141ー小者だから
「ラウにはサイラスとフクが付いているし、あちらにも護衛が付いているから大丈夫よ。そこら辺の貴族には手出しさせないわ」
「そうだぞ、ラウ。頑張りなさい」
「あい、とうしゃま」
頑張りなさいだって。父に言われちゃった。
自分の恋を親に応援されるってどうなの? ちょっと恥ずかしいのだけど。父と母はアコレーシアで異存はないのか?
「アコちゃんは可愛いし良い子じゃない」
「私も一度会ってみたいな」
「とっても、かわいいれしゅ」
「ラウ、そうか。なら早めに婚約の話を持って行こう」
3歳で婚約か。早すぎるかもとは思うのだけど。でも俺は何歳になっても変わらないから、それは有難い事だ。
今回俺を付けていた者は、そのまま帰された。きっと帰ったら叱られる事だろう。バレた上に、情報を漏らしているんだ。
だけどこちらからは、何のアクションも起こさない。向こうにしてみれば、バレたのに何も言ってこない。どうしてだ? と、不気味だろう。
ただ、あの家は要注意だとブラックリストに載ってしまう事になる。
どう足掻いたって、俺の婚約者にはなれない。友人だって無理だ。
「小者だ。放っておけば良い」
「そうッスね」
え、そうなのか? 騎士団の副団長の家だぞ。それを小者だと言うのか?
「副団長と言っても、団長にはなれないんだ。今の団長の方が、副団長より少し年下だからな」
「そうでしたわね。確か……2歳下でしたわね」
剣の腕も、騎士団という集団を統括する能力やカリスマ性も、戦略を立てる事も団長の方が上だと判断されているらしい。
「今の騎士団長は、歴代最年少で騎士団長になったんだ」
「えー、しゅごいれしゅ」
「ああ、そうだろう? その騎士団長には敵わないという事だ」
俺を助けてくれた騎士団長、そんなに凄い人だったのか。
それでも前の時に俺の胸を剣で貫いたのは、あの騎士団長の息子だ。親は正義感の塊みたいな人なのに、息子はどうしてああなるのか。
「そういえば、騎士団長の末の子息はラウと歳が近かったな」
「そうッスね。確か今は4歳でしょう」
あの騎士団長の息子は、俺より1歳だけ上だったのか。その騎士団長の息子は、今回のジョブはどうなんだろう?
そろそろ精霊女王に会いに行こうかな。魔王にも会いに行かないと、また強制的に呼ばれそうだ。
父と母も連れて行きたいと相談してみよう。
会議はお開きになり、俺はおフクと一緒に部屋に戻る。もう眠くて限界だ。
おフクに着替えをさせてもらっていても、瞼が閉じてくるし身体が揺れてしまう。
「ラウ坊ちゃま、疲れましたか?」
「うん、らうじょぶ。ふぁ~……」
「あらあら、ベッドに入りましょうね」
「うん」
ベッドに入ったら即眠った。ミミも俺の隣で大の字になって眠っている。二人でスヤスヤと……
「あら、ラウったら、お疲れなのね」
「んん~……あ、しぇいれいじょうおう」
「少しお久しぶりだわね」
「ね~」
そろそろ会いたいと思っていたんだ。きっと見ていたのだろう? 魔王にも会いに行かないと。
重い瞼を上げると、そこは精霊女王の世界だった。真っ白で上下のない世界。慣れるまでは少し足元がふらついたものだ。
当然、なんでも知っているかのように精霊女王が話し出す。
「アコちゃん、可愛いわね」
「しょうれしょう?」
「あら、ふふふ」
だって本当に可愛いもの。パッチリとしたお目々に、ほんのりピンク色したあのほっぺ。
なにより、アコレーシアのあの空気感が好きだ。ポヤポヤしているのに、芯のしっかりとした子なんだ。
「前もそうだったものね。前はランニングだとか言って、毎日お花を持って行ってたかしら」
「えー」
そんな事まで知っているのか。なんでもお見通しって訳か。
それしにても、相変わらずミミは起きない。めっちゃ寝ている。お腹の上に手? 手羽? を、おいてスピーッと寝息をたてている。ミミも今日は疲れたのかな?
「ふふふ、ミミも少しは役に立ったかしら?」
「しょうらね、がんばってた」
「いつも頑張ってくれると良いのだけど」
それはそうなんだけど、でもそんなのミミじゃなくなっちゃうぞ。
「あら、それは褒めているのかしら?」
「うん、ほめてる」
ふふふ、と優雅に笑う精霊女王。そんな事より、聞きたい事があったんだ。
「分かっているわよ、だから呼んだのですもの」
やっぱりそうか。あの騎士団長の息子だ。
「父親は立派なのに、末子となるとああなっちゃうのかしらね」
「しょれは、まえのときのこと?」
「そうね、まさかあんな酷い事をするなんて」
俺を囮にしただけじゃなく、魔族を殲滅した俺の背後から剣を突き刺した。
今でも覚えている。あの時の焼けるような胸の痛みを。
「ラウ……」
「らいじょぶらよ、やりなおしたのらから、こんろはあんなこと、しゃしぇないから」
「そうね、その為に今頑張っているのですものね」
「しょうしょう」
そうだ、いつまでも前の事を思って落ち込んでなんていられない。今度はあんな最後にならない様に、みんなが幸せになるようにするんだ。未来を知っている俺だけが守れるんだ。
「ラウは私の愛し子ですものね」
「しょれ、しらなかった」
前の時もそうだったのか? 前は精霊女王の存在自体を知らなかったけど。