126ー何だあれ?
「私は姿を消しているでしょう? だからお邸でしかもらえないのよ~」
「みみは、らいじょぶみゃ」
「そうね、鳥さんですものね~」
「みゃ! らからとりさんじゃないみゃ。しぇいれいみゃ」
「はいはい、分かっているわよ~」
それだけ言って、またキララ~ンと姿を消した。どう見ても、リンリンの方が頼りになりそうだ。
城に着くと、父は別行動だった。王に直接報告するらしい。
俺と母は城の奥、王族の生活圏へと案内される。
「私は王妃殿下とお会いしてくるわ。ラウ、大丈夫かしら?」
「あい」
「じゃあ、フク。お願いね」
「はい、お任せください」
母とも別れて、おフクと一緒に案内される。案内された部屋で大人しく待っていると、王子と王女が手を繋いでやって来た。
前に来た時は、手を繋ぐのでさえ慣れない感じだったのだけど今日は違う。二人仲良さそうに手を繋いでいる。心なしか、王女の表情も明るい。
「ラウ、久しぶりだね」
「らう! あしょびましょう!」
「おうじれんか、おうじょれんか、こんにちわ」
「らう、ちがうわよ! あたちは、りーぬよ」
「あい。りーぬ、げんきらった?」
「ええ。おにいちゃまが、ときろきあしょんれくれるのよ!」
「しょれはよかったね」
「この前ラウが来てから、時間があれば一緒に遊ぶようにしているんだ」
「りーぬ、よかったね」
「ええ!」
「リーヌはまだお友達がいないからね」
そりゃ、王女殿下なのだもの。まだちびっ子だから、自由に動ける範囲も限られるだろうし。だからこそ、王妃の影響が大きいんだ。
あのまま王妃しか頼る人がいないとなると、前の時のように歪んで成長してしまうのだろう。人に嫉妬し、妬むような人に。
「ラウは気付いていたのだろう?」
「なにれしゅか?」
「母上だ。リーヌに躾けだと言って体罰を与えていた」
「えっちょ、まえにめのまえれ、りーぬをたたいてました」
「そうなのか。あれは駄目だ。リーヌはまだ小さいのに」
「あい、しょうれしゅ」
それに気付いてくれたのなら、少しは安心だ。王子がリーヌの味方になってくれたら、また違う未来も期待できそうだ。
前の時は、王女は独りぼっちだったのかも知れない。城の中だけという狭い世界で、王妃の言うことが全てで。
「また庭に行こう」
「おにいちゃま、おしょとにいけるのれしゅか?」
「ああ、ラウと一緒に庭に出よう」
「うれちいれしゅ!」
もしかして、城の庭に出るのも自由じゃないのか?
「リーヌはまだ小さいから、本当に自由がないんだよ」
「しょうなのれしゅか……」
「だからラウ。時々遊びに来てくれたら嬉しい。僕もラウに会いたいし」
「あい」
まぁ、時々な。俺はアコレーシアにお花を持っていくのに忙しい。
王子と王女のお付きの人達と一緒に中庭へ向かう。そこで俺は、アレッ? と引っ掛かった。
城の中を歩いている人達、男女関係なく様子のおかしい人がチラホラと見掛けるぞ。
ミミ、どうだ? ミミにも分かるか?
「ぴよ」
だから、ミミ。念話ができるだろう? 何度言っているんだよ。
『しょうらったみゃ! おかしいみゃ?』
どう見てもおかしいだろう? あの生気のなさだ。時々暗い顔をして俯き加減で、しかも足元もしっかりとせずフラフラとしている人がいる。
忙しいからか? いや、違う。あれは異常だ。じっと目を凝らして見ていると、背中から身体に纏わりつくような黒い影が見えた。あの黒いものは何だ? どうして誰も気付かないんだ?
「ぴよ」
ミミが辺りを見る。ほら、あそこを歩いている人だ。本当に時々なんだけど、そんな人が歩いている。
『あれは……みゃみゃみゃ! ばっとはいないみゃ!?』
え? どうしてここでバットなんだ?
『ばっとのほうが、くわしいみゃ!』
そうなのか? バットならどこかにいるだろう? バット、いないかな?
『いるなのれしゅ!』
ほら、いたぞ。どこだ?
『今日は木の下にいるのれしゅよ』
木の下……庭を見ても分からない。広い中庭で、木だって何本も植えてある。あんなに小さなバットを、見つけるのなんて無理だ。
『なんれしゅか? 敵襲れしゅか! えまーじぇんしーれしゅか!』
はいはい、落ち着こうよ。バットから見て分からないかな? なんだか生気のない人が時々いるんだ。今は俺達の少し前を歩いている男性がそうだ。あれは、城の文官か?
『あー、あれは呪いれしゅね~』
はぁ!? なんだって!?
『呪いに掛かっているのれしゅ。どこかに掛けたやつがいるのれしゅね』
おいおい、呪いとなると先ず頭に浮かぶのがあの国だぞ。
『デオレグーノ神王国れしゅ』
やっぱそうか。呪いなんてデオレグーノ神王国の、一部の種族しか使えないはずだぞ。確か俺が0歳の時の、あの事件でそう言ってた。
『魔族は使えるのれしゅよ』
え……まさか魔族の侵略か!?
『だから違うのれりゅ。デオレグーノ神王国らといったのれしゅ』
そうだった。だけど、魔族も使えるのならバットも使えるのか?
『バットは使えないのれしゅ。魔族の一部の種族だけなのれしゅ。魔王さまは別なのれしゅよ』
別ってなんだよ。
『魔王さまは全能なのれしゅ! なんれもれきるのれしゅ!』
マジか……じゃあ、魔王も呪いを扱えるのか。
『当然なのれしゅ! らって魔王さまなのれしゅ!』
その理由は良く分からないけど。とにかく、あれをどうするのか父に報告したいぞ。