129ーお髭がカピカピ
「老師、大丈夫なのか?」
「気を失っただけじゃ。すぐに気が付くだろうよ。それにしても、あの国は何をしてくれとるんじゃ。また入り込んでいるのだろう?」
「そうなりますね」
この城の中にも入り込んでいることになる。
「一体あの国は何がしたいんじゃ。殿下、頼むぞ」
「ええ、もちろん調べますよ。1人残らずとっ捕まえてやります」
「おう! その意気じゃ!」
そして、ふぉッふぉッふぉッ! と、身体を揺らしながら笑っている。豪快な爺さんだ。
「ラウ坊、ワシとオヤツを食うか? チョ〜美味いスイートポテトがあるぞ」
「えっちょぉ、れんかとあっていたのれしゅ」
「れ、れんか? れんかって何じゃ?」
「王子殿下と王女殿下に、お会いしていたんだ」
「ほうほう、ちびっ子友達か」
友達なんかじゃないぞ。俺は言われるがまま連れて来られただけだ。
「ラウ坊……いや、ここで言うのは止めておこう」
「老師、何ですか?」
「いやいや、ラウ坊は良い子じゃと思ってな! ふぉッふぉッふぉッ」
とってもわざとらしい。ごまかしきれていない。笑いでごまかした感じか?
「よしッ! 爺が一緒に行こう!」
「老師、何を言ってるんッスか!?」
「なんじゃ、アンジー。お前さんまだいたのか」
「そりゃいるッスよ。ラウ坊ちゃん行きましょう。相手にしていたらキリがないッス」
父が師団長に男を頼んでいた。意識が戻ったら、取り調べをしたいと。いつ、どこで呪いを掛けられたのか、それを明確にしたい。
「まあ、何も覚えておらんだろう」
「やはりそうですか?」
「呪いを掛ける者なんてそんなもんじゃ。碌な奴はおらん」
手っ取り早くあの国の集落を潰してしまえば良いものをと、とんでもなく物騒なことをモゴモゴとつぶやいている。
なかなかイケイケな爺さんだ。その老師も一緒に王の執務室に戻ってきた。
戻る途中も注意深くすれ違う人達を見ていたのだが、呪いに掛かっていそうな人はいなかった。
だけど俺は、王子と一緒にいる時に何人も見掛けたんだ。絶対に、まだいるぞ。
「邪魔しますぞー」
口ではそう言いながら、とっても気軽に慣れた感じで執務室に入って行く老師。怖いもの無しか?
「老師が一緒だったのか? ということは、ライ」
「はい、陛下。呪いでした。例の集落の者が入り込んでいます」
俺が見つけた特徴を、父が説明してすぐに騎士団が動いた。城の中をくまなく調査し、呪いに掛かっていそうな人を回収する。
それと同時に、呪いを掛けた奴の捜索も始まった。
「ラウ、よく気が付いたね」
「あい、へんらったれしゅ」
「ラウに言われなきゃ、僕は気付かなかったよ」
「れんかは、いちゅもここにいるかられしゅ」
「そうかな?」
「あい。ぼくは、めじゅらしいから、いろんなとこをみてました」
「なるほど、そうか。いつも見慣れた光景だから気付かなかったのか」
「しかし、陛下。そうだと分かって見ればよく分かります。見つけるのにそう苦労はないでしょう」
「ライ、そうなのか?」
「はい、明らかに挙動不審でした」
一緒に行くと言って付いて来た老師が、ソファーに落ち着いて座りズズズーと音を立ててお茶を飲んでいる。
ふぅ〜と、一つ大きな息を吐き、落ち着いた様子で当然のように話し出した。
「ワシは髭が自慢だったのじゃ」
話が飛びまくっている。髭の話なんて、誰も一言も言ってない。
「え、おひげないれしゅ」
「そうじゃろう? 茶を飲んだり、スイーツを食べたりする時に髭に付くんじゃ。生クリームとかが付いたら、質が悪いってもんじゃない」
ふふふ、質が悪いってなんだよ。そりゃ、髭につくだろう。
「だからな、婆さんに髭を剃れって怒られてしもうた」
「ふふふ」
「ひどいじゃろう?」
「きっといろいろ、ちゅいてたんらね」
「そうじゃ。カピカピになっとったわい」
カピカピなのか? そうなる前に拭けば良いのに。
「それはそうと、ラウ坊。その肩のは精霊か」
またまた話がぶっ飛んだ。しかも不味い方向にだ。
「え、えっちょぉ」
「ラウ、老師には隠せない」
「とうしゃま」
でも白魔術師なのだろう? 白魔術師にそんなスキルがあったか?
「老師には分かるのだそうだ」
「わかるのれしゅか?」
「そうじゃ。ワシの眼はごまかせんぞ。ふぉッふぉッふぉッ」
またズズズーとお茶を飲む。何だろう? どうして見えるのかな?
「ぴよ」
ん? 何か言いたいのか? だからミミ、こういう時は念話だと言っているだろう? また忘れているのか?
『みゃ! わ、わ、わしゅれるわけないみゃ!』
ああ、完璧に忘れていたらしい。それで、何だ?
『まじゅつを、きわめたひとのなかには、しぇいれいらと、わかるひとがいるみゃ』
へえ~、そうなのか。
『このじーしゃんは、もっとみえるみたいみゃ』
ほう、何が見えるのかな?
『みみが、しってるわけないみゃ』
なんだよ、分からないのか?
『いちいち、きにしないみゃ』
いや、そこは気にしようぜ。
『どうれもいいみゃ』
あら、そうなの?
『しょれより、ももじゅーしゅみゃ」
出たよ、ミミの桃ジュースが。あー、それはまだかな。
『みゃみゃみゃ! まらなのみゃ!?』
「ぴよ!」
なんでここだけ『ぴよ』て鳴くんだよ。