156ー新発見
老師はうろたえまくって、顔面が引きつっている。そのうち雷に打たれたのかというくらいに、ブルブルと震えだした。
「しぇ、しぇ、しぇいきのだいはっけんじゃぁぁぁーッ!!」
もう何を喋っているのか、分からなくなってしまっている。とうとう子供を通り越して、幼児になってしまったか?
「ろうし、おちちゅいて。なんていってるのか、わからないよ?」
「ラウ坊! 何を落ち着いておるんじゃ! こんな大発見はないじょ!」
ああ、大発見と言っていたのか。あら、そうなんだね~。
「へえ~、しょうなんら」
「ぶびょぉ!!」
また、老師が変な声を上げた。これはきっと……
「ろうし、いればらいじょぶ?」
「もご……ふご……危うく取れてしまうところじゃったわい!」
やっぱね、入れ歯が取れそうになっちゃった音だった。
今日は老師、来ていて良かったね。精霊女王と会えたし、精霊は桃ジュースが大好きだと分かったし。うんうん、良かったね。
「これは戻ってレポートを書かんといかんぞ! で!? どうして桃ジュースなんじゃ!?」
ああ、そこも当然知らないんだね。なら教えてあげよう。
「らって、しぇいれいかいにあるぴーちりんと、よくにたあじらかららよ」
「あんだって!?」
なんだよ、せっかく教えてあげたのに俺の長文は理解できないか?
「らから、ぴーちりんらよ」
「ぴ、ぴ、ぴーちりんじゃとぉッ!? そんなもん本当にあるのか!?」
「あるのよ、老師」
俺と老師の会話を聞いていた母が、口を挟んできた。きっと、母は焦れったくなったのだろう。俺と老師だと、なかなか話が進まないから。
サクッと母が説明した。精霊界には本当に伝説のピーチリンが生えている。ピーチリンは、俺達のいる世界では伝説の果物らしい。それも俺は知らなかった。あぶねー、つい言っちゃったよ。
そのピーチリンに、とっても味が似ているのが桃ジュース。どうしてジュースなのかというと、精霊は俺達人間とは存在自体が違っているためだ。この世界では、水分しか口にできない。
だから、本当は桃ジュースじゃなくても良いんだ。お茶だって飲めるし、なんならりんごジュースだって構わない。だけど精霊達の好みのど真ん中が、桃ジュースなのらしい。
まさかこんなにピーチリンや桃ジュースが、登場することになるとは思いもしなかった。
「ふご……」
あ、いかん。老師の魂が抜けかけているぞ。
「あらあら、ふふふ」
「老師様、大丈夫ですか?」
あわててフクが老師の背中を摩っている。あっぶねーな、うちでご臨終とかやめてくれよ。
「ふごッ! 一瞬目の前に川が見えたぞい」
だめだめ、それはまだ渡ったら駄目な川だからね。
「川の向こうで、かみさんが手招きしておったわい。ふゅぅ~」
え? 老師の奥さんって、汚すから髭を剃れって言ってた人だよね? あれれ? もう亡くなっていたのか?
「老師、奥様はまだお元気でしょう?」
「そうじゃったわい。ふぉッふぉッふぉッ!」
落ち着いたのか、またズズズーッとお茶を飲んでいる。
本当に老師って見ていて飽きない人だ。とってもおもしろい。
とにかく気を取り直した老師は、おフクに今日のオヤツを貰って食べている。
今日のオヤツはレーズンバターサンドだ。うちの料理人特製の手作りバターとビスケットで、レーズン入りのバターをサンドしたもの。
俺も大好きだ。そういえば、前世でも好きだったな。なんだっけか? 有名なお店のバターサンドを母がよく買ってきていた。
「ふく、ぼくもたべる」
「はい、坊ちゃま。奥様もいかがですか?」
「ええ、いただくわ」
「お茶も入れ直しましょう」
なんだか最近、いつもオヤツの時間に老師がいるね。
「今日のオヤツも美味しいのぉ。バターもビスケットもじぇっぴんじゃ」
絶品と言っている。老師ったら子供に戻り過ぎているよ。俺より精神年齢が低いじゃないか。
「ラウ坊、何を考えとるんじゃ?」
「なんれもないよ、おいしいね」
「うまいのぉ~」
と、二つめのレーズンバターサンドをフクに貰っている。
「で、精霊界には行けんのかのぉ?」
チラチラと俺のほうを見ている。俺に聞かれてもね、だって精霊女王が怖いことを言っていたじゃないか。精神が耐えられなかったり、血が吹き出したりするらしいよ。
「ワシは無理なのかのぉ?」
だから俺を見るんじゃないよ。仕方ない。精霊女王に聞いてあげよう。
「しぇいれいじょうおう、ろうしはむりなの?」
「さあ、どうかしら? シールドを張っていたら大丈夫なんじゃないかしら?」
「しーるろかぁ、ろうしれきる?」
「なんじゃと?」
「らから、しーるろらよ」
キョトンとしている老師。なんとなく分かるだろう? 話しの流れで分からないか?
「だからラウ、聞こえないのよ」
「あー、しょうれした」
「老師、シールドを張っていれば大丈夫じゃないかと仰っているわ」
「シ、シ、シールドか!? シールドなのかぁッ!?」
明らかにガックリと肩を落として、しょんぼりとしている。
あれれ? シールドが駄目なの? もしかして苦手なの? だって老師って、魔術師団の最古参だよね?
「ラウ、老師は白魔術師だからなのよ」
白魔術師とは、解呪、浄化、回復系専門の魔術師だ。そっちはとっても長けている。だけど、攻撃魔法やシールドとなると、魔術師団長の方が上らしい。例えばシールドの強度も、展開する持続時間もだ。