178ーなんですと?
ミミって言って良いことと、駄目なことが分かっていないからね。駄目ってわけじゃないのだろうけど、それでもきっとこれは大切なことなのだろう。
「これはまたレポートを書かんといかんぞッ!」
たしか老師は前にもそんなことを言っていた。たしか、ピーチリンだ。俺がポロッと言ってしまって、入歯が取れそうなくらいに驚いていた。
そもそもこの世界では精霊信仰があるものの、詳しいことは分かっていない。だって精霊の姿を見られる者だって希少なのだから。
でも、この世界の魔法は精霊が関わっているらしいとは分かっている。だがまだ『らしい』だ。何しろ意思疎通ができる者なんて超希少なんだ。だから研究も進んでいない。
それなのに、今のミミの発言でそれを肯定してしまった。『鑑定の儀』で精霊が授けるなんて言ったんだ。しかもミミは、当たり前だと言った。
「ミミちゃん、それを詳しく教えてくれないかのぉ?」
「なんみゃ?」
「だから、この世界で魔法が使えるのは精霊が関わっていることをじゃ」
「むじゅかしいことを、いうなみゃ」
「ミミちゃん!!」
そうだよな、ミミってそういうやつだ。
きっと精霊にとっては当たり前だから、それを説明しろと言われても無理なのだろう。精霊にとって魔法とは、俺たちが息をするのと同じなのだから。
こんなのはリンリンに聞く方が良いんだ。けど、リンリンはこの場には出てきてくれないだろうし。
『あら~、ラウったらよく分かっているじゃない~』
おや、リンリン姐さんだ。俺の頭に直接話しかけてきたぞ。
『あやふやなままの方が良いこともあるのよ~』
なるほど。これは明確にするつもりはないらしい。
老師はとっても残念そうだったけど、ミミにいくら聞いても無駄だった。
「みゃ? わからないのが、わからないみゃ」
なんて言いながら、ヒョコッとお顔を傾けていた。
老師は諦めきれないようだったけど、オヤツのスイートポテトをお土産にもらって帰って行った。
しっかり、レイラちゃんもゲットしていた。表情は変わらないのだけど、どこかホクホクと嬉しそうに感じられた。
また小さくピースをしていたしね。慣れてくると可愛く思える。
そんな平和な毎日だったのだけど、お久しぶりに精霊女王に呼ばれた。
「ラウったら忙しそうじゃない?」
「え? なにが?」
最近、ご無沙汰だったからかな?
「だって、普通をお勉強するとか言っていたでしょう?」
「ああ、ろうしらね」
だって精霊女王は見ていたのだろう? 全部知っているのだろうに。
いつも無理矢理この世界に引っ張ってきているようで、実はそうじゃない。俺の様子を見て判断してくれているんだ。
俺が忙しそうな時は、ちゃんとそっとしておいてくれる。そして、ここは必要だろうという時は呼ぶ。
気遣いのできる精霊女王なんだ。
「そうね、あの楽しい老師ね」
そうだ、この機会に精霊女王に聞いておこう。
「ね、しぇいれいじょうおう」
「なにかしら?」
と普通に話しているけど、ここは精霊女王の世界だ。四方が真っ白で上下の分からない、摩訶不思議な世界。そこで元の大きな鳥さんの姿に戻ったミミが、手羽(?)をお腹に載せてスピーッと寝息をたてて爆睡している。相変わらず、全然起きない。良いのか? こんなので大丈夫なのか?
「ふふふふ、だからミミはこっちの世界の方が安心するのよ」
「しょういってたね」
まあ、良いのだけど。
「らからね、ぼくたちがつかってるまほうらけろ」
「老師とそんな話をしていたわね」
そうそう、俺には教えてくれたりするのかな? なんてさ。
「ラウったら。前の時にも私たちが関わっているとラウは気付いていたのよ」
「しょうらっけ?」
「そうよ。だって大賢者ですもの」
まあ、今はそんな感じじゃないけど。
「ふふふ、今回もラウは大賢者だと言ったでしょう?」
「けろ、まらちびっこらからね」
「そうね。可愛いちびっ子だわ。時々とんでもないことをするのだけど」
「ええー、しょうかなー」
でも俺は目的に向かって少しずつ準備しているつもりだ。普通の赤ちゃんじゃなかったしさ。まさか記憶があるなんて誰も思わないだろう?
そうだ、精霊女王でさえ久しぶりなのだから、魔王にもご無沙汰してしまっているぞ。
「また来ちゃうわよ」
「あー、ほんとうらね」
「これから行ってみる?」
「んー、今日はいいかなぁ」
そこにパタパタとバットが飛んできた。きっと俺について来たんだな。
どうした? 何をそんなに急いでいるんだ?
「ラウ! 魔王さまに会いに行かないれしゅか!?」
パタパタと飛びながらそんなことを言っている。しばらく行っていないからバットも魔王に会いたいのだろう。
「きょうはもうなんだかちゅかれちゃって」
「ええー! 魔王さまはきっと待っているのれしゅ!」
「うん、またこんどっていっておいて」
「分かったのれしゅ!」
前に行った時に、デオレグーノ神王国の間者をポポイと返したとか言っていたから、ちょっと気にはなっているんだ。
だから近々行くよ。アースランのオヤツも食べたいし。
「あら、オヤツなの?」
「しょうしょう。あーしゅらんがいちゅも、ちゅくってくれてるの」
「まあ、そうなのね。私も一緒に行こうかしら?」
え? なんですと?