173ー厳しい現実
それまで黙って大人しくしていたのに、ミミが唐突にそう言った。
「みみ、ちがうの?」
「しょうみゃ。のろいなんて、しぇいれいじょうおうは、ゆるしてないみゃ」
うん、それは前にも聞いた。だからあの国には上位のジョブを授けてないと。
「だからなのよ~」
母の肩の上に、キララ~ンとリンリンが現れた。
「そうだぞ」
父の肩にはフェンだ。ただし、何時ものごとくお顔だけニュゥッと出している。
「この世界の人が使う魔法は、精霊が関わっているの。だから呪いなんて普通は使えないのよ~」
「その理を曲げて無理矢理使っているんだ」
「だから魔法では、完全に呪いの反動を解くことなんてできないわ~」
「そうだぞ。だから種族的に呪いを扱える魔族でさえ、よほどのことがない限り呪いは使わない」
「しょうなんら」
「ああ、反動の怖さを知っているんだ」
知らなかった。そんな大それたことをしていたのか。しかも国が強要していたのだろう?
「だからあの国は精霊女王から嫌われているのよ~」
嫌われているのは分かった。だけど、嫌っているだけじゃ放置しているのと同じだ。何も対策はしていないのか?
「このままだとそう遠くない未来に、あの種族は途絶えるわ」
リンリンとフェンが教えてくれた。
理に反したことをしているから、種族全体が短命になっていること。
そして呪いを扱える血筋を絶やさないように、血が薄くならないようにと、近い者同士での婚姻も原因らしい。
それは子孫が生まれにくくなる。そうして自然淘汰されていくのだそうだ。
ミミは最初に口を挟んできたものの、説明をしない。あれはきっとミミ自身も分かっていないぞ。
「らうみぃ、わかってるみゃ。みみはてんしゃいみゃ」
「はいはい」
「みゃ、ほんとみゃ」
「うん、みみはてんしゃいらね~」
「しょうみゃ」
なんてフワモコの胸を張っている。なら、最後まで説明もしような。
前世ではこの世界よりも遺伝子が研究されていた。血縁関係が近いほど、遺伝性の病気のリスクが高まるとされていなかったか? 俺のあやふやな記憶だけど。
でも精霊女王ならそんな回りくどいことをしなくても、呪い自体を封じてしまえば良いものを。
「ラウ、それは駄目なのよ~」
「おう、そうだな」
「しょうなの? れきないの?」
「そうね、直接そこまで介入できないわね~」
けど俺は、かなり直接手を貸してもらっているぞ。いつも精霊女王にお世話になっているもの。
「ラウがしていることとはまた別よぅ~」
「おう、あれはその種族や国に関することだからな」
「それだけじゃないのよ。精霊女王や精霊王は、人が自分で気付いて改めることを期待しているのよ~」
あくまでも、自分自身で気付くこと。それが大事らしい。おかしくないか? これは本当に正しいのか? と、考えることを止めてはいけない。
あの国にも期待しているということだ。国民を犠牲にするような国なのに。
「悪人だからではないわ。その人が育ってきた環境にもよるわね~」
あの国の王もそうなのか? 国民を犠牲にしても構わないと、育てられているとでも言うのか? そんなの、そこから間違っているじゃないか。
「代々そうなのよ~。犠牲だとも考えていないわ~」
「それでも、気付く奴はいたんだ」
「しょうなの?」
「そうよ~。何代も前だけど、こんなことは間違っていると、意義を唱えた王族もいたのよ~」
それは凄いことだ。ほとんど鎖国状態で情報だって入ってこないあの国で、それを主張できるのは余程のことだろう。それに気付いただけでも奇跡だ。
その時に、少しでも改善しなかったのか? それとも昔はもっと酷かったのか?
「王族から追放されて、暗殺されたのよ~」
「なんだと!?」
黙って聞いていた父が驚いて声を上げた。
肉親を暗殺したことになる。いくら問題の多い国でも、そこまでするのかと思ったらしい。
「あの国はそこまでやるのか?」
「だから何代も前の話だ」
「フェン、それからはどうなんだ?」
「表立って主張している者はいないぞ」
その出来事は公にはされていないらしい。それでも知っている者はいる。人の口に戸はたてられない。
誰も表立って口にはしなくても、国の上層部にそれは静かに確実に広がっていったらしい。庶民には、王族の冷酷無惨な仕打ちが実しやかに噂が広がった。
その結果、そんなことを口に出す者はいなくなった。
そりゃそうだろう。誰だって殺されるのは嫌だ。自分の命が惜しい。
今の王はどうなのだろう? 俺は会いに行こうと思っているのに、不安になるじゃないか。
「それでも考えるきっかけにはなった。王も含めてだ」
そのたった一人の王族の主張が、多くの人が考えるきっかけになった。それが大きな変革に繋がると良いのだけど。
『また精霊女王に相談するといいわ~』
と、リンリンが念話で話してきた。皆の前で話せるのはここまでなのだろう。
他国の情報を、ここまで話してくれただけでも良しとしよう。
「とにかく、ラウ。女性の話はこれでおしまいだ」
そうだよな、だって本人が亡くなってしまったのだから。
俺は0歳の時に一瞬関わっただけだから、女性が亡くなったと聞いても動揺はしなかった。関わったといっても、顔面に着地しただけだし。