170ーリンリン姐さん
「りんりん、おしえてちょうらい」
「ええ、わかったわ~」
「みゃ、みゃ、なんみゃ!? らうみぃの、ちゅかいまはみみみゃ!」
「ミミは魔力をもらわないといけないでしょう? そこにいなさいな~」
「みゃ、わかったみゃ」
リンリン姐さんの方が、ミミより一枚上手だった。
俺は人に魔力を流すなんてやったことがない。それどころか、まともに魔法を使ったこともない。今まで使った魔法で一番大きなものと言えば、0歳で誘拐された時に貴族の邸宅を半壊させた時かな?
ちょこちょこ魔王に会いに行っているから、転移やシールドはよく使っているけども。それ以外の魔法なんて、使わない。使う必要もないのだもの。
だって俺はまだ3歳だから。両親や家の人たちに守られている。俺自身が魔法を使わないといけない場面なんてないんだ。
「そうね~、ラウはちょっと特殊よね~」
「え? しょう?」
「そうよぉ~。魔法を使わないのにねぇ……ふふふ」
あ、リンリン姐さんったら俺の考えを読んだね。と、いうか精霊って考えていることが読めるんだった。
「ふふふ、そうね~。ラウ、自分の魔力を感じられるかしら?」
「うん、わかるよ」
「それを手のひらから放出する感じよ~」
「なるほろ」
試しにやってみよう。ミミに魔力を放つ感じで。ムムムッと。まだ小さな手をミミに向けて、そこから魔力をエイヤッと放った。
するとミミの体がビヨンッと跳ねた。ちょっと羽まで逆立っていないか? 頭の羽がツンツン立ってしているぞ。
「みゃ! らうみぃ、びっくりしゅるみゃ!」
「え? まりょく、いった?」
「めっちゃ、いっぱいきたみゃ!」
「しょう? じゃあ、しぇいこうらね」
「あら、そんなことはないわ~。加減ができなきゃダメね~」
加減かぁ……自分が思った分だけ流すってことだよな。今は何も考えないで放ってしまった。ミミの羽が逆立つくらいに多かったのだろう。
「今みたいに放っちゃうと、普通の人なら昏倒しちゃうわよ~」
昏倒だって!? それは怖い。精霊のミミだから、羽が逆立つ程度で済んだってことか。
「しょれは、だめらね」
「そうね。もっとほんの少しで良いわ~」
「うん、わかった」
今度はグッと魔力量を絞って、ホワ~ンと湯気で包み込む感じだ。ホワワ~ンとね。癒しの風がイメージして、ホイッと魔力を放つ。おやおや? まん丸の大きなシャボン玉みたいなのが見えるぞ。それがフヨフヨとミミに向かって飛んでいく。
「あら〜、ふふふ」
あれれ? リンリン姐さんは反応しているけど、もしかして皆見えていないのか? あのまん丸なのがさ。
「そうね、見えていないわね〜。あれは魔力なの。普通は見えないわよ〜」
おっと、そうなのか。その丸いフヨフヨしたものがミミを包み込むように消えていった。
「みゃみゃみゃ。いいかんじみゃ。ホワホワしゅるみゃ。げんきがでてくるみゃ」
「げんきなの?」
「ふふふ、ミミったら~。精霊にとって魔力は生命力そのものですもの~」
そんなやり取りを見ていた父が、当然のように一言言った。
「ミミよりリンリンの方が、ラウにとって良いのではないか?」
「あら、あなた。それを言ってはおしまいですわよ」
「そうか? だが、あれを見ているとアリシアもそう思うだろう?」
「まあそうなのですけど、ふふふ」
「みゃみゃみゃ! なんみゃ! らうみぃの、ちゅかいまはみみみゃ!」
「そうね、ミミも良いところがあるものね」
「しょうみゃ! みみはてんしゃいみゃ! ちちしゃまはわからないみゃ? まらまらみゃ」
あ、また一言多い。この一言多い感って久しぶりじゃないか? ミミが来てすぐの頃はよく、余計な一言を言っていた。最近では慣れたのか気をつけているのか、言わなくなっていたのに。
「なんだとぉー? ミミィー」
「みゃ! なんれもないみゃ!」
パタパタと俺の後ろに飛んで逃げた。ミミはこの3年で逃げ足も速くなっていた。
「それで、リンリン。ラウにできそうなのか?」
「ええ、問題ないわ~。ラウはどの程度が良いのか分かっていないだけよ~」
そうみたいだね。でももう大丈夫だろう? リンリン姐さん。
「ふふふ、ラウはお利口さんね~」
だが、人に魔力を放つ時は、その量に気をつけるように言われた。でないと本当に昏倒してしまうそうだ。
それだけ注意して、リンリン姐さんは姿を消した。
「ねえ、ラウ」
「あい、かあしゃま」
「試しに母様に魔力を放ってみてくれないかしら?」
「え?」
なんだって? だから今話を聞いていただろう? 下手したら昏倒するんだぞ? 母は何を言い出すんだ?
「ラウの魔力を感じてみたかったの。ラウの魔力は優しいと老師が仰っていたわ」
「しょうなのれしゅか?」
老師ったら、いつそんなことを言っていたんだ? 俺の魔力をいつ分析していたんだよ。抜け目ないなぁ。
「それは老師故だからだろう」
「ろうしらから、れしゅか?」
「ああ、そうだ」
老師は長年、白魔術師として研鑽を積んできた。それに経験値が加わり、人の魔力を感じられるようになっているという。
そんなの意味が分からない。俺なんて、全く、全然分からない。
精霊女王だって老師のことを褒めていた。これだけジョブを使いこなして精進している人を見ると、嬉しくなると言っていたじゃないか。
老師は俺が思っている以上にできる人だった。