142ークリスマスSS それは違う
まだラウが0歳の頃のお話です。ラウにクリスマスの事を聞いて張り切って準備している魔王とアースランのお話です。
今日はこのSSのみの投稿になります。
本編には全く関係ありません。
「アースラン、違うそっちじゃない!」
「魔王様、これで良いじゃないですか」
「駄目だ駄目だ! 歪んでいるぞ! ラウが来るまでにちゃんと飾り付けしないと!」
「歪んでませんよ。歪んでいるのは魔王様の根性です」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も……」
何が「何も……」だ。しっかり聞こえているぞ。こいつは時々毒を吐く。いつもは頼りになる側近なのに。
今日はラウがやって来る。しかもクリスマスというイベントらしい。
キラキラピカピカした物で飾って、チキンを焼いてケーキを食べるのだと。良い子には、サンタクロースなる者がプレゼントをくれる日らしい。
人族は私達魔族の理解できないことをする。これもその一つだ。
とにかく、折角特別な日にラウが来るのだ。驚かせてやらないと。
「魔王様、ケーキが出来上がったそうですよ」
「おお、そうかッ! 苺のケーキか?」
「この国に苺なんてありません」
「そんな事は分かっている! だから他国から購入すれば良いではないか」
「はいはい、それには時間が足りませんね。しかも果物ですから傷みます」
「そうか?」
「はい、そうですね」
「そうか、なら仕方ない」
て、ならどんなケーキができたのだ? ちょっと不安になってきた。
ラウにクリスマスのことを聞いてからというもの、毎日城の中を掃除して磨き上げ、飾り付けもしてきた。まず、必要なのがクリスマスツリーだという。
なんだそれは!? 聞いたこともないぞ。ツリーというのだから木だろうと予測をし、魔国に生えている適当な木を持ってこいと言った。そう言ったさ。言ったけどだ。
「アースラン、どうしてこの木を選んだ?」
「え? 木と言えばこれでしょう?」
「いやいや、これは違うだろう? ラウは人なのだぞ。しかも超可愛い赤ちゃんだ」
「はいはい」
いや、だから聞けよ。これはない。クリスマスツリーを知らない私でも分かる。
なにしろ、ウネウネ動く。何がって、木の枝が。いや、木自体がウネウネと動き回る。
根っこをウネウネ動かしながら、幹もクネクネ動かして動き回るのだ。なんなら枝を、ピューッと伸ばしたりもする。だって木の魔物なのだから。
唯一良いところといえば、枝に果物をぶら下げているところか。そこに苺があれば良いのに。
「あー! もう動かないでくださいよ! 飾り付けられないじゃないですか!」
ほら、ほ~らみろ。どうしてわざわざ木の魔物なんて選んだんだ。しかも枝の動きが、なんとも言い難いくらいに気持ち悪い。
木なのだろう? 動かない木の方が圧倒的に多いだろう。それが普通だろう。普通の木を持ってこようよ。
魔国といえども、動く木の方が珍しい。なのに、どこから持ってきたのか知らないが、これを選ぶとは。誰だ、持ってきた奴は。
「魔王様、そっち持ってください!」
「いや、アースラン。その木は駄目だ」
「ええー! せっかく捕まえてきたのに、どうしてですか!?」
どうして? どうしてと聞くか? どうしても何も、気持ち悪いじゃないか。おまけになんだ、それは?
「アースラン、その手に持っているのは何だ?」
「何って魔王様、飾り付けるのでしょう? その飾りですよ」
こいつのセンスを疑うぞ。確かに俺は、飾り付けろと言った。言ったが、だからといって動く花を持ってくる事はないじゃないか。
不気味にニターと笑っているような顔のある花。葉っぱと茎がクネクネ動いている。だって花の魔物なのだから。
何か? 動くシリーズで統一でもしようとしているのか?
「アースラン、それはない」
「え? 何言ってるんですか? 魔王様も手伝ってくださいよ」
「いや、だからその木も飾りも違うぞ」
「どこが違うのですか? 完璧じゃないですか」
「ええー……」
「魔国といえばこれでしょう」
魔国に拘るんじゃない。ラウが喜ぶようにと、拘ってくれよ。
しかもアースランの手から逃れた動く花が、フロアを走り回っているじゃないか。どうするんだ?
