136ー国が欲しい
『ちちしゃまは、こわいみゃ。またガシィッと、ちゅかまれるのはいやみゃ』
それって、ミミがまだやって来てすぐの頃だろう? そんなに前のことをまだ根に持っているのか?
『ちちしゃまと、ありしあしゃまは、こわいみゃ』
余程、怖かったらしい。ミミがちゃんとしてたら怒られたりしないさ。
『みみはいちゅも、ちゃんとしてるみゃ』
いやいや、そうか? もう少し頑張らないとな。
「ぴよ」
あ、都合が悪くなったら『ピヨ』だ。
この日、俺が発見したことが切っ掛けになって騎士団の大捜索作戦が始まり、あっという間に呪いを掛けた者も掛けられた者も発見した。この城を守っている騎士団は優秀だ。
だけど、偶々なんだ。俺が今日見つけたことで、解呪してもらえた人は幸運だったのかも知れない。
だって、気付かずに呪いを掛けられたままの人だっているはずだ。普通に考えて、必ずいるだろう。
今日のことは氷山の一角だと思って良いと思う。俺達が気付かない内に、あの国は一体何をしようとしているんだ?
「ラウ、どうした? 疲れたか?」
「いえ、とうしゃま。あのくには、なにがしたいのれしょう?」
「この国が欲しいんだ」
「え……」
それってとっても単純明快な答えだぞ。そのために懲りずに、何度も何度も仕掛けてきているのか?
「ラウ、デオレグーノ神王国のある場所は知っているか?」
「えっちょ、このくにより、じゅっときたれしゅ」
「そうだ、よく勉強しているな」
デオレグーノ神王国はこの国の北側、魔族の国との境にある山脈に近い国だ。北側にあるだけあって、冬が長く厳しい国。だから農作物を作れる期間が限られているんだ。
そして、土地もそんなに豊かではない。国土の大半が冬になると凍り付く、厳しい土地の国なんだ。その代わり鉱石が採れる。
魔族の国は魔素濃度が高い。そのため、同じ鉱石でも魔鉱石に変化する。それはどの国でも欲しい物だ。その魔鉱石になる前の段階の物が、デオレグーノ神王国では採れる。
北の山脈にある鉱脈が、続いているのだろうという見解だ。
それは武器や防具に加工されたりする。また、各国の防御壁に練り込まれていたりもする。
だから必要な物なんだ。ただ、それが採れるのはデオレグーノ神王国だけじゃない。その隣の国からも採れる。その隣の国というのが、俺の住む国クライネン王国だ。
北の山脈にある鉱脈の末端が、この国にあるのだろうと考えられている。その上この国は気候も穏やかだ。だが、鉱石が大量に採れるわけではない。それに頼ってもいない。
農作物をより品質良く量産するか、専門に研究している機関もある。そのおかげか、この数十年と凶作には見舞われていない。害虫や冷害に耐えられるようにと改良しているんだ。
農作物だけじゃない。商人だって自分達が如何に商売し、利益を得るか努力を惜しまない。国も商売を始めて数年は、税を緩和する政策を出したりして後押ししている。
そんないろんな部署での努力が良い具合に回っている。
「デオレグーノ神王国から見れば、我が国は裕福に見えるらしい。気候が良いから楽をしているとでも思っているのだろう」
だから欲しいと。自分の国にはない物だから奪う。しかも手段を選ばない。
そうじゃないだろうという話だ。
貿易をすれば良いだけなんだ。その貿易をあの国はしない。ほとんど鎖国状態だ。
鉱石は売っている。その時に農作物を買えば良いだけの話だと思うのだが、それをしない。
外貨は得たいが、自国の金を減らすのは嫌なのか? そんな都合の良い話が、まかり通る訳わけがない。
その上、国の王は神の使いで自国は神に一番近い国だと信じられている国だ。態度も横柄だ。おまけに呪術を扱うとなると、周辺諸国から好かれるわけがない。
手っ取り早く、お隣のこの国を狙ってきたのだろうけどそう簡単に行くはずがない。
父がしっかり監視している。王だって危険な国だと思っている。
俺だって、前の時の戦を考えると良い感情はない。だけどなぁ、一度あの国の王に会いに行こうと思っているし。
「ラウ、何を考えている?」
「えっちょ、なんれもないれしゅ」
「無茶をするんじゃないぞ。ラウはまだ3歳なんだ」
「わかってましゅ」
まさか俺がデオレグーノ神王国の王に会いに行こうと考えているなんて、夢にも思っていないだろう。内緒で会いに行くけどね。
なんなら0歳の時に行こうと思っていたんだ。だけど、言葉が通じない。と、いうか俺は喋れなかった。だから我慢した。だけど、そろそろ良いんじゃないか?
「ぴよ」
なんだよ、ミミ。だから念話があるだろう?
『らから、わしゅれてないみゃ』
俺はなにも言ってないぞ。もしかして、本当に忘れていたのか? いい加減、覚えな?
『みゃ、わしゅれてないみゃ!』
はいはい、で?
『しぇいれいじょうおうが、いってたみゃ。もっとちゃんと、しゃべれるようになるまで、まつほうがいいって、いってたみゃ』
あー、そういえば言ってたな。魔王もそう言ってた。なにしろ、あの国の王は念話が使えないから。
『ふちゅうは、ちゅかえないみゃ。らうみぃは、とくべちゅみゃ』
え、そうなの? でも母とか使えそうだぞ。
『しょうらった! ありしあしゃまもとくべちゅみゃ』
また忘れていたな、ミミ。