169ー両親の選択
翌日、俺が朝食を食べに食堂に行くと、両親が揃っていた。
「おはようごじゃいましゅ」
「ラウ、おはよう」
「ラウ、今日も可愛いぞッ!」
相変わらずの父だ。昨日も帰りが遅かったのだろうに、元気だね。
「どうした、ラウ。元気がないぞ」
「とうしゃま、しょんなことないれしゅ」
「とにかく、朝はしっかり食べなさい。食べたら会議だ」
「あい」
例の会議室に行くのだろう。きっと俺のことだ。母が父に話してくれたらしい。
そして、主要メンバーが揃っていつもの会議室だ。
「皆、揃ったか。今日の議題はラウのお出掛けだ」
「あなた、お出掛けというよりは……」
「そうだな、魔封じだ」
心無しか父のバリトンボイスも元気がないように感じてしまうのは、俺の先入観かな?
「結論から言おう」
父が心を持っていかれそうな良い声で、そう言いながら俺を見た。
「ラウ、老師の手伝いに行こう」
え……それって良いのか? 老師が魔封じをする時に、俺が補助をしても良いってことだよな?
「とうしゃま、いいのれしゅか?」
「飽くまで補助だ。ラウが直接手を出すのではない。私は老師に詳しい話を聞いてきた」
父は魔封じと言っても、実際に何をどうするのかを老師に詳しく聞いてきたらしい。
自分の知らないことを詳しく知ろうとする。そのために、教えてほしいと素直に言える。そんな大人って少なくないか? 俺の父はそれができる人だった。
まずは老師が魔封じの魔法陣を展開する。俺は老師のそばで、それに魔力を込めて補助するだけだ。実際に魔封じを女性に施すのは老師だと。
「女性と向き合う必要もないらしい。魔法陣に魔力さえ込められるのなら、離れていても良いそうだ。だから、ラウ。必要以上に近寄らないと約束しなさい」
「あい、とうしゃま」
俺も魔封じが最優先だと考えている。だから、それができるのなら何も言うことはない。
「魔封じが完了したら、首の魔道具を外すらしい。その際にもラウが老師に魔力を流して、補助して欲しいとおっしゃっていた」
「ろうしに、まりょくをながしゅのれすか?」
「魔封じを施した後だから、老師だけだと魔力量が心許ないのでしょうね。ラウ、老師は白魔術師なの。そう魔力量の多いジョブではないのよ。だから、そこをラウに補助して欲しいらしいわ」
「かあしゃま、しょうなのれしゅね」
白魔術師の魔力量なんて考えもしなかった。自分がそんなことを考える必要がないくらいに、魔力量が多いからだと思う。魔力量が不足してしまう場合もあるなんて、思いもしなかったんだ。
これって魔力を、リアルタイムで譲渡しながらってことだよな。俺はそんなのしたことがないけど、大丈夫なのかなぁ。ちょっぴり不安になってきた。
「だいじょぶみゃ。らうみぃなら、ちょちょいのちょいみゃ」
「みみ、しょうなの?」
「しょうみゃ。らうみぃはなんれもれきるみゃ」
俺のことなのに、ミミが自分のことみたいに自慢そうにしている。そんなミミを見ていると、まあ、嬉しいのだけど。
「そこで、ミミ」
「みゃ? みみみゃ?」
「そうだ。お前がラウのそばでちゃんと見守るんだ」
「わかったみゃ。みみにまかしぇるみゃ」
「私たちも立ち会うわよ」
「ああ、それとサイラスもだ」
「私もフクと一緒におそばにおります」
サイラスが静かにそう言いながら頭を下げる。サイラスも心配してくれているんだ。
ちょっと大げさかも知れないけど、それでもこれが両親が考えた妥協案なのだろう。
俺の気持ちを優先してくれたんだ。それはとても嬉しい。
「ぼく、ちゃんとほじょしましゅ」
「ああ、老師に教わることは多いと思う。あれでも国一番の白魔術師だからな」
あれでもと言われちゃった老師。それでも国一番なんだ。それは凄い。その国一番の白魔術師の老師が、俺の師匠になってくれる。これはとても有り難いことなのだと思う。
そのことはワクワクしてしまう。女性の魔封じは、ワクワクなんてしていられないのだけど。練習できないかなぁ、魔力を人に流す練習をさ。そんなのしたことがないから、何をどうすれば良いのか分からない。
「みゃ? みみに、ながせばいいみゃ」
「ええー、みみに?」
「しょうみゃ、いつもみみが、かってにたいかれ、もらってるみゃ」
「しょっか」
ミミの使い魔としての対価が、俺の魔力だった。俺は何もしないけど、ミミが言うように勝手に魔力をもらっているらしい。いつそんなことをしているのか、全然分からないのだけど。
「あら、そうね。練習になるわね」
「しょうみゃ、みみに、ながすみゃ」
「ねえ、みみ。ろうやってしゅるの?」
「え? ふちゅうにみゃ」
ああ、そうだった。ミミはこういう奴だった。ミミは精霊だ。息をするかのように魔法を使う。俺から魔力を持って行くのも、息を吸っているのと同じようにしていることなのだろう。
だめだ、こういうときはリンリン姐さんだ。
「あら~、私かしら~?」
いつものように、キララ~ンとリンリン姐さんが姿を現した。
「りんりん、よんでないみゃ」
「ミミじゃないわ。ラウが呼んだのよ~」
ねえ~、なんて言いながら俺の肩に止まってきた。やっぱリンリン姐さんは、ほんのり良い香りがするぞぅ。