150ー老師ったら
俺はアコレーシアに執着しているかもという自覚はある。でもさ。
「らって……らいしゅきらから」
「ほうほう、そうかそうか。大好きだから自分の懐に入れておきたいか? ラウ坊、それはエゴというのだぞ」
「しょんなこと……ない……」
て、自信なく抵抗してみる。自分の懐に入れておきたい訳じゃない。籠の中の鳥にはしたくない。でも大事にしたいんだ。また失う事が怖い。
前の時にアコレーシアは、自分のジョブを生かしてポーションを作っていたりした。
アコレーシアのジョブはアルケミスト、錬金術師だ。その可能性はまだ全部を解明されていない。ポーション類作りに専念する者もいれば、魔道具作りの方へ進む者もいるらしい。
前の時、アコレーシアはポーション類を作っていた。それも、俺に持たせるためにだ。
「ラウはいつも危険な事をするから心配なのよ」
と、言いながらポーションをくれた。アコレーシアの作るポーションはとても効果が高くて、少しの怪我なんてあっという間に治った。だけど、おれは大賢者だった。
多少の事なら、ポーションなんて必要ないんだ。自分の魔法で治してしまうから。
そう何度言っても、アコレーシアは聞かなかった。俺にポーションを持たせておけば、少しは安心できたのかも知れない。
「ラウだって魔力切れになるかも知れないじゃない。そんな時に怪我をしたらどうするの? ポーションが必要でしょう?」
そうなんだ。あの最後の時、俺は全魔力を使って殲滅魔法を放った。そして背後から胸を貫かれた。
その時ポーションを使う余裕さえなかった。持っていたんだ。アコレーシアの作ったポーションを。なのに……。
「ラウ坊、何を考えとるんじゃ?」
「なんれもない」
今は老師が一緒だった。つい、前の時の事を思い出していた。
「それはそうと、ラウ坊。そろそろ教えてくれんかの?」
「え? なにを?」
「その鳥さんじゃ」
「みみのこと?」
「そうじゃ。精霊の使い魔なんて、どんな感じなんじゃ?」
「え、ふちゅうらよ」
「ぴよ」
そんな話になった時だ。サイラスが走ってきた。
「坊ちゃん! 邸の中に入ってください! 老師様もです!」
「さいらす!」
「ラウ坊ちゃま、入りましょう!」
側で控えていたおフクが、俺をヒョイと抱き上げ走る。
「老師様! ミミちゃん! 付いて来て下さい!」
「な、な、何事じゃー!?」
「みゃみゃみゃ!」
おフクは俺を抱っこして、猛ダッシュで邸に戻る。ミミが慌てて俺の肩に止まる。その後を、ほっほっほっほっと変な掛け声を上げながら走ってくる老師。
意外にもお年の割に、お元気だ。ちゃんと遅れず付いてきている。
なんだ、なんだ? また襲撃なのか? 今度はどこのどいつだ? と、思っていたら門の方から大きな声が聞こえてきた。
「ろぉうぅしぃーッ!!」
え……? ろ、老師? 老師って言った?
「あれ? ろうしっていってるよ?」
「あらまあ、本当ですね」
おフクが俺を抱っこしたまま立ち止まり、門の方を見る。
「老師! 困ります! 毎日毎日脱走しないでください!」
門を両手でガシッと掴みながら、目を吊り上げて叫んでいる。魔術師団の制服にローブを羽織っている。あの人って魔術師団の師団長じゃなかったっけ? 前に城で会ったあの師団長さんだ。
「仕事があるのですよ! し・ご・と・がッ!」
門兵が、どうしたものかとこっちを見ている。これは困るよね。アポイントのない人を通す訳にはいかない。でもどこからどう見ても、魔術師団だ。しかも、門のところから大きな声で老師を呼んでいる。いや、叫んでいる。
「ろうし、よんれるよ?」
「な、な、なんでバレたんじゃぁッ!?」
え……? バレた?
「誰にも見つからないように、そぉ~っと出てきとるのにぃッ!」
いやいや、そういう問題じゃない。この老師は一体何をしているんだ? 仕事をバックレてここに来ていたのか?
その割に、堂々とお茶していたぞ。お手々を繋いで、一緒にアコレーシアのところにまで行っていた。なんて、堂々としたサボリなんだ。俺はちょっと呆れてしまった。
「老師! 戻りますよ! 君もいい加減通してくれ! 私は魔術師団の師団長だと言っているだろう!」
とうとう門兵にまで当たりだした。これは相当怒っている。サイラスも呆れている。てっきりどこかの馬鹿貴族でも、乗り込んできたのかと思ったのに。
「ラウ坊ちゃん、あの方はどうやら魔術師団の師団長様かと」
「うん、さいらす。そうだね」
つい最近、城で会ったから間違いないよ。なんだ、襲撃でも何でもないじゃないか。
「はぁ~、老師。お迎えですよ」
「しゃ、しゃ、しゃいらしゅ!」
老師、カミカミだぞ。
「ワシを売るのかぁ!?」
一体何を言っているのだろう。この老師は子供みたいだ。自分の興味がある事に真っ直ぐ過ぎる。大人なのだから、お仕事しよう。そこは、ちゃんとしよう。
こんな時なのに、老師の手にはしっかりとアップルパイが握られている。本当に好きなんだね。いや、そうじゃない。もっと慌てようよ。
「ろうし、またね〜」
「ラウ坊までぇッ!」
はいはい、もう良いからさ。あれじゃあ、師団長さんが不憫だ。
「さいらす、おねがい」
「はい、坊ちゃん」
サイラスがヒョイと老師を抱きかかえた。流石に、曲者を肩から担いでいたみたいな事はできないらしくてお姫様抱っこだ。