143ー呼ばれた
前の時も俺は『精霊女王の愛し子』だったのか?
「当たり前じゃない。でないと大賢者なんて最上位のジョブを与える訳ないでしょう?」
「しょうなの?」
「そうなのよ~。だから私も許せないの」
もしかして、それで今回は俺が生まれて直ぐから関わっているのか? 俺が無茶な事を言っても、どうにかしようと協力してくれる。とっても心強い味方でいてくれる。
「ありがとうね」
「ふふふ、良いのよ。あの最後は私も不本意なのだもの」
色々聞きたい事があるのだけど、取り敢えず今回の騎士団長の息子のジョブだ。俺、前の時のあいつのジョブも知らないんだけど。
「前の時は聖騎士だったわね、本当は聖女を守る役目だったのよ」
「せいじょって、ぼくのいもうと?」
「そうね、今回はまだ生まれてないけど」
俺の4歳下の妹だ。前の時と同じなら聖女のジョブを授かる。そのジョブが王妃の妬みを買うんだ。
「王妃はあの心根が駄目だわ。どうしてあんなに執着するようになったのかしら?」
と、言う事は最初からああだった訳じゃないんだな。
「当然よ、でないと王妃に選ばれないわ」
「しょっか」
王妃も王と婚約した頃は、今の様な感じではなかったらしい。きっとそれを父と母も知っているのだろう。だから今回なんとかしようとしているのかも知れない。
王妃になるべくして厳しく育てられた侯爵令嬢だった。王妃の実家は開国以来から続いている由緒正しい家系だ。
当時、王妃の他にも同じ年頃の令嬢は何人かいたらしい。同じ様に婚約者候補にもなっている。その中から今の王妃が選ばれたんだ。
それだけの事はある筈なんだ。今回は自分のジョブが下位だった所為で、余計にジョブに拘っているようにも思える。
「それでも前の事があったのだから、今回も同じジョブを与える事はできないわ。もちろん王女と騎士団長の息子もよ」
「あ、やっぱり?」
「当然よ」
今回、王妃と王女は前とは違う下位のジョブになっている。騎士団長の息子もそうらしい。それでも騎士団には入るのだろうな。父親が騎士団長なのだし。いや、これは裏口とか融通を利かせてもらってとかって意味じゃないぞ。父親と同じ道を選ぶのではないかという事だ。
「騎士団に入れるかしら? まあ、それくらいはできるでしょうね」
「え、しょんなになの?」
「ええ、前の時は聖騎士だと言ったでしょう? それは騎士の才能があると言う事よ。でも今回は……」
え、なんだろう? 騎士系のジョブじゃないのか?
「騎士系と言えばそうかしら? なにしろ下位だから本人の努力が必要だわ。騎士になるためには、最低限のジョブよ」
前の時は聖騎士、それは上位のジョブだ。なにしろ聖女の護衛になるためのジョブなのだから。
今回は……?
「ただの剣士よ」
「え……それっていっぱいいるよ」
「そうね、だから騎士団に入る為には努力が必要なのよ」
それでも剣士なのだから、剣の才能は持っている。そこから騎士団に入れるかどうかは、本人の努力次第という事だ。騎士団って規律も厳しく、礼儀正しくってところだったと思うんだ。
なのに前の時は、あの息子は王女とこっそり繋がっていた。いつの間になんだろう?
「王女の護衛をした事があるのよ」
「しょうなんら」
なるほど、そこからか。それにしても、護衛をした事があるってだけであんな計画を実行するか?
「あれは……その前に大群の魔族を前に逃げ出したでしょう?」
「うん、ぼくをおとりにして」
「そうね」
魔族の大群の前にポイッと捨て置かれたんだ。俺は何が何だか分からなかった。少しの間、放心状態になってしまった事を覚えている。そして、目の前に魔族の大群だ。そんなの、もう自棄っぱちになるだろう?
「ふふふ、自棄になってあの殲滅魔法だったの?」
「しょう。むかついたんら」
「当然ね」
なのに、その後背後からグサッだよ。人のする事とは思えない。背後でほくそ笑んでいたんだぞ。
「私達はそれを知っているわ。あんなの見逃せない。今回は前より厳しくなって当然なのよ。剣士でも甘いくらいだわ。あんな事をするなんて、人としてどうなのか? て、話でしょう?」
「しょうらね」
そっか。やっぱ全部知っているんだ。なら俺が殺された後の事も知っているんだよな。
「ラウ、それは……」
「なんだ! どうして私のところへ来ない!?」
ブワッと風が吹いたかと思ったら、真っ黒な衣装に身を包んだ綺麗な男性が立っていた。
そう、魔王だ。なんだよ、もう普通に精霊女王の世界に来ているじゃないか。
「ひしゃしぶりらね~」
俺は魔王に向かって手をフリフリする。
「ラウッ! 相変わらず可愛いなッ!」
そんな馬鹿な事を言いながらも、イケメンが眩しい。
「久しぶりだ! 抱っこしよう!」
なんでだよ、何がどうして抱っこになるんだ。両手を広げて、目をキラキラさせて待っている。
そろそろ行こうと思っていたんだ。だけど、魔王から来てくれた。
「待っていてもラウは来ないじゃないか! 何も気て欲しいと思っている訳ではないのだからなッ!」
またツンデレな事を言っている。