18ー初のお出掛け
離乳食も少し始まったのだけど、まだそれだけという訳にはいかない。それほど食べられないんだ。だから、もう少しおっぱいのお世話になる。
「んぐ……んぐ……ぷは」
「あらあら、もういいんですか?」
「あぶぅ」
「はいはい。ゲップしましょうね」
縦に抱っこされて、背中をトントン。
「けふっ」
「はい、お上手ですよ」
オムツを替えてもらって、おっぱいも飲んだら眠くなってきたなぁ。
「ふぁ〜……あふ」
「よしよし、坊ちゃまはお利口さんですね」
おフクの腕の中で、眼がトロンとしてくる。親指を咥えて、むにゃむにゃと。
「ふふふ、フクがお仕えしますからね。元気に大きくなってください」
「あぶぁ……」
そのまま俺は夢の中へ。
あの重い空気の部屋に戻るのは嫌だったから丁度良い。
おフクが抱っこをして、ゆっくりと揺らしてくれる。俺はアッサリと瞼を閉じて眠りについた。
俺はその後、どんな話になったのかは知らない。
今日も俺は相変わらず、邸の廊下を高速ハイハイで爆速中だ。
「あぶぶぶぶ」
「はやいみゃ! どんどんはやくなるみゃ!」
そこに母が通り掛かった。
「あら、またやっているのね」
ひょいと俺を抱き上げる。おや? お出掛けなのかな? いつもより豪華な服装をしている。
いつもは動きやすい様に、ブラウスとロングスカートでいる事の多い母なのだけど。
今日はドレスというものを着ている。と言っても、まだシンプルな方なのらしい。夜会等に行く訳ではないからな。
それでも、ふんだんに使われた薄いレースに生地にも細かな刺繍がされている。
色味を抑えてあるので、華美ではない。
とってもお似合いだ。母ってば美人さんなのだ。
「じゃあフク、ラウをお着換えさせてくれるかしら?」
「はい、奥様。直ぐに」
俺はおフクにさっさと着替えさせられた。フリルがいっぱいのお出掛け用の服装だ。
スタイだって、いつものヒヨコさん柄ではなくレースのフリルで縁どられたものだ。ヨダレですぐに汚れてしまうのに、こんな上等なものは勿体ない。
おフクに抱っこされてリビングへと入っていくと、母が優雅にお茶を飲んでいた。
「奥様、馬車の用意ができております」
低音のハスキーボイスで知らせてきたのは、執事のノーマンだ。
父が公爵位を叙爵する前から父に仕えている。城にいる頃は、父の側近だったのだがそのまま付いて来た。
アンジーさんが来るまで側近の仕事もしていた。それからは邸を統括する執事に専念している。50歳代後半だと思う。
シルバーグレーの髪を引っ詰めて口と顎にお髭のある、ザ・執事といった見た目。
だが、父に付いて来るくらいだ。普通ではない。ジョブはダークナイト、暗黒騎士だ。
なんでも若い頃は、華麗に戦場を駆け抜け敵を殲滅していく姿は、正に冷酷な暗黒騎士と言われたらしい。
しかも闇の力を操り、攻撃力も高い。ちょっと怖そうだ。
「有難う。じゃあ行きましょう」
どこへ行くのだろう? 母付きの侍女も一緒だ。
この侍女はコニス・フレッド。母が実家にいる時から仕えている。シニヨンにした黒髪にオレンジ色の瞳。俺には優しいが、メイド達からは一目置かれている。
メイド長も、頭が上がらないらしい。
フクは仲良しだ。同年代だし、母の侍女と俺の乳母って関係からよく一緒にいるからだろう。
ジョブは蟲使い。実際に存在する昆虫や、架空の蟲を魔術を使って使役する。
使役される蟲は自然由来のものだけではなく、品種改良や魔術などによって強化されたものもあるらしい。
俺はよく知らない。だって、実際に使役しているのを見た事がないから。
執事のノーマンや、侍女のコニスもあの定例会議にはいつも出席している。
怖いメンバーの一人だ。
「あぶあー」
「あらあら、大丈夫ですよ」
おフクに抱っこされて玄関へと向かう。
「どっかいくみゃ?」
「奥様と一緒にお出掛けですよ」
玄関で執事のノーマンが見送ってくれる。父とアンジーはもちろん調査で出ている。
俺は邸の外に出るのは初めてだ。馬車に乗るのだってそうだ。
おフクの腕の中から窓の外を見る。
「うぶぅぅ」
「珍しいですか?」
「あうばー」
馬車の窓から外を見る。貴族の立派な邸宅が並ぶ中を馬車は走る。
道は白っぽい何かで舗装されている。石畳という訳でもないんだ。それよりもずっと平らだ。
馬車が優に交差できる程の広さがある道の両側に街路樹が植えられていて、歩道と分けられている。その歩道を、貴族の邸で働いているのだろう人達が歩いている。
どこかの貴族邸に納品なのか、お野菜が沢山積まれた馬車が走っていたりもする。
この辺りは貴族の邸宅ばかりだけど、それでも活気のある街だ。
その街中を中央へと馬車は進んで行く。
これってあれだよな。城に向かっているのではないかな? ミミが一緒でも良いのか?
「みみはいちゅもいっしょみゃ」
「ばうばぁ」
どこからどう見ても、鳥さんだから良いか。でも、喋ったら駄目だ。
「馬車を降りたらミミは喋っては駄目よ」
「しょうなのみゃ?」
「ええ、私が良いという時以外は駄目」
「わかったのみゃ」
ピヨ、とミミが鳴いた。そうしていれば、本当に鳥さんだ。
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