183ー目立っちゃってる
走ってきた老師に気付いた人たちが、集まってきていた。すぐに沢山の人に取り囲まれてしまっている。これは本当に有名人だ。しかも、どの人も皆老師にお礼を言っている。
「老師は大勢の人を救っておられるのですよ」
「ふく、しょうなんらね」
「はい、魔術師団で一番の有名人だと思いますよ」
「しゅごいね~」
そんなことをしているとは、本当に思わなかった。いつもの惚けた老師からは想像もつかない。
囲まれている中心にいた老師が、俺たちを見つけて大きく手を振りながら叫んでいる。
「ラウ坊! ラウぼうー! ここじゃここじゃ!」
呼ばなくてもいいって。手を振らなくても分かっているって。
その老師が、ほッほッほッほッと変な掛け声で走りながらこっちへやって来た。めっちゃ目立っている。今日はお忍びのはずなのに駄目じゃないか。
「ラウ坊、今日は頑張ろうな!」
「ろうし、めだってるって」
「ん? そうか? いつもこんな感じじゃぞ」
はて? と老師が首を傾けた。ああ、いつも老師は沢山の人に囲まれてしまうんだね。それだけ色んな人たちを助けてきたのだろうな。
「ろうしってしゅごいんらね。ぼく、びっくりしちゃった」
「ふぉッふぉッふぉッ! 当たり前のことをしているだけじゃ」
その当たり前のことが、なかなかできないんだよ。ちょっとここは尊敬しちゃう。
「老師様、移動しましょう。目立ち過ぎですわ」
「なんじゃ、アリシア様も来たのか?」
「ええ、ラウ一人危険なことをさせられませんわ」
「ふぉッふぉッふぉッ! 相変わらずじゃのぉ~」
「老師、目立ち過ぎです」
「なんじゃ! 殿下もか!」
「当然です」
「ワシよりお前さんたちの方が目立つぞ?」
「とにかく移動しましょう」
「おう、そうか?」
父とアンジーさんに誘導されて、俺たちは教会の中に入る。
そうだ、忘れてた。今日はまだ言い聞かせてないぞ。肝心なことを忘れていた。
「みみ、しゃべったらだめらよ。ぴよらよ」
「ぴよ?」
「しょうしょう。きょうはじゅっと、しゃべったらだめ」
「ぴよ」
文句がありそうだ。でも、本当に喋ったら駄目だ。こんな大勢の人たちの前で、鳥さんが喋ったりなんかしたら大変だ。
『わかったみゃ。めんどうみゃ』
お、今日は念話を忘れてなかったんだね。
『わしゅれてないみゃ。みみはてんしゃいみゃ』
はいはい。さて、どこに行くのかな?
教会の中を真っ直ぐに進んで行き、脇にある階段を上る。すると、上から見渡せる場所に出た。
一番奥に一段高くなった主祭壇があって、その手前に司祭様や司教様がお話される場所がある。そこから入り口までの広い空間には、長椅子がたくさん並べられていて、そこにお話しを聞きにやって来た人たちが座っている。それを見渡すことができる。
ここは王都だ。教会といっても他の街にある教会より規模が大きい。かなりの人数が一度に入ることができる。
「ラウ、老師、ここなら良いでしょう?」
「ああ、完璧じゃ」
「うん、いいれしゅ」
えっと、でも俺は呪いにかかっているかどうかは、あの黒いもやもやが出ていないと分からないのだけど。どうするのかな?
「フェンの出番だ」
『みゃ! みみらってわかるみゃ!』
そうなの? ミミも分かるのなら、城でも教えてくれたら良かったのに。
『らって、いわれなかったみゃ』
そうだった。ミミってそういう奴だったよ。精霊ってきっとそうなのだろう。だからどうした? て感じなのだろうな。
よく見ると、父の肩の辺りが少し空間が揺れて見える。きっとフェンが姿を消したままで、見てくれているのだろう。
『おう、ラウ。ここなら見渡せるからよく分かるぞ』
フェンが念話で話してきた。フェンが見つけてくれたら、俺たちが解呪するからお願いね。
『おう』
「とうしゃま、ふぇんがみてくれてましゅ」
「ああ、そうだな」
父にはフェンの念話が聞こえるらしい。母はどうなのかな?
「私には聞こえないわよ。私はリンリンの念話だけなのよ」
「じゃあ、とうしゃまもしょうれしゅか?」
「そうね、自分の使い魔の念話だけ聞こえるの。どの使い魔の念話も聞けるのはラウくらいよ」
前にもそんなことを聞いたような気がする。普通に聞こえるから忘れちゃうよね。
『らから、らうみぃはとくべちゅみゃ』
同じ精霊なんだからミミも見えるのだろう? ミミも分かるなら見ようよ。
『みゃ? ふぇんがみてるみゃ』
協力しようって気はないらしい。俺の肩に乗って澄ましてピヨと鳴いている。まあいいや。俺も見てみよう。見えるかなぁ? 黒いもやもやが。
そう思って下を見てみる。俺ってちびっ子だから、全部は見渡せない。階下を見られるようにはなっているけど、手すりがある。その間から顔を覗かせて見てみる。ん~、ちょっと見難いなぁ。
「ふく、だっこして」
「あら、はい。見たいのですか?」
「うん、しょう。みてみる」
おフクが俺を抱っこしてくれる。よし、見えるぞ。じっと眼を凝らして見る。見えないだろうって先入観を捨て、見たいものが見えるように。
「あ……」
「ラウ、もしかして分かるのか?」
「とうしゃま、なんとなくれしゅ」
城で見えたほどではない。ぼんやりと、霞がかかったみたいに、黒いものを背負っている人がちらほらと見える。