16ーデオレグーノ神王国
俺は関係ないし、高速ハイハイでもしておこう。
「あぶぶぶぶ!」
「らうみぃ、はやいみゃ!」
「あぶぶぶぶぶぶぶぶ!」
「はやい! はやい! はやいみゃ!」
あれ、煩い? 父とアンジーさんにジトッと見られてしまった。
「あらあら、ラウ。少し大人しくしましょうね」
「ばうあー」
え? 俺このまま此処にいても良いのか? 赤ん坊だから口外するなんてできないけど。
でも、俺は部外者だぞ。何より赤ん坊の俺は場違いだ。
「あなた、それで例の伯爵家はどうなりました?」
「それが、当主が亡くなって財産も持ち去られている。いくら親族がいるといっても、今後は苦しいだろうな」
「まあ、それは大変ですわね」
「アンジーにその女性を調べてもらっていたんだ」
「はい、調べましたよ。びっくりッスよ!」
何が何やら俺には分からない。でも、しっかりと母に抱っこされてしまっている。ガッシリと俺のお腹に手を回して、お膝に座らせている。
おフクはどこ行った? 俺を助け出してくれないか?
「旦那様、奥様、お部屋を移動される方がよろしいかと」
おフク、そこじゃない。俺を連れ出してほしいんだ。
「ああ、そうだな」
「そうね、会議室に移りましょう」
と、俺の願いも空しく、母に抱っこされたまま移動した。
あぶあぶと言いそうになるけど、ここは黙っておこう。
その会議室というのが、冒頭でみんなが集まっていた部屋だ。
邸の一番奥にある部屋。普段は堅く施錠されていて、普通のメイドは中に入る事ができない。
実はこの部屋全体に、結界が張られていて外に声が漏れないようになっている。
その上、予め登録した者しか中に入れないという、精霊さんの技術を借りて作られた最先端の部屋だった。
俺もこの時まで、その部屋に入った事がなかった。
思えばこれが俺が関わる事になった最初の事件だ。
「調べたんス」
そう言って報告をしているアンジーさん。俺は全く分からない。
最近、王都在住の伯爵が一人亡くなった。老年ではあるが、元気に領地経営もちゃんと熟していた人らしい。
奥さんは亡くなっていたが、持病を持っていた訳でもなく事故でもない。突然ベッドから起きられなくなり、そのままあっという間に亡くなったのだそうだ。
それが何故か父は引っ掛かった。
念のためと調べてみると、そこに後妻に入った女性がいた。
だが伯爵が突然亡くなると、その後妻が伯爵家の有り金全部を持って姿を消した。と、いう事らしい。そんなの怪しいに決まっているだろう。
その後妻に入った女性をアンジーは調べていたんだ。
すると女性の経歴が全部嘘だったという事が分かり、父が本格的に乗り出したんだ。
アンジーさんがもっと突っ込んで調べた。
すると同じような貴族が、何人もいる事が分かった。ほんのこの2~3年で3件も同じ様な事があったらしい。
これは益々変だと思った父は、その3件の事も調べた。
どの貴族も、奥さんに先立たれた60〜65歳の当主で、同じ様に後妻を娶っている。親族の反対もなく、スムーズにだ。どの家でもそうだった。
そして、数か月後には当主が亡くなる。それは病だったり事故だったり区々らしい。
その所為で、何年も気付けなかったのだろう。
だが、同じ様にどの家からも全財産を持ち去られていて、女性は行方不明だ。
事件の匂いがプンプンするじゃないか。
「その女性なんスけど、名乗っている名前は4件とも違いました。でも見た目がどう考えても同一人物ッス」
その時々に名乗っている名前は違うらしい。貴族ではなく、例えば街で偶然知り合った女性などらしい。それは本当に偶然なのか?
貴族がそんなに簡単に迎え入れるのか?
「それに今回は伯爵家だったッスけど、それ以外は男爵家です。下位貴族で、王都に住んでいない末端の男爵家だったので、誰も気にしなかったみたいッスね」
それにしても、親族は堪ったもんじゃないだろうに。
そしてどの女性にも共通する見た目。
「真紅のふんわりした髪に、ローズ色の瞳ッス」
「なるほど」
その女性を探し出すしかないな。
「手掛かりはあるんッスよ」
「あるのか?」
「なにしろこの国ではそう見ない髪色ッスから」
この国では色んな髪色をした人がいる。
アンジーだって、前世にはいない髪色だ。なにしろ水色なのだから。
「真紅の髪なんて、そういません。隣国じゃないんッスから」
お隣の国は一回目の生で、イケイケドンドンで魔族の国に戦争を吹っ掛けた国だ。この国クライネン王国の北側に位置する。
デオレグーノ神王国という。国名に『神』という文字を入れるところが、俺に言わせると胡散臭い。
国の王は神の使いで、自国は神に一番近い国だと信じられている国だ。その上、魔道具や呪術を研究している。
その隣国には真紅の髪色の種族がいるらしい。
「呪術師の種族ですよ。そんなの決まりッスよ」
アンジーの言う『呪術師の種族』これは一般的には知られていない。
他国の詳しい種族の事なんて、普通はあまり知らない。貴族でも知っているのは一握りだ。
外交に携わる者や、国の要職に就いている者、そして父とその配下だ。
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