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161/216

161ー食べたかったの

「老師様、良いのですか? 今、魔術師団はお忙しいでしょうに」

「なに、ワシ一人くらいいなくても、どうってことないわい」

「そうかしら? 解呪は老師様が、一番秀でておられると聞いておりますわ」

「ん? そうかそうか? ワシが一番か。それは当然なのじゃ。ふぉッふぉッふぉツ」


 魔術師団には老師以外にも白魔術師のジョブを持つ者がいる。その中でも老師は特に秀でているらしい。やっぱ経験値の差なのかな? もうお年だし。


「こりゃ、ラウ坊。また失礼なことを考えとったじゃろう?」

「しょんなことないよ」


 意外と鋭い老師だ。一概に呪いと言っても、強弱があるのだそうだ。

 以前、深紅の髪の女性が呪いを使っていた。あの時は、呪いによって対象人物を自在に操っていた。それは精神の奥深くまで呪いをかける。呪いの中でも深く強いものに分類される。

 それを解呪できるのは、老師くらいだというから驚きだ。

 あの事件の時も、老師は駆り出されたらしい。


「あの時ほど強い呪いではないから、ワシがいなくても平気じゃ」

「老師、平気ではありませんぞッ!」


 おっと、いつの間にやってきたのか師団長さんが老師の真後ろに立っていた。

 もう何度も来ているから、門番も顔パスだ。今日はお早いですね、なんて声をかけられている。


「ぶほッ! なんじゃ! いつの間に来ておったんじゃ!」

「もう慣れました。老師がいないと、こちらにお邪魔しているのだろうと」

「ふふふ、師団長さんも一緒にいかがですか?」

「奥様、いつも本当に申し訳ないッ!」


 ガバッと頭を下げる師団長さん。なんだか気の毒になってしまう。師団長さんはお迎えに来ているだけなのに。


「お気になさらないで。私達ももう慣れましたわ。ふふふ」

「ああ、もう本当にかたじけないぃ!」


 師団長さんが大きな身体を折って、小さくなっている。


「しだんちょうしゃん、きょうもおいしいよ」

「おや、そうですか?」

「うん、たべて」

「私までいつもご馳走になってしまって……いや、決してそれを狙ってきているわけではないのです!」

「あら、ふふふ。気にしておりませんわよ。さ、どうぞ」


 母ににこやかに勧められて、師団長さんは素直に座る。そして、すぐに出される紅茶とアップルクランブルケーキ。

 邸の者も、すっかり慣れている。最初から師団長さんの分まで考えて、用意されていたりする。


「これはまた、美味そうです」

「美味いぞ。じぇっぴんじゃ」


 老師ったらお口の中に入っているから、絶品と言えてないじゃないか。

 師団長さんは甘いものが好きな方ではないと言っていた。でも、頻繁にうちで食べているから慣れてしまったのか、いつもペロリと平らげる。


「いやあ、今日も美味いですッ! これは食べたことがありません。珍しいですね」

「ふふふ、そうでしょう? これはラウが考えたものなのよ」

「ぶほッ! ラウ坊がぁ!?」

「なんとぉッ! 坊ちゃんはオヤツまで!」


 老師と師団長さんが驚くのも無理はない。この世界にアップルクランブルケーキなんてない。

 俺が前世を思い出していたからこそ、できあがったものなのだ。前世で普通に食べていた、あんなものやこんなものが食べたくなった。手に入らないとなると、余計に食べたくなるから困ったものだ。

 そこで俺は邸のシェフに頼んだ。こんな感じのものが食べたいと。

 俺が、味や食感など覚えていることをふんわりと伝えると、シェフは試行錯誤して作り上げた。

 その一つがこのアップルクランブルケーキだ。だからキャラメル風味なんだ。この世界にキャラメルなんてなかったから。それでも作り上げたシェフってすごいね。

 こんな感じでうちでは平和な時間が流れていた。


「ここでのオヤツタイムが、ワシの一番の癒しなんじゃ。しかも珍しいものが食べられる。一石二鳥じゃわい」


 と、二切れ目にフォークを入れている老師。


「老師、あまり甘いものばかり食べていると身体に毒ですよ」

「何をいうか! ワシの楽しみを取り上げるつもりか!」

「いや、何事もほどほどにと言っているのです。今日だってそれは何個目ですか?」

「ん? まだまだ入るぞ?」


 いやいや、そういう問題じゃない。老師ってガッツリ食べるからね。前世だと糖尿病とか心配しちゃうレベルだぞ。

 呪いを解呪したり解析したりすると、それだけ疲れるらしい。糖分って、一番早くエネルギーに変わる栄養素らしいし、身体が欲しているのかも知れない。


「後継を育てていただきませんと」

「あら、そうね。でないと老師様がいつまでもお忙しいままですわよ」

「な、な、なんとぉッ! それは盲点じゃったわい!」


 全然盲点なんかではない。普通に考えて老師しかできないから、老師に回ってくるんだ。

 だけど、こればっかりは本人の才能と努力、どちらも必要になってくる。

 それだけの才能を持った者がいないと、いくら努力しても駄目なんだ。白魔術師のジョブを最低限持っていないと駄目だ。

 俺は大賢者だから、魔法系は網羅している。それだけの魔力量と才能があるジョブなんだ。

 まだ3歳だから、できないことの方が多いけどね。


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― 新着の感想 ―
老師には一言「うざい」でOK で、報酬は何かすっごく楽しみですね
老師はダメダメな激甘党きっと毎日ラウちゃんのお家でオヤツ を食べに来るのがローテーションになってる あの呪術女をラウちゃんに合わせて大丈夫かなぁ
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