140ー貴族事情
そんな家で剣に秀でた者達は騎士団の入団試験を受けたり、自分の家より高位の貴族の護衛になったりする。学問が得意な者は文官になったり家庭教師になる。中には事業を起こす者もいたりする。そんな感じで家を出るんだ。
爵位は自分にはなく、どこそこの貴族家の次男という儀礼的な扱いになる。本当に貴族として身を立てようと思ったら、何等かの功績を残し自分で叙爵されなければならない。副団長はそれを狙っているんだ。
騎士団は城を守っている。その職務内容故に、貴族の子息ばかりだ。なら平民はどうするのか?
街を守る衛兵だ。衛兵になるのだって試験はある。それにパスした者だけが衛兵になれる。
貴族と平民、その差は大きい。騎士団は貴族としてのマナーだってバッチリだ。しかも幼い頃から学問だけでなく、剣術だって教育されている。
だが、衛兵はそうはいかない。マナーも入団してから多少は教わるらしいのだけど、それでも平民だ。マナーなんて重要ではない。
剣術だってそれよりも体術の方が得意な者も多い。だって剣術なんて教わっていないのだから、自分の身体で戦う方が慣れていたりする。
で、その騎士団副団長だ。副団長の娘がちょうど俺と同じ歳らしい。
「ラウのことは公にはしていない。だが、0歳の時の事件で知ったのだろう」
「そうッスね」
えっと俺のことを公にしていないというのは、父に子供がいるかどうかを普通は知らないのかな?
「ラウ、そうじゃないわよ。子供はいるけど男女どちらかとか、何歳だとかを公にはしていないの。お城に行ったりしているから、それで知った者もいるでしょうけど。公には発表していないのよ」
「ろうしてれしゅか?」
「こんなことが起こらないようにね」
あー、そうなのか。3歳になって、何度か城に行っているもんな。王子や王女と一緒にお茶していたりするし。
いや、そう言うけど0歳の時に思いっきり目立つことをしているぞ。城の中を高速ハイハイしたじゃないか。あれは公とは言わないか?
「ずっと隠しておけるものでもない。それは仕方がないのだ。だが……」
「坊ちゃんはまだ3歳ッスからね。3歳からこれだと将来思いやられますね」
「だから早く決めてしまいましょうね」
これはアコレーシアのことだな。婚約の話を持っていくと話していたから。
俺の婚約が決まってしまえば、どうしようもないだろうし。
「そうだな、その方が良いか。しかしな」
「ええ、あなた。それもあちらにちゃんとお話ししないといけませんわ」
「ラウの婚約者になるということは、あちらにも危険が生じる可能性があるのだからな」
危険だって? それは嫌だな。アコレーシアを危険な目に遭わせたくはない。
「かあしゃま、きけんれしゅか? ぼく、あこちゃんをきけんにしてましゅか?」
「ラウ、それは仕方ないのよ」
「けろ……」
俺が動くとそれだけ周りが注目する。今、俺の存在を公にしていなくても、こんな状態なんだ。
俺の婚約が決まったとする。それでも諦めきれない者は、なんとかして婚約者の座を奪おうとする。そういう意味での危険らしい。
「それはラウだけじゃないの。高位貴族には付き物なのよ」
「ああ、そうだな」
「私だってお父様と婚約が決まった時は色々あったのよ」
「しょうなのれしゅか?」
「そうだな、どこの令嬢か発表していなくても、どこからか情報が漏れる」
高位貴族なら付き物だと言っても、父は王弟だ。高位中の高位貴族だ。何しろ、王族だ。て、俺もそうなるのだけど。
「今のところ、あちらには何もないッスよ」
母と一緒にアコレーシアのバースデーパーティーに出席してから、あちらにも秘密裡に護衛が付いていると話していた。そこからの情報だろう。
前の時はどうだったのだろう? 今と同じ様に、アコレーシアにも護衛が付いていたのかな? 今回みたいに、パーティーに呼ばれたりはしていないけど。
前の時とは違うことが増えてきた。
アコレーシアのパーティーもそうだけど、城に呼ばれることもそうだ。覚えていなかっただけか? いや、それはないはずだ。
だって前の時の俺は、今みたいに王子や王女とお茶をしたりしなかった。そんな仲ではなかった。
「ラウ、気にしなくて良い。だが、警戒はするべきだ」
「とうしゃま」
「そうよ、ラウを守るのも私達の役目なのですもの」
「かあしゃま。けろ、ぼくはめいわくを、かけたくありましぇん」
「じゃあ、アコちゃんに会うのを我慢できる?」
「えっちょ……」
それは嫌だなぁ。だって会いたい。毎日は無理でも、アコレーシアにお花を持って行きたいんだ。
だけど今度こそ、本当に大事にするんだと思ったら我慢も必要なのか。
仕方がないのか……と、肩を落とし膝の上に置いた自分の手を見つめる。
「がまんしましゅ」
「我慢も必要だけど、今はしなくても良いわよ」
「かあしゃま」
「そうだぞ、ラウ。毎日花を持って行きたいのだろう?」
「あい」
「ふふふ、あなたの子ですわね」
「何を言う。情熱的だと言って欲しいぞ」
「あら、そうですか? 狙ったものは逃がさないと言うのかと思いましたわ」
「なんだそれは、人聞きの悪い。私もラウも一途なんだ」
ああ、父もそうだったのだろう。何しろ、父の気持ちに負けて母は婚約を決めたと言うし。
お読みいただき有難うございます!
活動報告にも書きましたが、ラウがネット小説大賞入賞しました!やったね〜!
ツギクル様からの書籍化になります。
1章丸々0歳児なのに、よく決めて頂けたなと^^;
より面白く楽しんで頂けるように頑張ります!
あともう一つプレゼントがあるのですが、もう少しお待ちください(⌒-⌒; )
宜しければ、是非ブクマや評価をして頂けると嬉しいです!
宜しくお願いします。
リリは、第4回アース・スターノベル大賞でした。リリの①て2023年6月1日発売だったのです。去年なんですね。もっと経っている気がします。
もうリリは10歳になりました。あのラストまであと少しです。10歳のリリも可愛い♡