133ーだからミミは
「こらッ! アンジー! 何しとるんじゃー!」
「だって老師、遅いッスから! じっとしててくださいよ!」
「降ろさんかぁーーッ!!」
アンジーさんは老師を抱っこしたまま、走って行ってしまった。
このことが後に噂になったとかなんとか。老師が頬を染めて、『銀花男子』にお姫様抱っこされていたと。
父も一緒に行くものだとばかり思っていたのだけど、行かずに俺を呼んだ。
「殿下、申し訳ありません。ラウも連れて行きます」
「叔父上、ラウはまだ3歳だよ」
「ええ、大丈夫です。私が一緒にいます」
「そう? ラウ、気を付けてね。また城に来てほしい」
「え、らう。いっちゃうの?」
「あい、れんか、りーぬ、またれしゅ」
なんだか分からないのだけど、父が一緒に行くと言うから俺は王子と王女にペコリと頭を下げた。
父に抱き上げあられて、城の中へと急ぐ。俺はお姫様抱っこじゃないよ。
「とうしゃま、なんれしゅか?」
「ラウ、術者を探したいのだ」
術者ということは、呪いを掛けた方か。騎士団がまだ捜索していると言っていた。
「どうやら、数人いるらしいとは分かったのだが、なかなか拘束できん」
騎士団が捜索して、3人の術者が入り込んでいると分かったらしい。何度も取り押さえようとして、上手く逃げられている。
何も手掛かりがないというのに、よくそこまで捜索して絞ったものだ。この国の騎士団は優秀らしい。
そう言えば俺が0歳で誘拐された時に、助け出してくれたのも騎士団だ。しかし、俺を背後から剣で貫いたのは騎士団長の息子だ。
これって俺はどう思えば良いのかな? まあ、その人の人間性によるということにしておこう。
父は俺を抱っこしたまま、城の中を走る。てか、闇雲に走り回っても見つかるものでもないだろう?
「とうしゃま、いるところが、わかっているのれしゅか?」
「城の外側だとだけ分かっている。王族がいるような奥へは、普通は入れないからな」
城の外側には貴族が色んな手続きをするための部署がある。そこまではこの国の貴族だと身分証を見せれば入ってこられる。
俺達がいた中庭、そこは一般の貴族達は入れない場所だ。
この城で働いている人でも、ある程度の地位のある人でないと入れない。そんな場所には、入り込んではいなかったらしい。それは良かった。
だけどいくら外側だといっても城は広い。馬車停めがあったり馬を預ける馬留があったりする。そっちまで考えるとしたら、捜索範囲が広範囲になってしまう。
何かできないか? えっと、確か魔法の練習をしていた時にミミに教わった気がするぞ。ミミ、何かあったよな?
『なんみゃ? なんのはなしみゃ?』
な、こういうところだ。俺と父の話を聞いちゃいない。きっとリンリンやフェンだと、こんな反応ではないだろう。あ、そうだ。フェンだ。
「とうしゃま、ふぇんれしゅ」
「フェンがどうした?」
「きっとさがしぇましゅ」
「ああ、そうだな。フェン」
「おう、どうした?」
父の肩のところ、何もない空間からニュゥッとお顔を出してきたフェン。空間に猫ちゃんのお顔だけが浮いているという、ホラーな登場の仕方だ。
いつもニュゥッと出てくる、カラスのような真っ黒な翼を持つ黒い猫さんの見た目をした父の使い魔だ。
「フェン、探索できるか?」
「おう! 任せとけ!」
な、ほら。フェンはミミみたいに『何のことだ?』なんて聞かないだろう? ここがミミとの違いだ。ミミ、分かってるのか?
「みみらって、わかってるみゃ!」
「こら、ミミ。喋るんじゃない」
「らってちちしゃま、だれもいないみゃ。ふぇんらって、しゃべってるみゃ」
「念のためだ。フェンも姿は消しておいてくれ」
「おう! 了解だ!」
このサクサク話が進む感じが羨ましい。ミミだと一々説明しないといけないだろう。ミミもこうなって欲しいぞ。
『なにいうみゃ! みみはてんしゃいみゃ』
おう、今のところ天才っぷりを発揮していないけどな。
『らうみぃにはわからないみゃ!』
なんでだよ、そんなことはないぞ。
『え、しょうみゃ?』
そうだよ。ミミとそんな言い合いをしているが、父はフェンに指示を受けているのだろう。目的地があるかのように、迷わず先を急いでいる。
「ラウ、そこの角を曲がった辺りに一人潜んでいるらしい」
「あい」
て、え? 俺なの? 俺、どうすんの? いや、拘束したいのは分かっている。けど、俺が何すんの?
「ラウ、バインドできるか?」
「やってみましゅ」
ああそっか。バインドか。それなら任せてくれよ。
父が角を曲がったところから、様子を窺う。
どこにいるのかだ。えっと、何かできそうな気がする。ほら、レーダー探知機みたいにさ。
魔力を空間に満遍なく薄く行き渡らせる。反応がよく分かるように、立体的な地図みたいなのを頭に浮かべて。
これは俺の前世が役に立った。この世界にレーダー探知機なんてないからな。
「らうみぃ、なにしたみゃ?」
「みみ、しゃがしてるの」
「なにをみゃ?」
「らからぁ、のろいをかけた、やつだよ」
「みゃみゃ、しゃがしてるみゃ? ちゅかまえるみゃ?」
「そうらよ。さっきからそれをいってるのに」
「しょうみゃ?」
ほら、ミミは呑気だ。理解したからといって、何かをするわけでもない。俺の肩に止まってじっとしている。