「あー! もう! どこに行くんですか!?」
ほらみろ。動くシリーズなんかで揃えるからだ。
普通でいいんだ、普通で。いや、違うな。可愛くだ。キラキラピカピカとしていて、しかもあの可愛いラウに似合うように可愛くだ!
「魔王様! 何一人でブツブツ言ってるんですか! 手伝ってください!」
「アースラン、それらは却下だ」
「ええー! どうしてですか!?」
どうしてだと? どうしてと聞くその思考が、どうしてだと聞きたい。
「アースラン、魔国に拘るんじゃない。ラウは人なのだ」
「何を分かり切ったことを言ってるんですか」
その分かり切ったことを、本当に理解していないのはお前だ。
とにかくその動きを止めろ。魔王の私が見ても悍ましい。石化でもさせるか?
「魔王様、何しようとしているんですか?」
「いや、動きを止めようとだな。石化でもさせれば良いかと」
「何馬鹿なことを言ってるんですか! そんなことをする暇があるなら手伝ってください!」
難易度を上げているのはお前だぞ。私は木と言った。動く木を持って来いなんて、一言も言っていないのだから。しかも動く花まで持ってきやがった。
ああ、もうラウが来てしまう。
「あぶぶぶー!」
「ぶへッ!」
ラウだ。どうしてラウはいつも私の顔面に転移して来るんだ? ほんのり温かいお股が顔面に当たるじゃないか。
私は顔面に張り付いているラウを、ベリッと剥がす。
「あぶぶ」
「ラウ、来たか」
「あば! ちゃ!」
「なんみゃ! きもちわるいみゃ!」
「ミミ、お前は煩いぞ」
「らってこれはなんみゃ!? うごいてるみゃ!」
ミミも気持ち悪いと思うだろう? 私もそう思う。だけど、アースランがそれが良いと言うのだ。
「きゃっきゃ!」
「お? ラウ、面白いのか?」
「あい!」
おっと、意外にもラウは喜んでいる。小さくてプクプクとした手をパチパチと叩いて、笑っている。
「ほら、魔王様。ラウも喜んでいるでしょう?」
「ああ、意外だ。想定外だ」
「何言ってるんですか。ラウ、ケーキも用意しているのですよ」
「あばー!」
両手を挙げて喜んでいる。だけどな、ラウ。そのケーキを確認していないのだ。どんなものが出てくるのか、私は不安しかない。
アースランが張り切って持ってきた、クリスマスケーキ……いや、だから……そんな気はしていた。だって木や花の魔物をチョイスしたアースランだから。
「みゃみゃみゃ! なんみゃ!」
「あばばばー!」
ほら、いくらなんでもこれはラウでも引くぞ。
だってアースランが目をキラキラさせながら自信満々に持ってきたケーキ。生クリームでデコレーションしているのは、よくやったと褒めてやろう。だが、それは何だ?
「魔国には苺がないのです。ですから苺の代わりですね」
ふふん、と胸を張っていたりする。どこが苺の代わりなんだ。天と地の差があるじゃないか。
白い生クリームの上に、どす黒い赤色の眼がいくつも並べてある。ああ、私でも引くぞ。
「ぴゃー! きゃっきゃ!」
「え……」
「ほら、ラウも喜んでますよ」
お、おう。確かに、良い笑顔で喜んでいる。ラウ、お前のセンスは大丈夫なのか? そのまま大きくなって大丈夫か?
「あーしゅ、あーと!」
「はい、どういたしまして」
「な、な、なにぃッ!? 今ラウはアースランと言ったか!?」
「はい、先日から呼んでくれるようになったのですよ。おや、魔王様はまだですか?」
くっそぅ、何を自慢しているんだ。
「ラウ、魔王だ」
「まー」
「そうだ、魔王だ」
「まー」
「プクク」
「アースラン、笑うでない」
「だって、魔王様。『ま』だけですよ」
「それでもラウは『魔王』と言っているつもりなのだ」
「ちゃ! あーと!」
よしよし、まあ何にしろラウが喜んでくれたのならそれで良い。
「きもちわるいみゃ、しんじられないみゃ。みみはむりみゃ」
「ミミ、煩い」
私だって気持ち悪いと思うさ。来年はちゃんと普通にするからな。とにかく、ラウ。メリークリスマスだ。