15ー父の側近アンジー
「どうしてみゃ? かんたんみゃ。きほんちゅうのきほんみゃ」
「あぶぶ」
この身体で魔法を使った事なんてあの時だけなんだ。適当にやっても良いのか?
「えー、だしょうとおもったらでるのみゃ」
なんて適当なんだ。いや、精霊ってそんなものなのかも知れない。
俺は仕方なく、一回目の記憶を引っ張り出した。
大賢者だったんだ。光を出すくらいどうって事ないさ。そう思って、小さな手を出した。
「あぶあー」
すると、ペッカーッと視界を奪われるほどの強い光が現れた。
「うわ! ちゅよしゅぎるみゃ!」
「ラウ!」
「あばば?」
え? やり過ぎか? でも俺は、ほとんど魔力は使っていないんだ。もっと抑えるのか? その方が難しい。
「あうあー」
俺が魔力を流すのを止めると、光も消えた。
光が消えると、そこには鬼の形相をしてミミを睨みつけている父がいた。目がキララーンと光っている。
「ミミィー……!」
「な、な、なんみゃ!? ちちしゃま、みみはわるくないみゃ!」
「だから加減を教えるのが、ミミの仕事だと言っただろうがぁッ!」
またガシィッと体を掴まれている。
俺、分かった。ミミは大雑把で適当なんだ。おまけに小生意気に、ペラペラと喋ってしまう性格だ。
だけどミミは、魔法なんて考えなくてもできちゃう天才肌なんじゃないか? こうして実体化している事にしてもそうだ。
それはきっと、俺達と精霊の違いもあるのだと思う。
精霊は意識しなくても、魔法が使えるのではないかな? それこそ、息をするかのようにだ。
「ラウ、そのとおりだ!」
「あぶう?」
父の使い魔、フェンだ。
フェンが、丁寧に教えてくれた。
俺が予想した通り精霊は、魔力をどれくらい使ってどんな魔法を発動しようとか意識しなくても魔法が使える。
存在自体に魔力が関わる位なんだ。魔力が無くなると精霊は存在できないらしい。
だが、実体はなくてもこの世界に使い魔としているだけで、魔力を消費しているのだそうだ。だからだ。
「あぶぅ」
「そうだ、対価だ」
フェンは父の魔力を、対価として貰っている。
「私もアリシア様からもらっているわ~」
そうなのか。じゃあ父と母も魔力量は多い方なんだな。
ミミが父に絞られている間に、リンリンとフェンから基本的な使い方を教わった。
先ず俺が魔法を使う時は、特別な場合ではない限り魔力を極限まで抑える様にと言われた。
それだけの魔力量なのらしい。
そんなだっけか? 一回目の時にそんなに意識はしていなかったのだけど。
結局、魔法の使い方をリンリンとフェンに教えてもらった。
そんな事をしていると、父の側近が入って来た。
最初の頃にも登場した父の側近でアンジー・フェルルド。
水色のふわふわとした髪をショートカットにしていて、紺色の瞳は睨まれたら逃げられそうもない鋭さだ。
背も高くて、細マッチョだ。いつも腰に剣を携えている。
このアンジー、実は母の姉の義兄の末っ子だ。歴とした侯爵家の子息だったりする。
だが、男三兄弟の末っ子。家督を継ぐのは長兄だ。
幼い頃から、自分は外で仕事をすると決めていたそうだ。
騎士団の入団試験を受けようかと思っていたらしいのだが、母にスカウトされて父の側近になった。
末っ子だから、兄が叱られている時はとばっちりを食わないようにその場からそっと立ち去る。そんな事が、周りの人達の気持ちを先読みし、自分の有利な様に立ち回る事を覚えた。
そして、男三人の三番目ともなると放って置かれがちになってしまう。それは自由な発想が育つ事に繋がった。要は要領が良いんだ。
そんな性格を見込まれたそうだ。
ジョブは剣闘士。剣も拳もオッケーってジョブだ。
父は『氷霧侯爵』と呼ばれているが、この側近もなかなかに冷たい印象を受ける。
二人で城の中を行くと、誰も声を掛けられない空気感があるらしい。だが、本当は……
「殿下ぁッ! あれほど一人で勝手に先に行くなって言ってるじゃないッスか!」
「お前が遅いんだ」
「なんでッスか! そんな訳ないっしょ!」
と、賑やかで明るい人だ。ただし、ゴリッゴリの体育会系だ。
時々父と二人で、暴走気味に鍛練をしていたりする。良い汗かこうぜ! みたいな感じだ。
いや、一種のストレス発散なのかも知れないが、俺には理解不能だ。
「ラウ坊ちゃん、相変わらず可愛いッスねー」
と、言いながらいつも俺を抱き上げて、高い高いをしてくれる。
「あばばー! キャッキャ」
単純に喜んでしまう俺。0歳児だ。
「おや? 前より身体つきがしっかりしましたか?」
「あぶあー」
お、分かるかね? 俺は日々成長しているのだ。それに最近では、毎日高速ハイハイで鍛えているからな。
見るか? 俺の高速ハイハイを。
アンジーの手を、ペタペタと叩いて下してくれと訴える。
「あぶあぶ」
「え? 下りるんッスか?」
「あぶあー」
床に下してもらった俺は、颯爽と高速ハイハイを披露した。
「あぶぶぶぶ!」
「おおーッ! 早いっスね! アハハハ! なんだこれ、超可愛いー!」
どうよ、俺の高速ハイハイは。
「アンジー、調べはついたのか?」
「殿下、それがおかしいんッス」
いきなり始まった父のお仕事の話だ。
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