131ー眠れんわい
ミミの事が分かるのか?
「あい、しょうれしゅ」
「ほうほう、なら精霊の使い魔か何かかのぅ?」
「あい」
て、使い魔を知っているのか? 普通は姿を見せないのに。
「アリシア様と王弟殿下も、持っておられるのぉ」
「しってるのれしゅか?」
「ふぉッふぉッふぉッ、ワシは分かると言ったじゃろう? まあお二人の使い魔は見えないんじゃけどのぉ」
見えないのかよ! え、ならどうして知っているんだ?
「なに、直接アリシア様から教えて貰ったんじゃよ」
また、ふぉッふぉッふぉッ! と笑っている。母が話したという事は、それだけ老師を信用しているのか。
なんて思ったのだけど、老師の話を聞いたら全然違っていた。
老師は、姿を消しているリンリンやフェンは見えない。でも、母や父の肩のところが、何故か空間が歪んでいるように見えるのだそうだ。
それがとっても気になった老師は、父と母に詰め寄ったらしい。
「なんじゃぁッ! それはなんじゃ!? どうなっておるのじゃ! 教えてくれるまでここを動かんからのッ! ハッキリさせんと今晩寝られんわい!」
と、まるで子供が駄々を捏ねているみたいだ。
だけどその勢いに負けて、母が話したのだそうだ。
「見えんがの、なんじゃこれは? と思うような感じだったのじゃ。これはハッキリさせんと、モヤモヤして夜眠れんぞと思っての」
なんて言っていた。それだけ気になったのだろう。
それにしても、空間が歪んで見えるなんてそれだけでも凄いことだ。リンリンとフェンは完璧に姿を消している。気配さえ消しているんだ。
魔力量が膨大だと言われる、大賢者のジョブを持つ俺でも全く分からなかったのにだ。これは魔力量の問題だけじゃないのではないか?
「ワシほどになるとのぉ、経験値が違うのじゃ」
そう言いながら得意気に胸を張っていた。経験値だけじゃないだろうけど。その人の持つ才能じゃないだろうか?
老師はきっと白魔術師というジョブに真摯に向き合い、磨いてきたのだろう。だからこその能力だ。
「で、なんで鳥さんなんじゃ? そこが分からんぞ」
「しらないの」
「知らんのか?」
「しょう。ぼくがあったときはもう、とりしゃんらったから」
「しかも実体があるのは、珍しいのではないかのぉ?」
「うん、しょうなんらって」
「そうか、やはりそうか!」
「みみはじぶんれ、てんしゃいらからっていってるよ」
「ふぉッふぉッふぉッ! 天才か!?」
「ぴよ?」
「ピヨしか言えんのかの?」
「ううん、しゃべれるけろ、おそとれは、ぴよなの。とりしゃんらから」
「ふぉッふぉッふぉッ! これは楽しいのぉ! 長いこと生きておるが、こんなに楽しいことは初めてじゃ!」
そうか? 俺はふざけたことだと思うぞ。なにしろ精霊界に行ったら、ミミは大きな鳥さんになるんだぞ。俺が背中に乗れるくらいにだ。
俺達が四阿に着くと、老師がわざわざ希望した通りスイートポテトが用意されていた。
待てよ、スイートポテトって日本発祥だと聞いた覚えがある。この世界にどうしてあるんだ?
俺には前世の記憶もある。だからスイートポテトは、とってもメジャーなスイーツなんだけど。
「ラウはスイートポテトを知ってるかな?」
「れんか、たべたことないれしゅ」
「あまくて、おいちいのよ!」
俺はこの世界では食べたことがない。前の時でもだ。元々あまり甘いものを、好んで食べなかったけど。
「ラウは甘いものが、あまり好きじゃないみたいだからね」
「れんか、しょんなこと、ないれしゅよ」
「そう? でも前に来た時もチーズケーキを選んでいただろう?」
よく覚えているなぁ。王子ってまだ6歳なのに、もう大人みたいじゃないか。
俺よりずっと教育されているのは分かる。王太子教育があるんだ。それが始まっているのかは知らないけど。
「ぴよ」
はいはい、分かっているよ。桃ジュースだろう? さっき飲んだはかりなのに。
仕方なく俺は、給仕をしてくれているお姉さんに聞いてみた。
「ももじゅーしゅは、ありましゅか?」
「はい、ございますよ」
「とりしゃんにあげたいのれ、おしゃらにいれてほしいれしゅ」
「かしこまりました」
ミミが満足そうに、ピヨと鳴いた。
本当にどこでもどんな時でも、ミミは桃ジュースが最優先だ。
「桃ジュースが好きなのか?」
「あい」
「あれか、ピーチリンじゃな?」
「おー! しょうれしゅ」
凄いじゃないか!? ピーチリンまで知っているのか? どれだけ勉強しているんだ。この爺さんは本当に面白い……いや、素晴らしい。
「あれじゃ、アリシア様に聞いたんじゃ」
なんだ、聞いたのか。俺の感動を返して欲しいとちょっぴり思った。
「老師、ピーチリンて何ですか?」
「殿下はまだ教わってないですかの? 精霊界にあるといわれている不思議な果物ですぞ」
そうそう、一口食べると誰でも夢中になるほど美味だと言われている。皮は薄く真ん中に丸い種があり、その周りにジューシーで甘い果肉がある。桃の何倍も美味しいとか。
人が食べると寿命が延びると言われている。だけど、誰も食べたことがないから、本当はどうなのか分からないって果物だ。
精霊の大好物だ。桃のように見えるけど、桃よりとっても大きい。