おうよ、俺はあんなことはできねーな! 老師は凄いぞ!』
フェンが話してきた。老師を見ても、きっと解呪をしているなんて分かる人はいないだろうと。
「とうしゃま、みていたのれしゅよね?」
「ああ、見ていたぞ。だが、いつ解呪したのかも分からなかった」
そんなになのか? 老師ったら伊達に老師をしていない。
「なにしろ国一番の白魔術師だからな」
「それが信じられないッスけどね」
アンジーさんがとっても失礼なことを言っている。でも普段の老師からはそんなに凄い人だとは思えない。スイーツ好きのマイペースなお爺ちゃんって感じだもの。
そうこうしているうちに、司祭様のお話が終わった。
「じゃあこれで終わりかしら?」
「アリシア、司祭様も呪いに侵されていたのだ。教会内部も確認しないといけないだろう」
「まあ、そうなのね」
面倒だわ。と声が聞こえてきそうだ。
教会内部と父は言った。これから教会にいる人たちも見てみるのだろう。どうするのかな?
「枢機卿に会うぞ」
枢機卿とは、司祭様や司教様の言ってみれば上司だ。枢機卿の上が法王様になる。そんな偉い人に会いに行くらしい。
ミミ、忘れちゃ駄目だぞ。喋ったら駄目。ピヨだよ。
「ぴよ」
コテンと頭を傾けているミミを見て不安なのは俺だけなのかな?