155ー一緒に食べたい
「ワシも行きたいのぉ~! め~っちゃ行きたいんじゃのぉ~!」
「らって。しぇいれいじょうおう」
「そうね~。でも身体が耐えられないかも知れないわね」
「ふちゅうのひとは、たえられないの? バラバラになっちゃうとか?」
「な、な、なんじゃとぉッッ!?」
俺の物騒な言葉に、老師が驚いている。
「あら、ふふふ。バラバラにはならないけれど、精神が耐えられなかったり、どこかから血が吹き出したりするかも知れないわね」
え、そうなの? こわッ! そんなに特殊な世界だったの? 俺ってホイホイ行っていたけど、大丈夫なのかな? これも今更なんだけど。
「ラウは魔力量が多いから大丈夫なのよ。アリシアもエレメンタラーだから順応性はあるわね」
「な、な、なんて仰っているのじゃッ?」
そうか、老師は聞こえないんだ。面倒だなぁ。
「ラウ坊! 今、面倒とか思ったじゃろう!? ワシだって聞きたいんじゃ! 見たいんじゃッ! うふふ、アハハと会話に入りたいんじゃぁッ!」
もう駄々っ子みたいだ。
「ズルイではないかぁッ! ワシだって……ワシだって精霊女王様と話したい! ご尊顔を拝見したい! なんなら一緒にスイーツを食べたいのじゃぁッ!」
こらこら、老師は時々こうなる。やっぱあれだな、お年を取って子供に返り過ぎちゃったタイプに決まりだな。うん、そうに違いない。
「ラウ坊、何を考えとるんじゃ!?」
え、俺なのか? とばっちりじゃないか。
「あらあら、子供みたいな老師なのね」
「しょうなの、ときろきこうなるの。スイーツにめがないの」
「ああ、だから一緒に食べたいのね」
「しょうしょう」
でも精霊女王は、俺達人間が食べるものを食べられないからね。そこ、大前提だよ。
「なんじゃ?」
「ろうし、しぇいれいじょうおうは、たべられないの」
「なに!? スイーツをか!?」
「スイーツだけじゃなくて、ひとがたべるものじぇんぶらね」
「な、な、なんじゃとぉーッ!?」
そうなのだよ、だから一緒にスイーツを食べるのは諦めようね。
「ねえ、おちゃなら、らいじょぶ?」
「あら、私も桃ジュースが良いわ~」
「しょうなの?」
やっぱ精霊さんだからかな? うちは桃ジュースが大人気だな。
いつも用意してあるから、すぐに桃ジュースが出て来る。おフクには見えていないらしいのだが、それでもちゃんと精霊女王の前に桃ジュースを出している。これは、なんとなくなのかな?
「坊ちゃまや奥様が、そちらを見てお話しなさっているので」
なるほど、おフクはできる乳母だからだ。
精霊女王が桃ジュースを飲む。コクリコクリと美味しそうに。
これって精霊女王が見えない人からはどう見えるのだろう? もしかして、ホラーか? 勝手にグラスが浮いて、中の桃ジュースが減っていく。なんてホラーに見えるのだろうか?
「な、な、な、なんとぉッ!? 桃ジュースが減っていくじょーッ!」
老師ったら落ち着こうね。この老師の反応から考えると、やっぱ勝手に減っていくように見えるらしい。
「みみも、ももじゅーしゅがほしいみゃ」
さっきピーチリンを食べてきたのに。それに、眠いって言ってなかったか?
「ももじゅーしゅのむみゃ」
「はいはい」
本当、うちの桃ジュースの消費量が半端ない。
実はうちではシーズンの時に大量に桃を購入しているらしい。ミミだけじゃなく、リンリンやフェンも飲むからだ。一つの桃からどれだけの桃ジュースができる? そう大した量はできない。でも常時桃ジュースは消費する。そこで、料理人達は知恵を絞った。
そして桃ジュース担当に、なんと氷魔法の使える料理人が大抜擢された。どうしてかというと、大量に購入した桃を凍らすためだ。
一瞬のうちに氷魔法で桃を凍らせ、常備しているらしい。ジュースにする時も、解凍せずにそのまま一気に絞ってしまう。というか、粉砕に近い。前世でいうとミキサーにかける感じだ。それを一滴残さず、これまた魔法で絞る。ここまでの工程を、真空にした空間を魔法で作り出してやっている。空気に触れると変色してしまうからだ。
最後の仕上げに状態保存の魔法を掛けて、ほどよい冷たさを保ち変色を防いでいる。そこまで料理人が拘って作られた桃ジュース。その作業を毎朝やっているらしい。
凍らせておいた桃から作った桃ジュースは、とってもフレッシュで美味しいらしい。
「ももじゅーしゅは、おいしいみゃ」
「ほんとうね、とっても美味しいわ」
そう言いながら飲んでいる、ミミと精霊女王。それを、あんぐりとお口を開けて見ている老師。あんまりお口を開けると顎が外れちゃうぞ、と心配になるくらい口を開けている。
「うぇぁッ! わ、わ、ワシもこれからは桃ジュースを、にょむじょッ!」
なんでカミカミなんだよ。どうしてそんなに、うろたえているんだ? 両目をカッと見開いて、あたふたとしている。
「ラウ坊! 驚かずにいられるかぁッ!」
「え? ろうして? しぇいれいしゃんはみんな、ももじゅーしゅがしゅきらよ」
「な、な、なんじゃとぉーッ!?」
え? 今更何を驚いているんだ? さっきからミミが桃ジュースと煩かったじゃないか。
「今まで精霊が何を好むのかなど、分かっておらんかったのじゃぁ!」
「しょうなの?」
「とうじぇんじゃ! これまで精霊と意思疎通がとれた者などおらんかったのじゃ!」
「へえー、かあしゃま、らって」
「ふふふ、そうなのね~」
あらあら、母は呑気だ。