145ー前の事実
だから、今は同じ事にならないようにできる事をしているんだ。そんな話をした。
それからだ。魔王とアースランは、とっても俺に友好的になった。
「あんな国など、潰そうと思えばいつでもできるんだ。それを面倒だから放っておいたら、図に乗っているのだろう」
「魔王様、今の内にプチッといっちゃいますか?」
「ん? プチッとか?」
「あぶばー!」
こらこら、余計な事をするんじゃないよ。もっと悪い状態になったらどうするんだ。
とにかく今は将来、人の国に侵攻しないと約束して欲しいんだ。
「おう、約束してやろう」
「そうですね、侵攻するとしてもあの国だけにしておきましょう」
こらこら、アースランの方が過激じゃないか。
そんな話をしながら、あの頃は月一くらいで通っていたんだ。ちょっと魔王とアースランの絡みが面白かった事もある。
アースランは魔王に対してでも、シレッと毒を吐く。それがとっても新鮮で面白かったんだ。それからだ。魔王とこんな仲になったのは。
最近は、前ほどマメには行かなくなった。それなりに関係も構築できたし、一応侵攻しないと約束してもらえたから。
そしたら魔王は、無理矢理精霊女王とコンタクトを取ってやって来るようになったんだ。
「ラウ、私のところへはなかなか来ないのに、精霊女王とは会っているのか!? 別に私は待っているのではないぞ!」
だからそのツンデレは面倒だからいいって。
「らからね、きょうはよばれたの」
「精霊女王にか?」
「しょうしょう。らいじなおはなしがあったからね」
魔王の登場で忘れるところだったじゃないか。
「わ、私には話せないという事なのか!? 私は仲間外れか!?」
「え、しょんなんじゃないよ。いっしょにきいてく?」
「おう、聞いてやろう」
はいはい。態度はデカイのだけど、ちょっぴりヘタレでツンデレな魔王だ。そこがまた憎めない。
で、本題だ。精霊女王は知っているのだろう?
「らから、あのあとのことなの」
「ラウ……」
精霊女王は言いたくないのか? 俺の名を呼んだまま、悲しいような辛いような何ともいえない表情をして黙りこんでしまった。
その表情から推測すると、良い事ではないと俺にでも分かる。
「ラウ、聞かない方が良い事もあるのだぞ」
魔王がそれを察して、そんな事を言った。
いや、だけど俺は知らないといけないと思うんだ。この先の未来を変えたい。何としても前の時の様な事にはしたくない。
なら、あの後どうなったのかを知っておかないと。と、思うんだ。
「あのね、ラウ。やり直している今、知っても仕方がない事なのよ」
「わかってるよ。けろ、ぼくはしりたいの」
「ラウ……」
それから精霊女王は少しずつ話してくれた。俺にとっては衝撃的な内容だった。
俺は騎士団長の息子に刺された。その頃王都では、父が国家反逆罪に問われていた。それをでっち上げた奴がいた。
父の職務内容は公にはされていない。知らない者から見れば、王弟は何をしているのだ? と、思われても不思議ではない。だが、城の重鎮達は知っていた。なのに、父を嵌めたんだ。
「しょんなこと……れきるの?」
「ええ、首謀者がいたのよ」
「ましゃか……」
「そのまさかよ」
父の王弟という立場、そして大賢者や聖女という最上位のジョブを持つ俺と妹、それに希少なエレメンタラーのジョブの母。
その何もかもが気に入らなかったのだろうと精霊女王は言った。
おまけに父は『氷霧公爵』などと言われて、人気がある。
「王妃が裏から手を回していたのよ。それに乗っかったのが、あの当時の貴族院よ」
王妃はそこまで憎んでいたのか。王妃だって父の職務内容を知っているはずなのに。
「王のジョブが賢者でしょう? それなのに王弟の嫡男のラウが大賢者だった。それで危機感を持ったのね」
「しょんな……」
俺の所為なのか? 俺が邪魔だったのなら、俺だけ排除すれば良いじゃないか。
「それだけじゃないのよ。妹の聖女というジョブも気に入らなかったのね。それにラウは宰相の令嬢と婚約していたでしょう? だからよ」
どうしよう……言葉が出ない。
「あこちゃんは? あこれーしあのかじょくは、ろうなったの?」
「共謀者として捕まえられたわ」
「え……」
その後、まともな調査もされず真偽の分からない証拠を突き出し、俺の家族やアコレーシアの家族はあっという間に処刑されたのだと精霊女王は言った。
王妃の個人的な嫉妬や妬みで、そこまでやるか? しかも俺の父は影に徹して王国を守っていたんだ。
アコレーシアの父親だってそうだ。宰相という要職に就いていた。
なのにそんな事をしても良いのか? 人としてどうなんだ?
いや、そんな事どうでも良かった。とても冷静ではいられなかった。
俺は無意識でシュンッと転移しようとした。行く先はもちろん王妃の元だ。頭に血が上った。じっとしていられなかった。
「ラウ!」
精霊女王は手を一振りし、シュパンッと俺の転移を強制的に解除し、俺を引き留めた。
「らって!」
「ラウ、今ではないのよ。。前の時の事なの」
「しょんなのかんけいない!」
「冷静になりなさい、ラウ」
そう言って、精霊女王は3歳の小さな俺の身体を腕の中に囲い込んだ。そっと、それこそ慈しむように抱きしめられたんだ。